リュナの過去
今回はリュナ視点です。
他者視点は不慣れなので、少し短めです。
温かい目で見ていただけたら幸いです。
「シュウ、アッシュも聞いて。」
私はこれから、自分の素性を明かそうとしている。もし素性が知れた時、シュウやみんなに嫌われたりしないか、って毎日思ってる。
もし知られた時に関係が崩れるのが怖くって。
でも、私は明かすと決めた。ヨルの言葉だって、誤魔化すことも出来たのにせず。
そして、意を決して告げた。
「私、竜人族なの。」
そう告げたら、シュウが、
「そうか、だから『半分』で『子孫』なのか。」
って言った。思っていた反応とは違う。
「どうして?私は竜人族だよ?人間じゃないんだよ?これを知ったらみんな私を避けるんだよ?どうしてシュウは普通でいられるの!?」
「どうしてって、リュナはリュナだろ?竜人でも何でもさ。いつも通りだろ?」
「だからって…。」
「なぁ、よかったら、何がリュナをそうさせているか、話してくれるか?」
「いいよ。でも長くなるからね。私は昔から周囲に避けられてきた。」
そう告げて私は話し始める。
私がまだ幼かった頃、私は街の孤児院に住んでいた。
ある日、孤児院の子と喧嘩をして、その子の肩を叩いた。
私は叩いただけのつもりだったのに、その子の肩は血を出していた。肩を押さえて泣く子に集まって行く人達。みんなが見ていたのは私の手だった。自分の手を見下ろすと、
そこには、赤く血に染まった鋭利な竜の爪があった。
それから私は追い出された。呪われた竜の子だ、と言われて。
まだ幼かった私には理解ができなかった。
この爪はなに!?どうして急に出て来たの!?どうして私は追い出されるの?ねぇ、どうして?
その後私は、奴隷に身を落とした。裏路地で倒れていたところを奴隷商が拾ったらしい。
食事は少なく、非常に不潔、排泄すらままならない環境だった。
そんな扱いに憤りを感じ、奴隷商に直談判した。すると、
「環境の改善?何を言っている。貴様らの様な最下級の奴隷でその扱いは良い方だぞ、さっさと仕事をしろ!」
その言い草に腹が立ち、私は奴隷商のその大きな腹を蹴り飛ばした。
そしたら、横に控えていた奴隷商の用心棒が私をボコボコにした。
「あんな奴、殺すのすら手間が惜しい。捨てておけ。」
私はまた追い出された。今度は雨の中、森のど真ん中に。
私は歩いた。歩き続けた。けれどその小さな足では、大した距離も進めず、雨で滑って転んだ。起きる気力もなく、倒れていると、焦った様な足音が近づいてきた。
「おぉ、雨の中可哀想に。傷跡がある…誰かに捨てられてでもしたか。それお主、名前はなんじゃ?」
私は抱き抱えられながら、掠れ声で答えた。
「リ、…リュナ。」
「リュナか。よあいよあい、リュナ。もう大丈夫じゃ。安心しておくれ。」
私はその言葉を聞くと、力が抜けてそのまま寝てしまった。
私が目を覚ますと、いつ振りか分からないふかふかのベッドと、玉ねぎのいい匂いがした。
匂いにつられて身を起こす。
「おぉ、起きたか。ほれ、温かいスープじゃ。これを飲んでゆっくり休め。」
「あ、あの、どうしてお爺さんは私に優しくするの?」
「それはリュナ、子供が森で一人倒れておるのに、助けぬ道理など無いじゃろう?」
「でも、私は、」
「竜人じゃろう、知っておるよ。倒れている時に爪や翼が出ておったからの。」
竜人、というのは知らない言葉だったが、何故か府に落ちて、納得することが出来た。
私を拾ってくれたおじいちゃん。その人は世で大魔導師だ、とか賢者だ、と言われる人物、マーリン=ベラトクスだった。
私はそれから、マーリンの家で魔法を学んだ。竜の力を操る方法も。竜の爪や翼は隠すことができるまで。
そして勉強を続けるある日、告げられた。
「リュナよ、お主、学院に通うつもりはないか?」
「学院、ですか?」
「うむ、わしは教えるのが苦手じゃから、今も本を使ってしか教えられんじゃろ?だから、学院じゃ。リュナの実力を伸ばすには、そこしか無いじゃろう。」
私はおじいちゃんを不安にさせないために明るく振る舞っていた。今の学院でのように。でも実際の私は、怖がりで臆病な小さな私。
だから学校には行きたくなかったけれど、マーリンのためにも行くしかなかった。
そこでシュウに出会った。みんなと出会った。みんなとの毎日は本当に楽しかった。
だからそう思う反面、本当のことを知られるのが怖かった。
でも、話した。私が竜人であることを。私が竜人だと知れば、いつも周りは私を避けた。追い出した。
それでも、シュウはいつも通りだと言ってくれた。慰めてくれた。
話しながら泣き崩れる私を抱きとめて、支えてくれた。
シュウがとても大きな存在に見えて、顔を直視できなかった。
「ありがとう、シュウ。」
そう言うのが精一杯だった。
「リュナはリュナだ。それは変わりはしない。そのままのリュナでいいんだ。せめて、みんなの前では、本当の自分でいてくれよ。」
その言葉がありがたかった。
「シュウ、これからも一緒にいたい」
「もちろんだ。竜人でも何であっても、リュナは一緒にいてくれて良いんだからさ。安心してくれよ。」
シュウの言葉に安心した私の意識は、闇の中に落ちた。
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「お、目が覚めたか。」
私が目を覚ますと、そこは医務室だった。
「シュウが運んでくれたの?重かったよね。ありがとう。」
「いやーシュウ君がお姫様抱っこで人を連れてきた時はおばちゃん、ビックリしちゃったよ。」
お姫様抱っこ、と聞いて頬が熱くなるのを感じた。
と、いうか、冷静になって考えたら、私とシュウのあのやり取りって、かなり恥ずかしいことじゃない?
『これからも一緒にいたい』なんてほとんどプロポーズじゃない!私のバカバカ!
「そ、それはもういいだろ。それより、どうする?リュナはここに残るか寮に帰るか、だが。」
「え…っと、寮に戻ろうかな。遅くなって、あの子も心配してるだろうし。」
ヤバい、恥ずかし過ぎてシュウの顔が見れない!
それはシュウも同じらしく、目を逸らしていた。
「アンタたち、青春してるねぇ。」
医務の先生のからかうような一言に、二人して赤面した。
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「リュナ、本当に心配しなくていいからな。いつものみんなだって、受け入れてくれるさ。」
寮へ戻る道で、私が下を向いているのを、憂いととったらしい。ただ恥ずかしいだけだよっ!
「うん。みんなのこと、信頼してみる。あ、シュウ、あのことはいつものみんな以外に絶対に話さないで。」
「分かった。リュナには悪いが、みんなまだ竜人への差別や恐怖が完全にない人とは限らないしな。」
「うん。そろそろ分かれ道だね。じゃあね。」
「待ってくれ。精霊との練習、今日の場所にまた来てくれないか?」
「うん、分かったよ。シュウ、また明日ね。」
寮では同室の子がかなり心配そてくれていた。
夕飯を食べ、お風呂に入って寝る。
つもりだったのだけど、なかなか寝付けない。
「私、シュウを好きなっちゃたかも。」
声に出して自覚してしまう。これが恋、だと。
「しょうがないよね。あんな時に優しく声を掛けられたら。
カッコいいんだもん。惚れちゃうじゃん。」
開き直って敢えて声に出す。
「シュウも私を好いてくれるかな?そうだといいな。」
その日私がみた夢はとても幸せな夢だった。
夢の内容?乙女の秘密だよっ!
そして夜が明けた。
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作者は狂喜乱舞します。