第八話「焼き魚定食と菓子作り」
今更ながら、令嬢が使用人を二人だけしかつれてこなかったのは無用心ではないかと思った。町の中なら安全だと思ったのだろうか、それとも私が調べなかったから気付かなかっただけでまわりに護衛でもいたのかもしれない。
さて花壇作りも一段落ついた。次はなにしようかと考え、なんとなく空を見ると朝日が昇っていた。私は菓子の材料を買いに行こうかと思ったが、先に朝食をとることにした。屋台で買った物がまだまだある。そこでどうせならどこかの屋台で何か出来たてのものを買って食べようかと思ったが、アイテムボックスの中は時間が経過しないので中に入っている物は出来たてだと思った。しかし菓子の材料を買いに行きたい。どうせ買いだしに行くならついでに朝食をとりたいと思った。そして屋台ではなくレストランに行こうかと思った。そこで前焼肉定食を食べた店を思い出した。とたん私は朝食として定食を食べたくなった。ご飯と焼き魚、味噌汁に漬物などだ。ご飯はあった、魚も屋台にはあった、味噌汁と漬物はあるだろうかと思い、あればいいとも思った。私は家の戸締りをして、まず朝食にしようと以前行ったレストランを目指した。
急ぐほど腹が減っていなかったので前のように風魔法は使わない。のんびりと歩いて行った。散歩に丁度いい天気だと思いながら。何事もなく店に着いた。良い匂いがすると思いふと気付いた。味噌の匂いだ。私は期待に胸弾ませながら中へ入った。そして中の客らが何を食べているかを確認した。まさに私の考えていた定食があった。とてもうれしくなった。そしてふと思った。こんなに日本っぽいものがあるなら自分以外にも日本から転移、あるいは転生した人がいるのかもしれないと。まあ考えても仕方ないとその思考を放り食事にすることにした。私は定食への期待でうきうきとしながらカウンター席へ向かい座った。
座ると早速定食を注文した。店員はどの定食かと訊いた。私はメニューを見た。私が欲しかっただろう定食は焼き魚定食と書いてある、なのでそう注文した。店員は了解してキッチンの奥へ行った。私はそわそわとしながら料理を待っていた。特にすることはなかった。しばし待つと店員が料理を持ってきた。待ってました。私はそう思い待ち遠しい思いをしながら、店員が料理を私の前に置くのを待っていた。料理を置いた店員がどこかへ行くと早速私は食べることにした。
まずは味噌汁だ。椀を持ち上げ、音を立てないようにすすった。うまい。だしがきいている。魚のだしだ。そして焼き魚を食べることにした。魚は開かれ骨がない。ということは味噌汁のだしの元はこれだろう。身をほぐし食べた。これもうまい。あゆのような味だ。咀嚼しながら飯茶碗をとり米を食べた。満足感が湧き上がってきた。私は食事を続けた。そしてふと思った。漬物がない。残念だ。漬物は何につけるんだったか、ぬか? ぬかって何? 私は知らなかった。
少し惜しかったが、実に定食であった。私はほぼ満足しながらそう思った。この店に通えばホームシックにもならないのではないか。だがメニューにない料理で食べたい物もある。魚の西京焼きとかだ。西京味噌はないだろうが似た物はあるかもしれない。なくても味噌に何か混ぜれば似るかもしれない。まあいきなり味噌の出所を教えろと店員にきくのは迷惑だと思う。まずこの店の常連になってからきいてみよう。そして店を出た。
次は菓子の材料だ。特に小麦粉だろう、後砂糖。料理屋の集まるあたりから、前雑貨屋があったほうに向かった。こっちに求める店がありそうな気がしたからだ。
しばし歩いた。看板に小麦粉や砂糖と書いてある店があった。食料品を売っているらしい店だった。私はそこへ入った。小麦粉と砂糖を買うのは当然として後はなにを買うべきだろうか。確か、早朝にはクッキーを作ろうとしたのだ。クッキーの材料であと必要なものは卵とバターだろうか。この店にないかとあたりを見回すと、どちらもあった。他にいるものはあるかと考え、調理器具を思いついたが更に店を探すのは面倒くさい。とりあえず魔法でいいか。もし喫茶店を本当にやることにして、店員を雇ったらその時に買えばいい。私は家へ帰った。
家が見える位置に来た私は帰ったら早速クッキーを作ろうかと考えた。しかし眠い気がしたので、昼寝、いや、昼まで寝ることにした。起きたらクッキーを作れば昼食に丁度いいだろう。
私は寝室へ行きベッドに寝転んだ。
目が覚めたら昼であった。私は体を起こした。のびをして、ベッドから下りた。そしてまだ少し寝ぼけた頭で、クッキーを作って食べようと思った。そう思ったら途端空腹が辛くなってきた。早くクッキーを作ろうと考えたが、よく考えるとそんなにすぐにクッキーは出来ない。先に屋台で買った物を何か食べることにした。私はキッチンまで歩きながら鳥の串焼きをかじった。
キッチンについた私はまず、串焼きの残りを食べた。串をアイテムボックスに入れ、クッキーの材料を出した。さあ作ろう。私は奮起した。そして知識が教えてくれるレシピ通りに作っていった。
まず土魔法でボウルを作った。その中にバターと砂糖をいれ風魔法で混ぜた。それがなめらかになったら、二つ目のボウルを作り卵黄を溶く。そしてそれを一つ目のボウルにいれまた混ぜた。混ざったら小麦粉を加え、練らないようにさっくりと混ぜ合わせる。それがひとまとまりになったら冷蔵庫にいれる。私はその冷蔵庫を作ることにした。まず土魔法で扉つきの箱を作った。そして真ん中の高さに物を載せるための網を作った。次に下に氷をいれようとしたが、その前に水になってもこぼれないよう石でふさいだ。そして氷をいれた。冷蔵庫の完成だ。これに生地をいれた。一時間ほど寝かせねばいけない。
その間に何をしようかと考えた。昼寝をしようか。そうだ、ハンモックを作ろう。場所はテラスは客の邪魔になる。屋上にしようと階段を上がった。
屋上に着いたらまずハンモックを吊るすための二本の棒を作った。折れないよう丈夫にする。棒だけでなく土台もだ。そして紐の網などないことに気付いた。ではシーツを代わりにしようかと思ったが、すぐにシーツはなかったことに気付いた。悩んだ結果、結局ハンモック作りはまた今度にして寝室で昼寝をすることにした。
目が覚めたら、クッキー作りの続きだ。打ち粉をした台に生地を載せて、土魔法で作った麺棒で伸ばしていった。7ミリメートルほどの厚さだ。また土魔法で抜き型を作り、それを生地に使っていった。それが終われば後は焼くだけだ。私はオーブンに魔法で火をぶちこんだ。ある程度温まったら生地をいれ十数分待つ。
無事にクッキーが出来上がった。食べてみるとさくさくしていてとても美味しかった。自分で作ったからそう思うのかもしれない。なんにせようまい。ふと窓の外を見ると気持ちの良い青空だった。私は残りのクッキーをテラスで食べることにして、外に向かった。
テラスの席に座って穏やかな気持ちでクッキーを食べていった。そして喫茶店はどうしようかと考えた。やってもいいしやらなくてもいい。まあ気が向いたらやるかと、思考をやめた。
そうしてぼーっとしているうちにふと思った。冒険者の仕事はどうしようかと。正直面倒くさい。だがそれをいったら喫茶店も面倒くさい気がした。では店員を雇って任せるかと思ったが、店員のあてはなかった。誰をどう雇えばいいか考えると、孤児院の子供達が頭に浮かんだ。彼らを雇ってみようか。まあ急ぎではない。のんびり考えよう。