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第二話「冒険者と孤児院」

 私は領主屋敷の門を出た。貴族にしては気さくな一家なのだと思うが、それでも貴族相手は気を使う。回復魔法が使えるものは貴重なようで、まだこの町を離れる予定はないと言うと領主一家はうれしそうにしていた。ちなみに礼として金貨を五十枚貰った。五百万円と考えるとかなりの額だ。さて依頼を受けたのは金を稼ぐためであったが、今回大分懐が暖まった。しかし依頼を放棄するのは気まずい。よってまた森へ狩りに行くことにした。


 前と同じように町から出た。そして風魔法を使い森まで移動した。森に着くと魔法で探る。猪を狩った。二回目にして割りと慣れた感じがする。いや魔法と知識のおかげかと慢心をやめた。さて、無事依頼用の猪は狩れたが、まだ朝である。一旦帰り依頼物を届けて別の依頼を受けるか、それとも何か他のものも狩ろうかと悩む。とりあえずまた周囲を魔法で探ることにした。すると変わった気配があった。私の知識は魔物だと言っている。魔物とは心臓の位置に魔石という石がある変わった生き物らしい。凶暴で見つけたらなるべく早く排除するべきだそうだ。しかし私は魔物と戦ったことなどない。一旦町まで帰り知らせるべきだろうか。それとも挑戦しようか。そう考えながら索敵を続けていると、魔物の近くに人間達がいることに気がついた。私はそちらに移動することにした。

 人間達に近付いた。近くの木の上に潜む。どうも女二人で、格好からすると私と同じ冒険者のようだ。彼女らは猪型の魔物を見ている。魔物は現在食事中のようだ。鹿を食べている。随分油断しているように見える。彼女らもそう思ったのだろう。弓を引き絞り放った。同時に放たれた矢は二本とも魔物の胴体に命中した。魔物が悲鳴を上げた。すぐに彼女達に気付き、振り向くと駆けた。あまり矢はきいていないように見えた。魔物の様子が予想外だったのか、二人とも固まっている。横取りなどと言うなよと思いながら、私はかまいたちを放った。寸分狂わず首を切った。血が出た、しかし傷が浅い。恐れられているだけあって、ただの猪とはわけが違うようだ。近くの木の上にいる私に気付いたようだ。木の幹めがけ走ってきた。揺らして落とそうとしているのだろうか。しかし無意味であった。いや無意味ではないか、ほぼ無意味だ。魔物が木の幹に体当たりをした。木が揺れる。私は風魔法で軽く宙を飛びしのいだ。魔物は衝撃でふらついている。そこにもう一撃かまいたちを撃った。先ほどよりも血が出た。だがまだ生きている。そこに二本の矢が飛んできた。先ほどの女達だ。私が魔物につけた傷を狙ったようだ。二本ともうまく刺さった。魔物は大分弱っているようでふらついている。そこに、更にもう一撃かまいたちを放った。命中すると、魔物は僅かに声を上げついに倒れた。


「ありがとう!」

「ありがとうございました」


 女の冒険者二人が礼を言ってきた。どういたしましてと私は言った。二人はちらちらと魔物の死体を見ている。どうしたのかと尋ねると、少し気まずそうにお互いを見た後で、悩んでから言う。取り分はいくらもらえるかと。なるほど、彼女らも攻撃したとはいえ助けてもらって分け前をくれとは言い難かったのだろう。私は三等分を提案した。


「えっ、いいのか?」

「ありがとうございます」


 二人の反応は対照的であった。一人は驚き、もう一人は冷静に感謝した。私はそれを受けた。解体を始める。二人も手伝おうとするが、私はさっさと魔法を使い解体した。


「魔法使いってすごいな……」

「本当ですね……」


 二人が感嘆している。私は得意げになった。がすぐに己を戒めた。慢心はよくない、特にこんな仕事をしていると死につながるだろうと思った。それによくよく考えると魔法は私が努力して手に入れたものではない。そう思いつくと私はむしろ恥ずかしくなってしまった。そして解体が終わった。三人で町に帰ろうと提案すると、二人も乗った。


「すごい!」

「不思議な感覚ですね」


 移動用の風魔法を二人にも使った。二人とも驚いている。こうも驚かれるとなかなか気分が良かった。そして私は魔物に攻撃したのは無謀だったのではないかと言った。二人は気まずそうに言う。


「手に余るとは思ってたけど……」

「お金が必要だったんです」


 はて金が必要、どういうことかと訊くと。


「私達は孤児院の出なんだけど」

「子供が一人病気なんです」


 二人はそう言った。なるほど病気かと私は納得した。まあ所詮他人だ、このへんにしておこうと追求しなかった。


 町に着いた。門番が少し不思議そうな顔をしていた。魔物を三人で倒したというと彼は驚いた。


「魔物!? どの辺りにいた?」


 もしかして危うい事態なのかと私は思った。いや、そうでもないようだ。門番の様子はさして慌ててはいなかった。


「悪いがもう少し話を聞きたい。三人とも来てくれ」


 私達は頷き彼の後をついていった。


 事情聴取を受けた。


「なるほど、もう倒したのか」


 彼は少し安心したように言った。話を聞くと、魔物が出現すると被害がないことは少ないらしい。魔物のことを考えた。そういえば、私があっさりと狩った猪と同じ型だったが、比べてやけに丈夫だったと思う。体当たりを受けた木の幹も大分揺れていた。あれでは魔法が使えぬとやられるかもしれないと思った。実際冒険者二人が危なかった。私達はさして時間をとらずに解放された。


「ありがとう。協力感謝する」


 礼を言う門番に一礼して、私達はそこを離れた。そして魔物を売り払うべく冒険者ギルドに向かった。


「魔物ですか!?」


 受付嬢に魔物を売りにきたというと、彼女は驚いた。彼女が驚くぐらいには魔物は珍しいらしい。少し離れた部屋に案内された。どうやらここで魔物を出せばいいらしい。私はアイテムボックスから魔物を出した。


「本当に魔物だ……!」


 その部屋にいた男が驚いた。彼は魔物を調べだした。彼が値段を決めてくれるのかと思った。そしてその通りだった。彼は値段を言う。不満はないのでそれに頷いた。女二人も同じであった。

 受付に戻り金を受け取った。それを三人で分けた。


「ありがとう。ほんとに助かった」

「まことにありがとうございました」


 二人は礼を言い足早にどこかに向かった。病気がどうこう言っていたので、薬屋にでも行ったのだろうと私は考え、今日の宿を探すことにした。……いやまた忘れていた。猪を売るのだった。受けた依頼はちゃんとこなさねばとまた冒険者ギルドに向かった。


 私は再び冒険者ギルドの扉を開けた。こちらを見る人達がいる、幾分不思議そうに見える。なぜまた来たんだという感じだ。私はそれを気恥ずかしい思いで受け流しながら受付に向かった。彼女もまた不思議そうであった。そして尋ねてくる。


「どうかしましたか?」


 依頼をこなしたと言って冒険者カードを出した。入れた依頼書はどう出すのかと思ったらすぐに出てきた。面白いカードだと思った。



「拝見します。……なるほど、猪ですね」


 そういうと魔物を出した部屋に案内された。猪もここで出せばいいらしい。部屋にいた男に促され出した。そしてここでも、領主屋敷の時と同じようにうまく処理していると感心された。受付に戻ると受付嬢が皿に硬貨を載せ持ってきた。


「では金貨一枚と大銀貨五枚になります」


 額も領主屋敷の時と同じだと思いながら、あの時貰った革袋に金を入れた。そして受付嬢を見ると何か言おうとしているようだと思った。


「これであなたはEランク昇格となります」


 はて、Fランクが最も下位であることは知っていたが、依頼一件の成功で昇格するとは思わなかった。私がそう言うと彼女は言った。


「魔物を倒したからですよ」


 なるほどと思った。では依頼をこなさなくとも魔物を倒すだけで昇格するのかと尋ねた。彼女はしないと言った。あくまでランクは達成した依頼で決まるらしい。まあ適当に上げよう、依頼を受けていれば勝手に上がるだろうと私は思った。彼女に礼を言い冒険者ギルドを出た。


 すると先ほどの女冒険者二人が駆けてきた。息を急いで整え話し掛けてくる。


「すまない。ポーションを持っていないか?」

「もしくは回復魔法を使えませんか?」


 二人はそう訊いてきた。ポーションは持っていないが回復魔法を使えると言った。二人は喜び頼んでくる。


「さっきの金を渡すから助けてくれ!」

「お願いします」


 そう言ってきた。病気の子供のことだろう。薬は買えなかったのかと訊くと、どうやら売り切れていたらしい。私は構わないと頷いた。二人はまた喜び、孤児院に案内するから着いてくるよう言った。



 道すがら話をする。孤児院はどうやら領主が運営資金を出しているらしい。飢えるものは出ないようだが贅沢はできないらしい。彼女らが魔物相手に無理をしたのは薬が高かったからのようだ。

 そうして話をしていると孤児院が見えてきたと彼女らが言う。彼女らの見た方角を見ると、孤児院と思しき建物があった。外見は華美ではないが、ぼろくもないと思った。やはりここの領主はまともらしいと思った。孤児院の庭にいた子供らが二人に気付いたようだ。手を振っている。彼女らは手を振り返し門まで進んだ。子供らが門を開け口々に挨拶を言い、薬は買えたか尋ねた。彼女らは回復魔法を使える人を連れてきたと私を紹介した。子供らはすぐに私の耳を見て、私がエルフだと気付いたようで驚いていた。しかしすぐに我に返り、私に着いてくるよう言った。私は着いていった。建物の中も壊れていないようだ。私は安心した。さて子供らは私をどこまで案内するのかと思うとある部屋に入っていった。ここらしい。中に入ると一人の童女が寝込んでいた。この子が患者なのだろうと私は思った。そして子供らに話を聞いていた近くの女性が私に話し掛けてくる。


「回復魔法を使えるのですね。よろしくお願いします」


 そう言い丁寧な礼をした。私ははいと答え治療を始めることにした。また光魔法を使う。先の一回で大分慣れた気がする。治療はスムーズに進んだ。そして何事もなく終わった。それを告げると、歓声が上がった。

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