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果たして、王都に猫はいるのだろうか


「十歳……十歳に我は負けたのか」


 御年二百歳ぐらいのリューは、さっき知った真実にずーんと落ち込んでいた。

 魔女がやべー奴だというのは幻想界隈でもよくささやかれていたことである。いろんな意味でやべー奴ばっかりだから、地上に行っても魔女だけには関わるなとはリューが子供の頃からよく言われていたことだ。

 リューはそんな風聞を振り切って地上に来た。強い奴に会うためにだ。彼女は、それだけ強さというものを信じていた。強ければ正義だと、強い奴が正しいのだと。ニーナに負けたとはいえ、その強さの秘密を知るために従僕の契約をもちかけたのだ。

 だが、いくらなんでも十歳に負けとなると話しが違う。ショックのレベルが違った。


「ふふふ。我の生とは、いったい何だったのだろうか」


 強さを求めて幻想界隈で二百年を過ごして己を鍛え、はるばる地上にやって来たのだ。

 それが、十歳児に負けた。もはや己の生まれてきた意味を見つめなおすほどには衝撃的である。

 膝を抱えていじいじと尻尾で地面をぐりぐりしているリューを、マスターのニーナは放置していた。

 ドラゴンじゃないリューになどニーナは興味がない。じんめりしてようと、慰めることなどするわけがなかった。見かねたペスが、とてとてリューの方へ向かったほどリューのことをガン無視していた。

 ニーナはお散歩ポーチから本日の師匠手作りのお弁当を食べながら、魔法の通信教育の手紙を読んでいた。


『――ということで、ニーナちゃん。魔法にはいろいろと種類があることが分かったと思います。特に気を付けて欲しいのは、契約魔法についてです。便利な反面、一番めんどくさい制約があるので使わないのが一番なのですが、もし使う際は――』


 ニーナがすでに従僕契約をしていることなど知らず、ずらずらと並べられる契約魔法への注意事項。


「遅い、です」


 一度読んですべてを記憶したニーナは、なんで、昨日のうちに書かなかったのかと憤る。イラッとしたのでまた手紙の結びを見ることなくぼわっと燃やして焼き捨てた。


「師匠は、ダメダメです」


 しかしお弁当はおいしかったので、お散歩ポーチから紙とペンを取り出し『ごちそうさまです。おしかったです。次はハンバーグがいいです』と書いて入れておく。

 さて、おなかもいっぱいになったしそろそろ出発しようと思いながら、ニーナは立ち上がった。

 そして、リューとペスの法を振り返る。


「ペス先輩……ありがとう。こんな我を慰めてくれるなんて、先輩は素晴らしい心の持ち主だな……! 感謝の極みだっ」

「くうん」


 なにがあったのか、ニーナがお弁当食べている間に感激に瞳をうるませたリューが、ペスの首筋に抱き着いていた。

 三人の中で明確に序列が決まった瞬間だ。

 ペス=ニーナ>リューの順番である。ペスのご主人様はニーナではなく、師匠さんなのでこういう順番になる。むしろ、ペスが保護者な感じすらあるので、ペス≧ニーナ>リューになるかもしれない。


「むう……」


 リューがペスに懐いている光景に、惜しい、惜しいな、とニーナは思う。

 目の前にあるのは、異種交流のひとつである。だが悲しいことに、リューは美しい人間の女性の姿になっている。ドラゴンの名残の尻尾と角はあるものの、大体人間なのだ。

 リューがドラゴン形態だったら完璧なのに、本当に何故人間などになってしまったのだ。残念でならない気持ちを抱えながらも、ニーナは二匹に声をかける。


「リュー。そろそろ出発しようと思います」

「む、そうか、マスター」


 はっと我に返ったリューが、ペスのもふもふから体を放して立ち上がる。ペスもぱたぱたと尻尾を振りながらニーナの横に着いた。


「しかし、どこへ行くんだ? そういえばマスターの目的を聞いてないぞ、我」

「猫を探しに、行きます」


 つまり、どこに行くんだろうか。

 猫という存在を知らないリューは首をかしげるしかなかった。


「まあ『ねこ』がなにかはあとで聞くとして……その『ねこ』とやらは、どこにいるんだ? 目的地が決まっているのなら、この格好でも空を飛べるから、我がマスターとペス先輩を抱えてひとっ飛びできるぞ」

「むむ、便利ですね」

「ちょ、くすぐったいぞ、マスター!」


 リューが、背中から羽を出してバサバサさせる。ビロードみたいな被膜をしたリューの羽をニーナはさわさわと撫でながら考える、。

 空を飛んでの移動となれば、まだ空飛ぶ魔法は習っていないニーナにとって移動距離が格段に飛躍する手段を獲得できたということである。

 だが、猫の生息地などニーナが教えてほしいくらいだ。やみくもに世界中を探すのは、あまりにも効率が悪いだろう。

 つまり、まずは猫の情報を手に入れることが肝要だった。


「人が、多いところがいいかもしれません」

「人間が多いところか。ならば、王都がいいんじゃないか」


 幻想界隈にずっといたから地上に詳しくはないとはいえ、リューも伊達に二百年生きていない。ニーナよりかは地上の世情に詳しかった。


「王都。王様とかが、いるところですよね?」

「うむ。人の世界で、揃わぬものはないと言われているほどの隆盛を迎えている都らしいからな! きっと、マスターの探しているものも見つかるはずだ!」

「なるほど。期待。期待です。これは、期待できます!」


 瞳を輝かせたニーナが、声を華やがせる。


「では、行きましょう、リュー」

「うむ。我がペス先輩を抱えるから、マスターは背中にしがみついてくれ!」 

「……やっぱり、ドラゴンのお前に乗りたかったです」

「マスターは手厳しいな……」


 ニーナはリューの背中によじ登りながら、愚痴をこぼす。

 リューはペスを抱っこして、翼をばさばささせて浮き上がる。初めて空を飛んだニーナはと言えば、空を飛んだ感慨などゼロで、何でいましがみついているのが雄大な広さを持つドラゴンの背中ではなく、リューの柔らかい体なんだろうとがっかりしていた。


「さあ、行くぞマスター! マスターの力の源、『ねこ』がいるという都へ!」

「です!」


 リューの安請負により、王都に危機が迫ろうとしていた。


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