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擬人化には鉄拳制裁



 ニーナが思う存分泣いて、気もすんだしそろそろ旅に戻ろうと思った時のことだ。

 生き埋めにされていたドラゴンさんが自力ではい出して、土砂から顔を出した。


「あ。さっきは、ごめんなさい」


 ペスに甘えて存分に泣いたニーナは、落ち着きを取り戻していた。

 這い出してきたドラゴンさんに、ぺこりと頭を下げる。完全な八つ当たりでドラゴンさんを吹っ飛ばしたことに対しては、ニーナをは反省していた。

 そんなニーナに、ドラゴンさんは首を振る。


「いや、いいのだ。我の敗北だ。すさまじい力だった……まさか、一撃とはな。しかも情けをかけられ、生かされてしまった。魔女とは、これほどのものだったのだな」

「そうですか」


 基本的に、魔女の使う力が引き起こす現象は感情エネルギーに依存する。ニーナは感情のまま暴発させているため怒れば相手を吹っ飛ばすことができるが、殺意を持たない限り対象は死にはしないのだ。すごく痛いですむのである。


「なあ、小さな魔女よ」

「なんですか、ドラゴンさん」

「我の、マスターになってくれないか?」


 ペットになりたいのかな。

 ニーナはそう思った。

 そんなニーナの心などもちろん知らず、ドラゴンさんはしみじみとした口調で続ける。


「我はいままで、力こそが正義だと信じてきた。幻想界隈で力を振るって、そして地上に降りてきた。我の力を示すためにな。だが『かわいさ』とたらを正義とするお前に完膚なきまでに叩きのめされてしまった」

「かわいいは、最強ですから」

「そうか……。かわいいは、最強だったのか。我は、無知だった」

「そうですね」

「ああ。我の巨体をもってしても世界は広いな……。だが、小さき魔女よ。我は強くなりたいのだ!」

「そうですか」


 強さにはさっぱり興味がないニーナは、適当に相槌を打った。

 そんなニーナに、ドラゴンさんは鼻息荒く語る。


「小さな魔女よ。我はお前の力の源を知りたいのだ。『かわいさ』を学べば、我はさらなる力を得ることができるはずだっ。お前と一緒にいれば、それが学べるはずだっ。だから主従契約を結んでくれ!」

「いま、考えます。ちょっと待ってください」


 やっぱりペットになりたいらしい。

 ドラゴンさんの話をそう解釈したニーナは、腕を組んで考える。

 ニーナは猫好きだ。

 だが犬であるぺスをかわいがっていることからわかるように、他の生き物の魅力を受け入れる度量の深さも持ち合わせている。種族人間と昆虫以外は大体愛せると、自信を持って胸を張れる。

 しかし、現状でもペスというペットがいる。

 ペスと、とっても賢い大型犬のために手がかからない。むしろニーナが世話をされている感すらある。

 でも、だからといって無秩序にペットを増やしていいわけではないのだ。

 ここは、断るべきだろうか。ニーナは、しげしげとドラゴンを眺めた。

 ごつごつした赤銅色の鱗。すらりとした流星のフォルム。羽を広げた姿の迫力。家屋の一軒分はありそうな巨体は、様々な要素の魅力にあふれている。

 素晴らしくかっこよかった。


「わかりました。契約、しましょう」


 ニーナはドラゴンさんの魅力に屈した。

 かわいいは正義である。

 そして、カッコいいは免罪符となるのだ。

 猫とは出会えなかったことは悲しい。だが、ドラゴンはドラゴンでいいものだ。ドラゴンさんの羽の被膜を撫でたり、ドラゴンさんの尻尾につかまったりするのはさぞかし楽しかろうとニーナは思った。


「一つだけ、条件が。ペスとは、仲良くしてください」

「もちろんだ。先達は敬うとも」

「なら、よしです」


 ニーナの了承にドラゴンさんが尻尾を使って地面に魔方陣を描く。これが、主従契約とやららしい。ニーナはわくわくする期待の気持ちを魔力に変えて魔方陣に注ぎ込んだ。


「ありがとう、マスターよ。これから我は、マスターにこの身を捧げよう。かわいさは正義。その力を得るため、ずっとだ」

「はい」


 契約が終わったら、まずはその背中によじ登って首筋に抱き着こう。ニーナは夢心地で考えながら適当に頷いた。


「マスター、私に、名前を付けてくれ。そうすることで、私はマスターの従僕として生まれ変わる」

「はい。じゃあ『リュー』で」

「ふふっ、簡潔だな。だが、マスターらしい」


 ペットの名前は簡潔に。それがニーナの信条だった。

 そして魔方陣が発動。きらめく光が、リューと名付けられたドラゴンを包み込んだ。


「わあ――あ?」


 きらきらとした幻想的な光景にニーナが目を輝かせたのは少しの間だけだった。

 リューが、光の中でどんどん縮んでいったのだ。

 その変化に、ニーナは首をかしげて疑問符を浮かべる。

 なぜ? なぜちっちゃくなる? 目をぱちぱちさせるニーナの疑問に回答が出されることなく、リューの変化は続く。

 一軒家ほどもある巨体が縮んでいき、さらには全身を覆う魅力的な鱗が引っ込む。さらには手足が四足歩行の生物とは思えぬほどすらりと伸びていった。

 結論を言えば、美しい赤髪の女性(人型)になった。


「ふう。成功したようだな」


 彼女は、長い赤髪をかき上げ安堵の息を吐く。

 角と尻尾は残っているが、あとは大体人間となった美人さんは呆然としているニーナに笑いかける。


「これからよろしくお願いする、マスたぶほぉ!?」


 無言で怒りを爆発させたニーナによる容赦のない鉄拳制裁により、リューは本日二度目の生き埋めを経験することとなった。

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