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当然、猫ではありませんでした


 次の日、ニーナとペスは無事に村に着いた。

 大型犬のリードを握っているニーナへと、村人は何で散歩少女がと不審気な目を向けて、かぶっている三角帽子を見て納得していた。魔女ならしょうがない。そんな顔だった。

 見た目が十歳児の少女が犬の散歩途中のような格好で村に入ってきても納得される。それが魔女だった。


「おお、あなたが魔女様ですか!」

「はい。噂を聞いてやってきました」


 ニーナが被る三角帽子の効果は絶大だった。

 ニーナが正真正銘の十歳児などということは知らず、魔女が村に来たと聞いた村長はニーナを歓待した。

 魔法も使えるようになったし、別に魔女を名乗っても構わないだろうとニーナは村長さんの言葉を肯定した。


「この近くに、時として人類の上に立ち、時として人類にあがめられ、時として人類を仕えさせる魅力を持つ、大いなる存在がいると聞きました。本当、ですか?」

「近くの洞窟に住んでおります……。アレが来てからは、いろいろと困ったことが起きていまして」


 沈痛な顔をする村長さんの気持ちを、ニーナは推しはかった。

 野良猫が近くにいるのを歓迎する人々ばかりではないことを、ニーナはきちんと了承していた。

 単純に猫が嫌いという人もいるし、鳴き声がうるさいという人もいるし、庭を猫のトイレにされて怒り狂う人もいる。

 つまりこの村は猫を歓迎していないのだなという結論を、ニーナの想像力豊かな推理力は導き出していた。


「アレが近くの山中に棲みついてから、家畜が落ち着かなくなりましたし、村の人間もどうすればいいか分からず戸惑っています。珍しい生き物ですので、興味本位に見に来る人間や腕試しに来る人間が後を絶ちません。それで村が騒がしくなるのを好まないと苦情も出ておりまして……」

「なるほど」


 猫が珍しい生物であるならば、そのかわいらしさを求めてどんな遠方からだって人は来るだろう。ニーナは深く納得した。ニーナは十歳児なので、大人の難しい話は右の耳から入って頭を通過し左の耳から外へと通り抜けていた。


「近くの洞窟に、住んでいるのですね」

「ええ、そうです。あの、魔女様。もしかして行ってくれるですか?」

「行って、きます! 私に任せて、ください。私は、プロです!」

「おお! ありがとうございます!」


 猫のプロを自負するニーナは、力強く断言した。


「では魔女様。お代のほうは、何がお望みでしょうか」

「お代……?」


 幻想関連や幽霊関連の事件が起こった時、ふらりと訪れた魔女が事件を解決することはままあることだが、お代はきっちり徴収することで有名だ。

 だがニーナは月々のお小遣いがポーチ経由で師匠からもらえるので、お金は必要としていなかった。


「じゃあ、今日、泊めてください。お風呂に入れれば、なおよし、よしです」


 お風呂という単語に、ニーナの傍で伏せていたペスの耳がぺたんとなった。一声も鳴かずにじっとしていたペスが、とたん不安そうにきょろきょろする。


「それだけで、いいのですか……!?」

「はい。彼らに会えることが、私にとって、最大の報酬、ですから!」


 魔女の保証に、今回の事態で困り果てていた村長は感激で目を潤ませていた。

 きっちり保護しよう。

 悲しいことだが、この村で猫は求められていないらしい。求めてはおらずとも、駆除するようなこともできずにいるようだ。猫を駆逐することなんてできない、心優しい人々の集まった村なのだろう。

 ならばこそ、自分が猫を保護するのだとニーナは決心した。

 師匠も意外と悪い人ではなさそうだし、猫を保護した後は町に戻るのもいいかもしれない。そうして、ゆっくりと猫の警戒をほぐしつつも、ペスとわんにゃんする様子を愛でながら暮らすのだ。

 その日、ニーナとペスは村長さん宅に泊まれることになった。

 ニーナはペスと一緒にお風呂に入り、きゅぅんきゅぅんと切なく鳴くペスを丸洗いした。どんなに賢い犬でも、お風呂があまり好きではないことはある。お湯と石鹸で洗われるペスは暴れることはなかったが、終始切ない声を上げて抗議していた。でもニーナは丸洗いを敢行した。旅の途中である。洗える時は洗うべきなのだ。


「明日が楽しみだね、ぺス」


 お風呂上り。

 洗われて濡れネズミになったペスは不機嫌に毛布をがじがじ噛んでいた。珍しくもお行儀の悪いペスのしっとり濡れた毛皮を一撫で。一緒にお風呂に入ったニーナはご機嫌だった。

 昨日習得した火の魔法でぺスの毛皮を乾かしながら、ニーナはわくわくとしていた。


「わんにゃんだよ、ペス。明日はわんにゃん!」


 旅に出てよかった。

 猫に、会えるのだ。

 ニーナの緑の瞳は、翡翠よりもきらきらとしていた。



 ***


 そして翌日。

 喜び勇んでペスと一緒に山中の洞窟まで歩いたニーナを、特大の咆哮が揺らした。


「よく来たな、人間よ!」


 洞窟で、大口を開けた立派なドラゴンがニーナを出迎えた。


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