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これが師匠の実力である(名前はまだない)


 キマイラが自分の三分の二を縛り上げられ、最後の三分の一のライオン部分をひたすらモフモフされている頃。

 その光景を、水晶に映している魔女がいた。


「あ、あいつ……」


 キマイラを送り込んだ彼女は、あまりにもな光景にプルプルと震えていた。

 自分の計画のためにキマイラを送りこんで一安心。子供相手にあんまりひどいことはしてないだろうなと途中、様子を見てみようと水晶で映したのだが、その経過は思った以上に残酷だった。


「食べるってなんだよ……! ひどすぎるだろ!」


 失敗したのは、まだいい。年齢によらない相手の強さを暴けたのだ。情報を得れたと考えれば、敗北を差し出しても惜しくはない。

 だがこのままでは自分の使いペットが召し上がられてしまう。

 こうなれば、直接自分が乗り込んでキマイラを助けなくては。飼い主としての使命感、何よりペットに注ぐ愛情でもって出支度を整えようとした時だった。

 ばぎんっ、と音を立てて、目の前の空間が口を開いた。


「こーんばんはー」

「ひぃ!?」


 幾重にも結界を張っている魔女の空間。そこへと次元をかみ砕いて現れたのは、一人の魔女だった。

 犬派の武闘筆頭の若き魔女『餓狼の魔女』である。


「お久しぶり、ちびっこさん。相変わらず引きこもってるの? たまには外に出た方がいいと思うよ?」

「ちびっ子いうな!」


 お気楽に手を振ってくる相手に彼女は叫び返す。

 彼女は二十歳まで成長しても小柄だったため、いっそ幼女の姿で通そうという理由で十歳くらいの姿を保っているのだ。

 思わずツッコミを入れてから、不法侵入者に向けて慌てて杖を向ける。


「な、なにしにきたんだよ! ここはわたしの家だぞ! 勝手に入ってくるんじゃねえよ!」

「いやね。ぺスがいなくて寂しくて寂しくて、ちょーっと水晶で様子を見たら、私の弟子にちょっかいを出してる子がいたんだけどねー? あのキマイラって子、ちびっこさんのところの使い魔だったよね?」

「ぐっ。うっ、うるさい!」


 キマイラを送り込んだのは藪蛇だった。撃退された上、自分の領内に攻め込まれる口実を作ってしまったのだ。だがバレてしまっては仕方ないと、彼女は水晶の映像を指さす。


「お前の弟子! あれはなんなんだ! 私の使い魔を食べるとか言い出してるぞっ。頭おかしいんじゃないか!?」

「いやぁ、お腹空いてたら仕方ないと思うよ? 山羊だし。襲ってきたら普通、食べるでしょ」

「食べねえよ! 言葉をしゃべってるんだぞ!? 食べるわけねえだろ!!」


 めちゃくちゃな価値観で自分の弟子を弁護する相手に、魔女の割にはふつーの価値観のちびっ子魔女は言い返す。普通、知性体は他の知性体を食べたりしない。だって共感性とかがあるので、知性あるものを捕食するのはちょっと、という倫理観があるのだ。

 『飢狼の魔女』。やはりこいつは危険だ。

 飢餓の幼少時代を持つ彼女は、魂にある魔法の根源からして攻撃的なのだ。それゆえに、年少の頃より食い荒らすように魔女界隈をペスとともに荒らし回った。そうして手にした犬派武闘筆頭の立場と『王侯(わんこう)』ペスの使い魔としての最高峰の称号だ。


「で? なんでうちの子を襲おうなんてことしたのさ。ヤンチャは辞めた私だけど、ペスと弟子に手を出されたら黙ってられないよ?」

「黙れ! 犬派の連中に話すことなんてなにもない!」

「犬派って……ちびっ子さんさぁ。魔女集会でも一人ボッチで隅でぽつんとしてるところ、犬派連合の会長に構われてて、仲よしじゃん。それなのになんで私のこと嫌うかなぁ」

「うるさい! あのギャルとわたしが友達みたいに言うな! わたしは一人でいたいのにあいつが構ってくるんだよ! わたしはあいつのことだって嫌いだぁ!」


 ちびっ子魔女は涙目になって、杖を振り上げる。

 これ以上の問答は無用だと、掲げた杖にばちばちと雷を集中させる。


「く、くそう! 私だって数百年生きた魔女だぞ! お前みたいなひよっこに負けたりなんてしないんだからな!」

「ふうん。まあ、確かに私、ひよっこ魔女で四半世紀も生きてないけどさ」


 強がるちびっこ魔女に対し、『飢狼の魔女』は余裕しゃくしゃくだ。

 彼女の影が、彼女を取り巻く闇が、狼となる。何匹も、何匹も、何匹も。かつて味わった空腹。満たされることなき飢餓の体現。群れとなった黒狼の中心で、彼女は告げる。


「たーくさん戦って、戦って、戦って、食い荒らして、お腹を満たして吐き出して――それでも負けたことは、一回しかないよ?」


 弟子を引き取った日にグーパンで吹っ飛ばされた時以外、敗北なき魔女は凶暴に口端を吊り上げた。


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