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猫好きの転生魔女 ~数百年後の世界に転生したら、猫がいない~  作者: 佐藤真登


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猫……猫? その子、ほんとに猫?


「あ、ああ……」


 猫が近所にいると聞いて案内されたメイドさんの家。

 そこの庭で、ニーナの震え声が響いた。


「ああ、あああああ」


 ニーナの小さな体が、ぶるぶると震える。

 激しい感情が爆発する寸前だった。その様子を、リューとメイドさんは固唾を飲んで見守っていた。

 ニーナの目の先には、一匹の動物がいた。

 すらりとした流星のフォルム。見るからにすべらかな毛皮。ぴんと伸びた細長い尻尾。つんと澄ましたその横顔。青空のような青い瞳。

 猫である。

 まがうことなく猫である。

 メイドさんちの庭で、一匹の猫が鎮座してた。


「ああっ! 神はここに、いました!」


 猫を前にしたニーナは感激のあまり跪いた。跪くどころか、人様の庭でぺたんと腹這いになった。


「マスター……?」

「黙って。黙っててください、リュー。猫が逃げたら、どうしてくれるんです」


 リューが不審そうな目をニーナに向けるが、それをぴしゃりとしかりつける。

 初対面の猫に対して同じ目線か、それ以下になる。猫好きの基本である。

 腹這いになったニーナは、そろーりそろーりと慎重に近づく。あまり視線を合わせすぎないように、ゆっくりと近づく。

 気品のある顔立ちに、青い瞳。その毛皮は、日を透かしてきらきらと金に輝いている。

 猫だ。とってもかわいらしい猫だ。だが、匍匐前進をして近づこうとするニーナに、明らかに警戒を示していた。


「ぐぬぬぬぬぬぬ」


 これ以上近づくと逃げられてしまう可能性が高い。

 なぜ自分は、猫じゃらしを持っていないのか。ニーナは七転八倒したい気持ちを必死に押さえつける。

 痛恨だった。ポーチをがさごそと漁るが、猫が好きそうなものがろくにない。


「箱さえ、箱さえあれば……!」


 にゃんこならばどの子も大好きな何の変哲もない箱も持ち合わせていないなど、痛恨の極みである。あるいは最終兵器マタタビがあれば初対面の猫だろうと問答無用でメロメロにできたというのに。

 仕方ないので、さっきもらったチラシを出す。それで手を隠し、指を出したりひっこめたりしてがさがささせると、猫の青い目がきらりと光った。


「にゃ!」


 さっと飛び出した猫が、チラシをくわえた。


「にゃ! にゃ!」


 ニーナからチラシを取り上げた猫は、ぱしぱしと、王女様の写真を猫の手でたたく。

 かわいい。

 にへらぁっとニーナの頬が緩んだ。人間には向けない、ニーナの笑顔だった。

 なにかを必死に伝えようとしているように見えなくもない猫の仕草に、ニーナはにっこにこだった。


「リュー……これが猫です。わかるでしょう? 見ているだけで心が満ちていくのが! これこそ世界の正義! かわいい、です!」

「そうかぁ? 我は動物園ではしゃいでたマスターを見てる方が楽しかったぞ?」

「お前の感性がおかしいです」


 猫を前にしてもさほど心を動かしていないどころか、比較対象がわけのわからないことになっているリューに信じられないものを見る目も向ける。


「我はそんな変なことを言っているつもりはないのだが。喜んでいるマスターを見ているほうが好きだぞ、我は」

「まあ、お前はドラゴンですからね。少し、人とは感性が違うのでしょう」

「にゃー! にゃー!」


 猫がチラシをぱしぱしして、何かを訴えかけるように必死に鳴いていた。

 猫が人に向かって必死に鳴くときなど、ご飯が欲しいかドアを開けてほしいかの二択だ。

 そしてここにドアはない。つまり、このにゃんこはお腹が空いているのだ。


「メイドさん。この子はお腹が空いているようです」

「はいはい。どうぞ、今日のご飯ですよー」

「にゃー……」


 しゅんとしながらもメイドさんの用意していたごはんを食べていた。

 ペスを連れてきたい。

 猫の食事風景を見ているニーナは痛烈に思うが、猫というのは個体差はあるものの、環境の変化は好まない子が多い。ペスは大変賢く素晴らしい大型犬だから見知らぬ猫に危害を加える可能性はゼロだが、もう少し段階を置くべきだろうと判断した。

 まずは、自分を見ても警戒しなくなるくらいまで慣らすべきだ。そこからペスとわんにゃんさせるのだ。

 ニーナの心の中で、メイドさんの家に居座ることがすでに決定していた。


「メイドさん。このにゃんにゃんは、いつ、どこで見つけたのですか?」

「実はこの子、殿下がいなくなった日からわたしの家に来るようになって……。殿下と入れ替わりのタイミングだったので、よく覚えています」


 もともと動物好きなのだろう。メイドさんにとっては見知らぬ生き物だというのに、抵抗もなさそうにひょいと抱える。

 猫の方もメイドさんのことを信頼しているのか、されるがままだ。


「時期が時期だったからでしょうか。この子に、殿下の面影を重ねてしまうことがあるんですよ」

「にゃー」

「例えば、この毛皮の色が殿下の御髪にそっくりで」

「にゃーっ」

「この瞳も、まるで殿下のように青い瞳で」

「にゃー!」

「この額の模様なんか、殿下がいなくなった時に着けていた髪飾りそっくりなんです」

「にゃー! にゃー!」

「殿下……いったい何処に……」

「にゃー……」


 なーなー鳴いてぱしぱしとメイドさんの腕に爪を出さない猫パンチしていた猫が、最後の言葉でしょんぼりした。

 行方不明の王女様のことを思い出したからか、潤んだ瞳になったメイドさんがニーナに懇願する。


「だから魔女さま、殿下をお探しください!」

「あ、一日、待ってください」

「どうしてですか?」

「もちろん、ちゃんとした理由があります」


 一刻も早く探してほしいメイドさんの問いに、ニーナは大まじめに答える。

 このメイドさんは、今までの詐欺師どもとは一味違う。きっちり自分を猫のもとへと案内してくれた。詐欺師ではない人間はいい人間だ。だから全力で協力する所存だった。

 だがニーナは、そもそも失せもの探しの魔法など知らない。


「師匠に、やり方を聞くので」

「……」


 メイドさんの胸に、不安がよぎった。

 ドラゴンを竜人にして従僕にしているくらいである。小さく見えても経験のある魔女に違いないと踏んでいたのだが、いまの言葉だとまだ師匠付きで独り立ちしていないように聞こえた。


「あの、失礼ですが、魔女さま」

「はい、なんですか?」

「魔女さまはおいくつなのでしょうか」

「十歳です」

「いくらなんでも若すぎません?」


 思わず真顔でツッコミを入れてしまったメイドさんだった。


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