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時間(とき)が過ぎて変わってしまっても 失くしたくないものがあるから

プロローグ


「綺麗な空」


思わず心の声が言葉になった……


2限目の授業が休講になり時間が空いたので、最近大学の近くにオープンしたカフェに出かけようと校舎を出ると……


見上げた空があまりにも綺麗な青空で

私はその青から目が離せないまま

しばらく立ち尽くしていた。


「優衣菜 行くよー」


親友の美咲の呼ぶ声に 一瞬止まっていた

時計じかんが動き出す……


カフェの店内に案内され 席に着いたと同時に

美咲は私の顔を覗き込んで言った。


「なんか あった?」


美咲にはいつも心の中を見透かされてしまう。

美咲とは中学、高校からの親友で多くを語らずもどこかで分かり合えてた。


だから 私の行動ひとつで気持ちの揺れを悟ってしまう……


「何で?」


きっと悟っているのだろうと思いながら

私は その一言を返した。


「空 見ながら 物思いにふける程

何かあった?」


あの時 私の時計じかんは確かに

一瞬止まった……


晴れ渡る空の下で


あの日の約束と笑顔と涙が

切なく 心を ぎゅっと掴んだ……


第1章


-高校3年の夏-


川の流れが心地良く 耳に響く

見慣れた景色と風の匂いに包まれて

無邪気に笑い合う


初めて出会った日から ずっと

大切な時間だった……


「優衣菜 俺さ 卒業したらアメリカ

行くことにしたから」


幼馴染みの奏多かなたはいつもと

変わらない口調でぶっきら棒にそう告げた。


子どもの頃から夢の話を2人で何度も話して

いつか離れ離れになることも 心の中では

分かっていた。

でも 現実になることで 色々な感情が溢れてきた……


私と奏多は小4の夏にこの場所で出会った。

大好きだった祖母が他界し、毎日泣いていた

私を見かねた母が、祖母が祖父と出会った

想い出のこの河原に連れて来てくれた。


それから私は ここは来れば

祖母に会える気がして

毎日 足を運んだ。


あの日も私はここで泣いていた……


奏多は母とのやりとりから 私が泣いていた

事情を知って 毎日泣いていた私を

ずっと 見ていた。


「これ あげる」


奏多は握っていた 飛行機のストラップを差し出し、私の手の中に押し込むとそのまま走り去って行った。


その飛行機には平仮名で「かなた」と

刻まれていた。

私はすぐにそれが大切なものだと気づき

返そうと 次の日 河原へ足を運んだ。


「かなたくん?」


名前を呼ばれて振り向く奏多は

目を丸くして驚いていた。


私はストラップを返そうと差し出した。


「これ 大切なものでしょ?

名前入ってる…… 貰えないよ」


私の言葉に驚きの表情は消え

優しい口調で奏多は言った。


「それ ばあちゃんに貰ったんだ。

あんたのばあちゃん 死んじゃったんだろ?

俺のばあちゃんは元気だから。あげる。」


何だかめちゃくちゃな理由だったけど

あの時の奏多の気持ちは 大きくて

あったかくて 嬉しかった……


飛行機のストラップは奏多のおじいさんが昔 パイロットをしていて、その影響で奏多は

飛行機が大好きだったから

誕生日のプレゼントに おばあさんが

名前を刻んで贈ったものだった。


そんなに大切なもの……

その日から飛行機のストラップは

私の宝物になった。


あれから私と奏多は

中学が同じ学区内だったこともあって

ずっと 一緒に過ごしてきた。


いちばん近くて

いちばん大切な人……

だから……


「奏多の夢 応援してる」


私は気持ちを確かめる間もなく

それだけしか言えなかった……


その日から 私たちは 卒業まで変わらず

たわいもない話を繰り返し、もう 両手で

抱えきれない程の想い出が溢れていた。


-卒業式-


「綺麗だな…… 空 いつかまた

こんな綺麗な空の下で会おう 約束……」


奏多は晴れ渡る空を見上げながら

そう言うと 私の頭を優しく撫でた。


「また きっと 会えるよね?」


今日までの記憶が 走馬灯のように蘇って

今にもこぼれそうな涙をこらえながら

必死に笑顔を取り繕うから


その一言が 私の精一杯だった……


「いつか きっと! 約束する」


そう言った奏多の顔が少しだけ滲んで見えた。


「じゃあ 約束!」


私は 涙がこぼれ落ちないように

空を見上げながら 奏多へ

そっと 小指を 差し出して言った。


晴れ渡る空の下

小さな約束を交わし


今 この場所から

それぞれの道へと 歩き出す


時間ときが過ぎて

変わってしまっても

失くしたくないものがあるから


忘れない……

いつか会えるまで


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