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さて、いつまでもベッドの上で考え事をしている訳にもいかないわ。
布団から抜け出てベッドの縁に腰掛けた。
困ったわね、ここから降りたいのに足が届かないわ。
仕方ない、とベッドに備え付けの紐を引っ張る。
これを引っ張ると使用人控え室のベルが鳴る仕組みだ。
すぐに部屋の扉をノックする音がしてメイドが現れた。
「お嬢様…!」
「レーラ、喉が渇きましたの。」
足が床に届かなければ、水差しにも手が届かない。
私の喉はカラカラだ。
一体どれほど寝ていたのか。
「あぁよかった、目が覚めましたのね。どうぞお水でございます。」
ぎゅっと私を抱きしめてから、スっとグラスを渡してくれる。
「ありがとう。」
受け取って一口飲むと止まらない。
コクコクと一気に飲み干してふぅ、と息をつく。
生き返った…!
「すぐ、旦那様と奥様をお呼びしてまいりますわね。」
私が飲み干したグラスを受け取ると踵を返して部屋を去るレーラを見送る。
レーラはもともとお母様付きのメイドで、私の専属を雇うまでの間お世話をしてくれるもう1人のお母さんみたいな人だ。
屋敷の人はみんな優しいけど、特に甘やかしてくれる。
でもそろそろ私より2歳上くらいの子が私に充てがわれるはずだ。
そしたらレーラはお母様付きに戻る。
寂しいけど仕方ないわね、屋敷内にはいるのだし。
お母様のところに行けば会えるわ。
と、廊下が騒がしくなって誰かが部屋に駆け込んで来た。
言わずもがな両親である。
「あぁ、アティ…!本当によかった、目が覚めたのね…!!」
「すまなかったアティ、もう体調は大丈夫かい?」
ぎゅっとお母様に抱きしめられて、お父様に優しく頭を撫でられる。
「…はい、もう大丈夫ですわ。お父様、お母様、ご心配をお掛けしました。」
「もうあなたは二日も眠ったままで、母は本当に心配しました。今日はお部屋でゆっくり休みなさいね。」
「お母様、私お腹が空きましたわ。」
そんな私の訴えにレーナがスープと柔らかいパンを持ってきてくれ、満腹になるとそのままベッドに寝かしつけられた。
「明日が予定だったアティの王宮からの呼び出しは日にちをずらしてもらうようにしよう。」
「それがよろしいですわね。」
寝落ちる間際、両親のそんな聞き捨てならない会話が聞こえた気がするけど気のせいだと思いたい。