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「暑い……」
寝苦しさに身動ぎをして目を覚ます。
半身を起こして周りを見渡すと私の自室だった。
ふと、手に何か握ってることに気づいて寝起きでぼーっとする思考のままに目をやる。
翡翠色のとんぼ玉から藤の花の様にシャラリと揺れるの飾りが垂れ下がり、その先に小さな鈴がついている簪。
それは私が前世で愛用していたものに、とてもよく似ていた。
「……前世?」
そうだ、私……この簪を見て思い出したのね。
私は前世で地球という星の日本という国で高校生だった。
家は茶道の家元で、お茶と学校ととても大変で私の密かな楽しみは、寝る前の少しの時間に遊んでいたスマホアプリの乙女ゲーム。
そしてこの世界は私のやっていた乙女ゲームのひとつに似ていた。
よくあるヒロインが攻略対象と出会い、仲を深めながら恋愛していくそのゲームはどのルートへ行っても必ず1人の悪役令嬢が糾弾される場面がある。
攻略対象のほとんどが婚約者持ちで、その婚約者たちを率いてヒロインに酷い嫌がらせをしたという理由で婚約破棄からの没落。
悪役令嬢の婚約者である第一王子のルートだった場合は、嫉妬のあまり主人公を狙うつもりが王子を殺しかけ死刑だ。
そしてこの悪役令嬢ことアティリシア·ルーナ·アーグレン公爵令嬢。
まさに、今の私のことである。
死刑だなんてとんでもない!
「嫌。」
思わず溢れた否定の言葉は、心からの叫びだった。
なんとしても死の運命だけは回避しなくては。
私はまだ4歳。
第一王子との婚約がいつかわからないけど、阻止できそうなら阻止!
学園に入るのが10歳。
ヒロインは高等部からの編入だから、物語が始まるのは15歳。
まだ、時間はある。
今まで4年間生きてきた記憶の中で、この世界のことを振り返る。
4歳の私の知識なんて薄っぺらいものだけど、分かっていることもある。
それは、生活の基盤が日本のものに近いこと。
言語が、まず日本語で間違いない。
この中世ヨーロッパのような世界観に日本の文字が溢れているのには違和感しかないけど、元が日本の乙女ゲームだからか至る所に影響を受けているようだ。
ここが乙女ゲームの世界だと、決まった訳では無いけれど。
街の看板などには英語や仏語なんかも見受けられたことを考えると、この世界にもそれらを母国語としている国があるのかもしれない。
まだ他国のことなんて分からないけどね。
このことからあの世界の、と言うよりはピンポイントで日本の影響を受けていると考えられるわ。
要するに私は言語チートが出来るってことよね!