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私が御髪を触らせていただくようになってから、殿下はずっと髪を伸ばして下さっている。
それは私がお願いした訳ではないけれど、髪型をアレンジさせて貰えたりと私にとって嬉しいことに変わりはない。
何より、長い髪の所為か殿下の美少女度が増している。
普段は項の後ろでひとつに括っているが、私の前で解いて下ろしてる殿下は本当に美少女なのだ。
光差し込む窓際にでも座っていようものなら、天使か幻かと見紛うほどに。
私は特に横顔と少し俯き勝ちな角度で見るのが好き。
それからこれは、アロイヴ達側近候補には内緒だけど。
実は殿下にドレスを着せるという私の思惑は、既に成功している。
私が突然トランクケースに詰め込んだドレスや小物を持ってきて、是非着てほしいと口にした時の引き攣った殿下の顔は忘れられない。
あの時はたまたまお部屋の前を通りかかった王妃様がご助力(という名の強制お着替え)をして下さったお陰でそんなに抵抗されることなく着て頂くことが実現した。
薄ピンクのレースがふわりと重なったドレスをお着せして、ツインテールにしたの。
あの時の可愛らしい殿下のお姿、私は忘れませんわ!永久保存物ですわ!
王妃様も女の子が欲しかったようで嬉嬉として私が持参した他のドレスもお着せになっていたわ。
本当にあの時王妃様がお通りにならなければ実現しなかったでしょうから、喜んで頂けて何よりですわ。
殿下はかなり不服そうでしたけれどね、ふふ。
もちろん、今後も機会は狙っていますわよ。
イケメン王子が出来上がってしまう前に、もう一度くらいはドレスを着てほしいもの。
「………ルーナ?」
訝しげな声をあげる殿下には、私が考えていたことが解ってしまったのかしら…?
そんな不安げに見上げないでくださいませ。
「今日も殿下は可愛らしいですわね。」
「私はルーナの方が可愛いと思うよ。」
それはないですわ、殿下。
これもいつもの会話ではありますけれど、お互いがお互いを可愛いと思ってるなら別に悪いことではありませんわ。
これから先、この関係が変わってしまうかもしれないと思うと、少し…怖いですわね。
まだ、先の話ですわ。
今はそんなことより…
「お二人は婚約の話はございませんの?お見合いくらいはなさっているんでしょう。」
そろそろ、彼らの婚約者が決まってもおかしくない時期なのよね。
アスタ殿下の婚約者になった時点で、私が他の攻略対象者と関わらないなんてことは不可能に近かったのよ。
攻略対象者のうち3人は例に漏れず目の前に座る二人と、今は居ないもう1人の殿下の側近候補。
なぜ分かったかって、私が多種多様の花の名前を覚えていたから……なんて訳では無いわ。
名前を聞いたら驚く程に攻略対象の情報が記憶として蘇ったのよ。
我ながらどんな脳の造りをしてるのか不思議で仕方が無いわ。
それにしても殿下含め、もう4人と関わりを持ってしまった。
花男子に気をつけると決めたはずが、気をつけていても関わらざるを得ない状況が待っていたとは……ちょっと考えればわかったことよね。
避けられないなら仕方ないわ。
なので、次よ。
私以外のの攻略対象者の婚約者が学園でヒロインに対し起こす物事は、私がしたことになってしまう。
ゲーム通りならね。
だから早めに彼らの婚約者を把握して、なるべく接触を避ける。
とはいえ、貴族ですから挨拶や世間話はすることになるでしょう。
要は仲良くなりすぎないようにするのよ。
王子妃になるなら、本当は側近候補の婚約者と関わりを持たないなんてありえないし致命的だわ。
それでも命には替えられないもの。
他で補ってみせるわ。
「それで、どうなのかしら?」
ライラック様は少々お困りの様子でアロイヴを見ているので、先に難しい顔をしているアロイヴに話を振る。
「まだ見合いを受けるつもりもないな。」
「あら、あと2年もすればデビュタントですのよ。エスコートなさるお相手くらい考えておいででしょう?」
「まだ2年ある。」
余裕ですこと。
仕方ないとライラック様に視線を移す。
「僕もまだ婚約者を決めるつもりは、ないですよ。」
「まぁ、好きな方でも?」
「いえ、あの、そういう話は…!」
ふふ、可愛らしい方ですこと。
そもそもこの手の話が苦手のようですわね。
「目ぼしい方が見つかりましたら、教えてくださいましね?」
もちろん、正式に婚約が決まったら嫌でも耳に入るだろうけれど。
貴族の情報はすぐ広まりますからね。




