第1章1『信じれないことが起きました! 』
なんだろう。異世界に来たのにそこまで驚いていない自分がいる。普通ならもっとパニックになってもおかしくないのだが、俺は妙に落ち着き始めた。
そこで俺は今起きている状況を整理した。
まず最初に、俺の名前は宮ノ内純也。機械製造会社の大手に勤めていた。身長は182センチと大きめだ。兄弟はいない。彼女ももちろんいない。ある日、仕事が早く終わったので早く家に帰った。家に帰ると夕食の支度とお風呂の準備を済ませて、ゆっくり風呂に入ろうと浴槽に浸かっていて、のぼせてきたのは覚えている。だが、覚えているのはそこまでだ。
そしてふと目を開けるとこの世界にいたという訳だ。
「ったく、夢なら覚めて欲しいもんだ」
たしかに、これが夢ならまだ信じられなくもない。だが、夢にしてはリアルすぎる。自分の触れた物の感触や感覚など、はっきりと伝わってくる。
「「うわぁぁぁぁあ! ! ! 」」
! ?
「なんだ? 今の悲鳴は」
なにやら街の様子がおかしい。さっきまでの人混みが嘘かのように今は人は愚か、物音すらしない。その中に響き渡る悲鳴。普通なら一発でどこにその悲鳴をあげた人がいるのかがわかるのだが、この時は全く逆だった。
悲鳴の行方を追っても全然場所が分からず、とてもではないが見つけられなかった。
そんな時、あり得ないことは起きた。それは、普通は建物があるとその先は建物を壊さない限り見えないし、建物の中も透けてないと見えない。だが今、俺ははっきりと建物の裏や建物の中まで誰がいるかまではっきりとわかる。つまりだ、これはいわゆる『千里眼』ってやつだ。なにが原因でこの能力が使えるようになったのかは疑問だが、今はそんな事を言ってる場合じゃない。
今はあの悲鳴がどこから聞こえてきたのかを調べるのが先だ。目を大きく見開くとなにやら街の隅で凶器を持った男が年老いた老人に迫っている。なんだろうなぜかはわからないが今ならなんでも出来そうな気がしてきた。
ここから全力疾走で走ってギリギリ間に合うくらいか。脳よりも先に体が動き、驚くほどに恐怖心はなかった。風を切り裂くように走り、なんとか男の目の前に来た。あとコンマ数秒遅れていたら多分この老人は死んでいただろう。
「おいお前!! そいつを庇う気か?だとしたら容赦はしないぞ? 」
「庇うに決まってんだろ!! 相手は老人だぞ! この老人がなにしたっていうんだよ!」
俺はこの時とてつもなくイラついていた。違う世界に来ていきなり変な能力を得て、こんな状況になっていることに。
「そんなことお前には関係ねぇだろ!! とっととその老人をこっちに引き渡せ! 」
「嫌だね! 渡して欲しけりゃ俺を倒してからにするんだな! それと、あんたは逃げろ!ここは俺に任せな」
「う、うぅ・・・」
どうやら老人は腰が抜けているらしい。余程恐怖に怯えているのだろう。
「まあいい、お前を殺した後でそいつも殺せばいいだけの話だ」
遠くから見た時は気づかなかったが、近くで見るとどうやら只者ではなさそうだ。普通に通り魔かなにかかと思っていたが、そうじゃない。なにかもっと悍ましいものだ。
なぜだろう。怯えて来たのか身震いが止まらない。だがここで逃げればこの老人は間違いなく死ぬ。そうなるくらいなら俺が少しでも時間を稼ぐしかない。例えここで死んでもこれは夢だと思えばいいのだから! 俺はそう覚悟を決めると、「あーあ。こんな事ならもっと私生活を充実させとけばよかった。まさかこんなことになるなんて、ついてないぜまったく・・・」
っと、捨て台詞を残すと俺は男に突っ込んだ。怯えてはいるがさっき思ったことを俺は忘れてはいなかった。それは、今ならなんでもできるとさっき自分で放った言葉だった。
そう言えば俺は自分の小説で書いたもので
ファンタジーものを書いたが似たような場面を書いたことがある。しかもその主人公は普通じゃ考えられないことを次々に成し遂げてしまう完璧主義者だった。
でもまさかと思っていたが、それもまさかじゃなくなってきそうだった。
「馬鹿め!! 捨て身を覚悟で突っ込んで来やがったか! だがそれも無駄な足掻きだ」
男と男の持っていた凶器の形が変わった。まるで棍棒から斧に変わったみたいにその凶器は大きくなった。そして男自身も醜い化け物へと変化していったのだった。
「っく! ! !只者じゃないとは思っていたがまさかここまでとはな! 」
「どうした、今頃怖気づいたか? だがもう遅い。今楽にしてやる」
もう駄目かと思っていた。が、しかし次の瞬間。「若者よお主はそんな未熟者ではないはずだ。もっと自分を信じてみるんじゃ」
っと、聞き覚えのある声が脳に話し掛けて来たのだった。
「自分を、信じる・・・」
そうだ!今や俺が居るのは現実世界とは全く異なる異世界! ! 俺の勝手な妄想だが、異世界はなんでもありというのを思ってしまう。
そこで俺は脳で念じてみた。今、目の前の化け物を倒せる最高の武器を!
すると、両手を開き武器を握れるほど拳を開くとそこには鋭い刃を尖らせ切れ味も良さそうな双剣が現れたのだった。
「っな! ! ! お前! どうやってそんな武器を出した! ! 」
相手は武器にももちろん驚いていたが、武器をどうやって出したのかが気になっていたのだ。
「俺にもよくわからない。ただ、俺はお前を倒せる! そう思ったから脳で武器を念じたのさ」
驚きを隠せない化け物は、「ちっ! ! 今回は大目に見てやる。だが、次はない! 」
そう言い残すと化け物は姿を男に戻し、一瞬で姿を消した。
「ふぅ。なんとか助かった」
ホッとしたのか全身の力が一気に抜けた。
そして双剣も消えていった。俺は双剣と千里眼を得て改めて思った。
「もしかして、でもそんなことがあり得るのか? 」
途中からまさかと思ってずっと気になっていたが、信じられなかったのだ。
だが、複数の能力を得て確信に変わった。
『 俺は今、自分の書いたファンタジー小説の中にいるのだ!』