『異世界への一歩』
いつも通りの帰り道。なんてことない日常をなんてことなく終えていく。俺は21歳の機械製造の大手企業に勤めているサラリーマンだ。高校を出た後は大学には行かずこの企業に就職し、毎日遅くまで残業しているのだ。
身長は高いとよく言われてきた。182はあると思う。部活はなにもしていなかった。
彼女はいない。兄弟もいない。なにをするにもぼっちだ。そんな中、俺を癒してくれる唯一の存在がネット小説だ。高校2年の時からずっとはまっていてその時は学校が終わるとすぐに家に帰り、パソコンを開きネット小説を書いていた。つまりこの瞬間だけが唯一の俺の楽しみなのだ。
そんなある日、残業がいつもより早く終わり
家へと直行した。家までは電車と歩きで約30分くらいかかる。それを走りに変えたらなんと20分で家に着いた。体力はあまりある方ではないがこの日は何に興奮してたのかは知らないがアドレナリンが出ていたのか、いつもより走れたのだった。
家に着いた。家はボロくなったアパートだ。
外見は決して綺麗とは言えないが中はちゃんと掃除もしているからか然程汚さは目立たない。このアパートに越して来たのは就職するにつれ、親が借りてくれたのだった。
だから、ボロいから嫌だなんて口が裂けても言えない。家の中に入ると玄関から一歩入るともうそこは部屋だった。部屋の右にあるドアを開けるとトイレと風呂がある。
「さてと、まずは風呂にでも入ってリラックスしますか! 」
お湯を溜めている間に夕食を作っていると、
ブー、ブー、ブー、
と、携帯が鳴った。
それは会社の後輩の宮野からの一通のメールだった。そこに書かれていたのは、
『先輩! お疲れ様です! 突然なんですが先輩が書いてる小説ってなんか普通のネット小説と少し違いますよね。 なんかこう、画面の向こうに吸い込まれそうっていうかなんていうかとにかく凄いと思います! これからも執筆頑張ってくださいね! 』
そう言えば俺がネット小説を書いているのを会社で知っているのはこいつだけだった。
応援してくれるのは嬉しいがさっぱり言葉の意味が理解できなかった。
俺が書いている小説はハイファンタジーものだが、まだ全然終わりまで行っていないのに
そんな吸い込まれる要素なんてどこにあったのだろう。
そんなことを考えているうちに夕食の準備も終え、風呂のお湯も溜まった。
脱衣場に行き、服を脱ぎ、下着も脱ぐと、風呂場に入り体を洗い、髪も洗うと浴槽に浸かる。
「あーーーっ! ! ! 疲れが吹っ飛ぶー! 」
首を左右に振り、大きく伸びをした後に頭までお湯に浸かると、なんだかのぼせてきたのかフラフラしてきた。
「あ、あれ、意識が・・・」
意識が遠のいたかと思ったのも矢先、俺はたしかにさっきまで自分の家の風呂場で温まっていたことだけが頭に残っている。
だが、ここは風呂場でもなければ日本でもない。それだけはなぜかわかった。
「一体ここはどこなんだ? 」
辺りを見回すと人混みの中に一人、場違いのような格好で立っている自分がいる。そこはどこか異世界の街中とでも言えばいいのだろうか。それくらい広くどこまでも続いていた。
そして俺は口を開き、「そうか、俺、異世界に来たのか・・・」
そうして自分の置かれた状況をよく理解しないままこの世界に俺は来たのだった。