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それが純愛だったなら


  ――どこまで遡ればいいのだろう。しかし、それはわからない。恋はそういうものなのだ。
「好きだよ」
と彼女に言ったときにその恋は本当の恋になったと言ってもよい。でも、それ以前から恋はしていたのかもしれない。

  8月。海が見える街に僕と彼女はいた。それが極自然のことであるように回りの人たちには映っていただろうし、僕もそう思っていた。そう思っていなかったのは彼女だけであった。
 何故なら、彼女は自分が死んでしまうことを、その時既に知っていたから。
 病気というものは恐ろしい。しかし、それによって消えるものは肉体だけである。
 だからこそたちが悪い。病気がどれだけ悪質なものであっても恋は消えないからだ。
 僕と彼女は暫く会っていなかった。それも二年ぐらい。彼女は僕を一度を見捨てたのだと思っていたが、今思えばそうではなかった。
 彼女と一緒に浜辺に行った時、僕は彼女が病気に侵されていることを直感的に悟った。彼女が弱っていたことは、彼女の歩き方を見ればわかった。
「ここまで来てしまったけれど、引き返すべきだ。帰ろう」
  僕は彼女が心配になってそう声をかけたが、
「嫌よ。私は貴方と一緒に泳ぐの」
と言って僕の提案を拒否した。僕は手が震えた。
 彼女はきっと、もとの場所に引き返したところで死んでしまう運命ならば、僕と一緒に海に行きたがったのだ。
 空は曇っていた。それは大量の雨雲により演出される曇りだ。
 つまり、雨が降りそうだった。
 彼女が弱っており、天気も良くないそんな時に一緒に海なんかに行くべきではないと強く思った。
 だけど、彼女は絶対に海の中に入るという強い決心をもった顔をしていた。
 彼女は、上着を脱いで水着姿になった。病気のせいか痩せ細っていた。
 僕も仕方がないので水着姿になった。
 その時、雨が降ってきた。それも凄い勢いで。
 豪雨の中、ふらついて立っている彼女を見るのは最高に悲しかった。
「やっぱり、帰ろう」
僕は彼女にそう言った。
「絶対に嫌だ」
  彼女はそう言った。帰ることは絶対に嫌だと言ったのだ。
 そして僕は彼女と手をつないだ。その手に力はなかった。
 少し歩いて海の中に入る。雨の凄まじい音がする。
 彼女は僕の顔をじっと見た。そして唇を尖らせた。
 僕たちは、僕たち以外誰もいない豪雨の中、二人でキスをした。
「好きだよ」
 そして、水着の上で抱き合った。水着というなの隔たりはここでは感じることがなかった。
 恋をするとそうなってしまうらしい。
――雨に打たれて抱きしめ合い、そして僕は彼女を抱えて街に戻った。

その夜、彼女は死んだ。雨音はもうしなかった。
彼女が病気になっていることに気づいた日に彼女は死んだのだ。
それと、もうひとつ気づいたことがある。
消えないものがまだ残っていることに。
それは、彼女への「恋」だった。

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