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40/42

#40 それでも僕は…

「お兄さん、今日はどんな感じにします? カット? カラーリング?」


 美容師のお姉さんは営業スマイルを浮かべながらオレを覗き込む。いや見上げるかな?


 まあファーストステップとして手っ取り早く、分り易いことから。

 これからも人生って舞台を演じるために。役作りは多少するけれど、それもやっぱり必要なことだから。


 渡された雑誌を捲りながら、ボブカットのお姉さんに希望の髪型を伝える。


「そうですねぇ…じゃあこんな感じで。あっ、あとカラーリングもお願いします」

「はいはーい! それで色はどうします? お兄さん、結構ブリーチかけて染めてるみたいだけど、もっと明るくします?」


 元気良くハキハキと喋るお姉さんに流されたのか、少しだけ顔が綻んだ気がした。


「いや、黒髪に戻したいんです。もう…この色にも飽きちゃったんで」

「ふーん。まあお兄さんなら黒も似合いそうですもんね(脱ギャル男かなー?)」


――また嘘が視えた。しかも相当にどうでもいい本音(もの)が。


 もう、現在のオレはウソを否定しない。もう嘘をつくぐらいで人に絶望したくはないから。


 大体、そもそもの前提以前の問題として、オレだって嘘はつくんだし、演じないと生きてはいけない。

 土台演技する必要のない舞台だとしても、自分に出来ないことを他人に押し付けるのは間違いだろ?


 テキパキした動作で準備を整えたお姉さんはファイルを手渡す。


「じゃあまずカットしていきますねー。その間色見本から希望に近い色を選んどいてくださいね」

「はーい」


 お姉さんの手で、僕の髪にハサミが入る。それはもうジョキジョキと。容赦なくバッサリと。


 うーん。別に大して感慨深くもないけれど、それでも思う所が皆無であるとは言え無くはない。

 この髪は僕にとって憎むべき過去の象徴とでも言うべきか、不幸の道標みたいなものだったから。


「あ、カラーリングはこんな感じの深い色で」

「はい、わかりました」


 例えばもっと別の解釈をしたとしよう。嘘を付くのはそこに込めた願いがあるというのはどうだろうか?

 事実に反したことを言葉にするのは、理想を口にしたということ。

 現実にはどうにもならないこと、そんなリアルに生きながらこうあればよかったのにと祈るように嘘を付く。


 そう考えればなかなかにロマンティックだとは思わないか? 仮にそうだとすれば真っ向から否定するのは躊躇われるってものだ。


 ならば、その祈りを無慈悲に見破ってしまうオレの存在は結構非情なものだろう。何かを願っても、何かに祈ってもオレは問答無用で叩き潰す。


 それが罪なら、罰もまた同義であるのだろう。知らなくてもいいことが視える、これ自体が罪であり罰。何か釈然としないが、即興で考えたにしてはそこそこ整合性があると思う。


「そう言えばお兄さん、高校生? これからデート?」

「ははっ、そんな予定無いですよ。僕は彼女なんていませんから」


 お姉さんの振る世間話に曖昧に答える。今まではこんな会話も煩わしいものでしか無かった。今はそこまでじゃない。面倒臭いが嫌じゃない。悪くない。


「へえ意外ですね。お兄さん、お洒落なのに」

「そんなこと無いですよ。普通です」


 プライベートな質問を苦笑いで流す。

 会話の内容、オレの応答、全てが普通だ。



 タイムマシンでもあれば話は別だけど、もう二度と過去には戻れない。

 払った代償は多すぎる気がするが、それで手に入れたものもある。


 ならそう悪いものでも無いと思うんだ。


「お兄さん髪長いですねぇ。何かポリシーでもあるんですか?」


 適度に会話を振りながらも、お姉さんの手は止まらない。


「いや、ただの面倒くさがり屋ですよ。別に確固たる信念なんかありません」

「でも、男の人にしては長いでしょ?」

「まあこれが僕のデフォルトですよ」


 でも、失った過去を塗り潰せるだけの何かを手に入れることの出来るのなら。

 暗い思い出が霞む位に明るい時間を過ごせるのならば―――もしそうならば、オレはそれを望むのだろう。


 いつか必ず失う時が来るのだとしても、きっとそれは僕が望むものだから。

 サンタを信じなくなって、ネバーランドは存在しないと理解した今、オレはどうしたいのだろう?


 何に、どういうものに成りたいのだろう?


「答えは既に出ているような気がするし、そんなもんかもなぁ」

「え?」

「いえ何でもないです」


 訝しむお姉さんを躱して、何でもないような雑談にシフト。


 本当に意味のない雑談。内容のない会話を罪なく続けた。

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