表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フィールドに舞う桜と共に  作者: しーた
『奇跡の桜』編
88/90

第88話『桜の大切な人達』

気が付いたら、真っ黒な空間に一人で立っていた…。

自分の周囲だけ、芝のグラウンドが見えた。

目の前には一本の白いラインが横切っている。

センターラインなのかサイドラインなのか、それともゴールラインなのか、分からない。


誰も居ない。

何も聞こえない。

ボールもゴールも無い…。


取り敢えず一歩前へと足を踏み出そうとした瞬間。

フワッと何かが、目の前に現れた。

綺麗な女性だった。


「桜…。」

その女性が話しかけてきた。

あれ?

「どうして名前を…?」

女性はニッコリと微笑んだ。


長い黒髪、どこかで見覚えのある顔立ち…。

遠い遠い昔に聞いた事があるような、優しく心に響く声…。

そして、毎日見ていた白いノースリーブのワンピース…。


あっ…。


まさか…。


もしかして……。


もしかして………。


もしかして!


「お母さん!」

女性は微笑みながら小さくゆっくり頷いた。


「お母さん…、お母さん!!」

私は会いたかったお母さんに抱きつこうとした。




「来ちゃダメ!」




まるで、小さな子供を叱るように、厳しくも何かを伝えようとする言葉に、体が勝手に止まった。

「どうして…?」

私は早まる鼓動に耐えきれそうにないよ。

あんなに会いたかったんだもん。

我慢なんか出来ないよ…。


「落ち着いて話を聞いて。」

お母さんは、また優しい笑顔に戻った。

その笑顔に、ゆっくりと鼓動が収まっていくのが分かった。

私は落ち着きを取り戻すと、小さく頷いた。


「ゴール、おめでとう。最高に格好良かったわよ。」

あっ…。

そうか、そうだった…。

ゴール決めたんだった…。


「あのね…、ドリブルしている時にね、皆の声だけ聞こえたの…。走れ、飛べ、最後の1秒まで諦めるなって…。だからゴール出来たの。皆の声が…、皆が背中を押してくれたの!」

うんうんと頷くお母さん。

「でもね、私、気が付いちゃった。」

「何を?」

「最後あんなに高く飛べるはずがなかったの。もう、足が…、体が限界だったの…。でもね…。」

私は本当かどうか確かめる為に聞いてみた。

「誰かが羽を授けてくれた。それでフワッと飛ぶようにジャンプ出来た。それって…。羽をくれたのって…、お母さんでしょ…?」

ニッコリしながら頷いたお母さん。

「友達が、必死になって片方だけ羽を作ってくれたのよ。でも時間が足りなくて両方は揃えられなかったみたい。だから、もう一つの羽を桜にあげたの。」


私は涙が零れた。

ボロボロと地面に落ちる大粒の涙。

「お母さんは…、本当に…、うぐっ…、見守っていて…、うぅ…、くれた…。」

涙を拭くけど、拭ききれないよ…。

「嬉しい…。」

私も最高の笑顔でお母さんを見つめた。


「その羽を、しっかりと受け取れたのは、あなたが日頃頑張ってきたから。そうじゃなければ、受け取れなかったのよ…。」

褒められた気がした。

「よく…、頑張ったわね…。」

お母さんは涙を零しながら…、褒めてくれた…。

「うん…。皆が…、み、皆が支えて…。」


大声で泣きそうになり、口元を掌で抑えた。

でもどうしても伝えたくって、手の甲で押さえ変える。

「皆が…、こんな私の為に…、為に…。うぐっ…。」

「そうね…。彼女達は、あなたの大切な宝物よ…。ほら…、聞こえるでしょ?」


私は耳を澄ませた。

(桜ぁぁぁああ!!)

(桜先輩!!)

(桜ちゃゃゃん!!)

私を呼ぶ声が聞こえる。

皆が私を待っている…。


私は決断を迫られている事に気が付いた。

このままお母さんと一緒にいるか、それとも仲間達の元に戻るか…。

でも、どっちかを選ぶなんて、私には決められないと思った。

両方共、私のかけがえのない人達だもん。


悩んでいた私は、どうしたら良いか思い切ってお母さんに聞いてみようと顔を上げて息を吸い込んだ。

………。

お母さんは…、少し寂しそうな顔をしていた。

あぁ…。

私は察してしまった…。

きっと、私は、ここに来ちゃいけなかったんだ…。


目の前のラインは、もしかしたら人生のゴールライン…。

だからお母さんは来ちゃダメって言ったんだ。

そっかぁ…。

だから皆は私の名前を叫んでいるんだ。


「お母さん…。」

「ん?」

「わ、私…、行かなくっちゃ…。」

お母さんは優しくも、嬉しそうに微笑みながら頷いた。

「そうね。羽をくれたお礼をしなくっちゃね。」

「うん!」

「桜…。」

「ん?」

「ごめんね…。」

「?」

とても寂しそうな表情のお母さん…。


「小さな体で産んでしまって…。」

「お母さん!」

「………。」

「丈夫な体で産んでくれて、ありがと!私、産まれてきて良かった!!これからもいっぱいサッカーやるよ!!!」

「さくらぁ…。うぅ…、さくらぁぁ…。」

二人共泣いてた…。


本当は今直ぐ抱きしめたかった。

駆け出しそうになる体と心を必死に抑えた。

お母さんの温もり、匂い、息遣い、心音…、どれもこれも味わいたかった…。

だけど…。

仲間達が呼んでいる。

皆の顔が脳裏に浮かんだ。

待っている、最高の仲間達が…。

「じゃぁ、お母さん、行ってくるね。」

「うん、いってらっしゃい。」


私は振り返ると、皆の声が聞こえる小さな光に向かって全速力で走っていった。

そうじゃないと、戻ってお母さんに抱きついちゃいそうだったから…。

背後から小さく最後の言葉が聞こえた。

『寂しがり屋のお父さんのこと、よろしくね…。』

「任せておいて!それと、羽をくれてありがとう!お母さん!!」





光はとても眩しくて、目をつむって思いっきり飛び込んだ。





頬を撫でる風を感じる。

ゆっくりと目を開けた…。

「桜ぁぁぁ…。目を覚ませ…、桜ぁぁぁ…。」

どうやら、天龍ちゃんの膝の上で横になっているみたい。

「後からじゃぁ、駄目なんだ…。今褒めてやらなきゃ…、今この瞬間じゃなきゃ…。この空気の中じゃないと…、実感沸かねーだろ…。だから、今じゃなきゃ…。いい加減起きろ…。桜ぁぁぁ…。」

彼女はボロボロと涙を零しながら、必死になって私の名前を呼び、叫んでいた。

涙は私の顔に、ボタボタと落ちてくる。


天龍ちゃんの背後では、部長と翼ちゃんが主審さんに何かをお願いしていた。

「もう直ぐあいつは目を覚ましますから…、今日のために…、桜のゴールのために全員で頑張ってきたんです!今あいつを褒めてやらないと…、またあいつは…。だから!」

「俺からもお願いします。百舌鳥校サイドは、何分でも待ちますから。」

私が目を覚ますのを待っているみたい。


鉄の様に重たい手を、細かく震えながらゆっくり持ち上げて、天龍ちゃんのびしょびしょに濡れた頬に当てた。

「ハッ………!!」

私は安心させたくて、無理やり笑顔を作ったけど、うまく作れてないと思った。

そんな事はお構いなしに、彼女はビックリした表情の後、思いっきり私を抱きしめた。

「桜が目を覚ましたぞぉぉぉおお!!」

すると皆が一斉に集まってきた。


「すげぇゴールだったぜ!桜ぁ!!俺はとんでもねぇもんを見ちまった!」

天龍ちゃん…。

「ナイスシュートです!桜先輩!!!」

フクちゃん…。

「最高のシュートだったぞぉぉぉぉお!!!桜ぁぁあああ!!!」

部長…。

「相変わらず桜のシュートはどぎついネ~♡」

ジェニー…。

「凄いよ!凄いよ!あんなシュート、世界中の動画の中にもなかった!」

いおりん…。

「桜ちゃんのシュート、一生忘れない!」

藍ちゃん…。

「あんなの誰にも止められないです!」

ミーナちゃん…。

「桜のシュート…。」

「誰にも真似出来ない…。」

「世界で一番のゴールだった!!!」

リクちゃん、ウミちゃん、ソラちゃん…。

「もう!私感動しちゃったじゃない!」

可憐ちゃん…。

「先輩のシュート!凄すぎて、凄すぎて…。」

香里奈ちゃん…。

「ナイスゴールだった。お前は更に成長したな。」

翼ちゃん…。


皆…、皆…。






「ありがとう…。んぐっ…。うぅ…。」





「ウワァァァァァァァァァアアアア…。」





枯れたと思うほど泣いたはずだけど、涙はどんどん溢れて、視界がぐちゃぐちゃになっちゃった。

もみくちゃにされて、もう、何が何だか分からないぐらい。

遠くにはスタンドからの大歓声も聞こえてきた。


最高だった。

ゴール決められて、本当に良かった。

私だけのゴールじゃない。

皆で…、皆で決めたゴールなんだから…。


あぁ…。


そっか…。


この瞬間ときの為に、頑張ってこられたんだ…。


皆も…、このしゅんかんの為に、頑張ってくれたんだ…。


仲間達からいっぱい褒めてもらえて、凄く嬉しかった。


私の心は、一番奥で大切に育ててきた、皆の優しさで溢れて包まれた。


もう怖くない…。


何も怖くないんだから…。


「そろそろ、整列出来るかな?」

主審さんが覗き込んできた。

「はい…。ありがとうございました。」

「お礼を言いたいのは私の方だよ。両校とも最高の試合だった。この試合の笛を吹けて誇りに思う。」

ニッコリ笑った主審さんは、副審二人を連れてゆっくりとセンターサークルへと向かっていった。


「桜、私に掴まれ。」

部長が大きな背中を向ける。

「うん。」

私は躊躇うことなく、おんぶされた。

まだ足がガクガクして、上手く歩けないの。


私達もセンターサークルへ到着した。

大歓声は、今だ聞こえてきていた。

部長の背中から降りて、直ぐに彼女の左腕に掴まった。

まだ、足がおぼつかないよ…。


主審さんが整列が終わった事を確認し、小さく頷いた。

「4-3で桜ヶ丘の勝利です!」

「「「ありがとうございましたぁ!」」」


私は翼ちゃんと握手をする。

「優勝おめでとう。」


!?


あれ?


私はヨロヨロっとして、ペタンと尻もちをつくと、そのまま女の子座りをした。

翼ちゃんが心配そうに支えてくれた。

「翼ちゃん…。ありがとう…。」

「完敗だな。」

そう言った翼ちゃんは、何だか嬉しそうで、笑顔だった。

「翼ちゃんに出会って、初めて笑った顔見た…。」

「ん…?そうかな?」

「そうだよ!」

「桜だけ、3年連続優勝になったな。」


ハッ…。


そうだ…。


そうだった…。


私は…。





優勝した事に気が付いた…。





みんなの方を見た。

どうして良いか分からず、オロオロする部長…。

泣きそうな顔で私の方を見ている仲間達…。

口元を両手で押さえ、驚く表情のジェニー。

ほおけた顔で、私の顔を見た天龍ちゃん…。


私は…。


私は…。


いつものように…。





思いっきり泣いちゃった…。





ワァァァァァァァアアアアアアアア…ン


「桜がまた泣いたぞ!」

天龍ちゃんの声を同時に、全員が私を取り囲んで抱きつかれた。

「やったぜ!俺達は成し遂げた!!!」

「桜!桜!!こんな事があっていいのか!?」

「桜先輩!僕達勝ちました!!」

「Miracle championship!!!」


全員泣いていた。


人差し指で天を指し、手を高々と上げて、私達が日本一だと見ている人全員に知らしめた。


私達のサッカーが日本一なんだと。


最高の笑顔で!


歓喜の叫びが、満員のスタンドに響き渡った。


今日1月10日は、桜ヶ丘イレブン第一期生の、大切な記念日となった。


奇跡の桜が満開に咲き誇った、一生忘れられない記念日に…。


フィールドに散らばった13本のミサンガが、静かに主達を見守る中で…。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ