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フィールドに舞う桜と共に  作者: しーた
『奇跡の桜』編
63/90

第63話『藍の初詣』

1年の始まり。正月。そして初詣。

サッカー部全員で、筑波神社にお参りすることとなった。

あー、何だかこういうの久しぶり。

陸上部時代にも、当時仲の良かった子と近所の神社へ初詣に行った事はあるよ。

どちらかと言うと、出店の方が行く理由だったりしたけどね。

だけど今日は違う。

本当に神様に願い事を聞いてもらう為に来た。

どうやら私は一番乗りだったみたい。集合場所の大きな鳥居には、誰の姿もない。

「あーあ、こんな時ばっかり1番にならなくても良いのにねぇ。」

そんな愚痴を正月そうそう言ってみる。

ま、サッカーでは愚痴なんか全然出ないけどね。


おっ、早速見知った3人組発見。げっ、き、着物!?

渡辺三姉妹、気合入ってるぅ~。近づいてきたところで、向こうもこっちを見つけたみたい。

「明けましておめでとー。」

と、私。

「明けまして…。」

「おめでとう…。」

「ございます…。」

そして三人同時に軽くお辞儀する。動作がぎこちない。そりゃそうだ、着慣れない着物だしね。

「着物、いいねー。あ、でも三人共柄に個性が出ているね。」

「変…かな?」

リクちゃんが答えた。

「んーん。可愛い。三人共可愛いよ。」

満面の笑みで答えた。そう言えば、サッカーやってから嫌味の無い笑顔ばっかだなー。

「ありがと…。」

三人はそれぞれ照れて、ニッコリしながら顔を見合わせていた。

「おっ、次は誰だー?」


少し遠目から、こちらに向かって手を振る人がいる。あぁ、ありゃぁ、天龍だ。ということは桜ちゃんも居るな。

近づいてくると、予想は当たっていた。桜ちゃんは人混みに紛れると、低い身長のせいで見えなくなっちゃうからね…。

「明けましておめでとー。」

と、私。

「おう!おめっとさん!」

天龍はぶっきらぼうに答えた。まぁ、あんたらしくていいわ。

「おめでとうございます!本年もよろしくお願いします。」

ペコリとお辞儀した桜ちゃんは、意外とこういうところキッチリしているよね。あぁ、意外ではないか。


そう思っていると、次は背の高い奴らが来た。

部長が右手を上げながらアピールしている。その隣にはジェニーと、頭のてっぺんだけ見えるけど、多分いおりんだよね。あれ?髪飾り付けている?

「明けましておめでとー。」

「おめでとう!」

部長は男っぽいところあるよね。

「Happy new year!」

マジ本の英語だ。当たり前か。

「あけおめー。着物つかれたー。」

部長やジェニーの、何というか男っぽい格好とは対象的に、いおりんはバッチリ着物でキメていた。渡辺三姉妹が興味津々で、いおりんを囲んで着物について話している。

こういう女性らしい格好とかって、間近で見ると結構いいなー。

そう言えば、成人式では着るか。あぁー、なんか似合ってなさそう…、私。

「あー、藍ちゃん、私には着物似合わなそうって思ったでしょ。」

桜ちゃんからだ。何でこの子は、こんなに感が鋭いんだろ。

「まぁね。」

「絶対に似合うよ!だって、スラッとしてるし、背も高いしね。」

「桜ちゃんだって、似合うと思うよ。」

お世辞じゃないよ、まぁ、お人形さんみたいなイメージだけどね。

「無理無理!ここに来る途中で天龍ちゃんとも着物の話になったけど、私が着たら七五三みたいだって言うんだよ!酷いと思わない!?」

「ふふふ。」

「あー!藍ちゃんも笑ったー!」

「ごめんごめん。でもね、その可愛さは殺人的だから、桜ちゃんが思っている以上に需要あると思うよ。」

「んーーーー!」

握り拳の両手を上下に振りながら、言葉に出ない、何というか、怒っているのだろうけど可愛らしい。


そうこうしていると、可憐ちゃんと後藤先生がやってきた。

「明けましておめでとー。」

「うむ。おめでとう。」

後藤先生は、こういうの慣れていないのか、ちょっとぎこちない。

でも先生という立場は決して忘れていない。他の人の邪魔にならないよう注意したりしている。着物の子には、動きづらいだろうからという配慮もしている辺りが、なかなか憎いね~。

「おめでとー!」

可憐ちゃんは、上がり症じゃない時は凄く元気で明るいよ。

それに服装も女の子してる。私とは正反対だね。

大会終わったら、彼女みたいに髪を伸ばしてみるかなぁ。

前髪をいじりながら、そんな事を思った。


そして直ぐに後輩達がやってきた。

福ちゃんとミーナちゃんだ。あぁ、これもきっと香里奈ちゃんもいるな。

案の定、3人いたよ。香里奈ちゃんも、背は低いからね。

「明けましておめでとー。」

「おめでとうございます。先輩方。今年も宜しくお願い致します。」

福ちゃんは、本当に真面目。私なら息が詰まっちゃいそうだけれど、彼女は素であんな感じだし、根っからの真面目さんなんだねぇ。

「おめでとうございますっ。」

ミーナちゃんはすらっとしていて、本当に美人さん。バレーボール部は、逃した魚が大きいねぇ。私の陸上部は…、まぁ、関係ないか。

「明けましておめでとうございますであります。」

相変わらず、香里奈ちゃんの「あります」口調は面白いね。見た目は部長に似なくて本当に良かった。あっ、これは心の中に留めておかないと。


さてさて。これで全員集まったね。

部長が仕切って、先生が注意事項を言いながら、皆の浮かれた心をちょっと落ち着かせた。はしゃぎすぎて他人に迷惑かけたら大変だし、大会前だからね。

明日には会場へ向かうから、今日の午後はその準備になると思う。

両親には、色々と協力してもらっていて、大変なはずなんだけど、何だか嬉しそうだった。ちょっと意外。

まぁ、どこの家も同じみたいだけど。

ぞろぞろと神社へと向かう。

車道から本殿へ向かう脇道へそれる。人の波も続いていた。


筑波神社は相当古いみたいで、まぁ、改修や補修はしているだろうけど、歴史を持った風格というか威厳というか、そんな雰囲気はあるかな。

人混みに紛れながら、お参りを済ませる。

願ったのは、勿論、優勝。

だってそうでしょ。全国大会だよ?信じられる?

ここまできたら、狙うしか無いっしょ。

陸上では全国どころか県予選で苦戦していたしね。本当に夢みたい。

その過程で、百舌鳥校も倒しちゃうしかないね。

とはいえ、初戦すら勝てるのかどうか、私にはわからんけど。

でも願わずにはいられない。

そして、この世界に引っ張ってくれた桜ちゃんには、感謝を…。


他のメンバーも、思い思いに祈っていた。

それも、すごい真剣な顔で。中には結構長くお祈りしている子もいるけれど、桜ちゃんが一番短かった。と言うか、あれで祈れたの?

まぁ、後で話題になるだろうから、その時に聞いてみよ。

部長とジェニーは、サッカー以外に、桜ちゃんについて何か、いかがわしい祈りもしたよね、絶対。神様も正月早々困惑だよ。


皆でお守り買ったり、おみくじ引いてみた。

殆どの人は、吉や末吉だったりしたけど、可憐ちゃんが大吉、ウミちゃんが凶を引いちゃった。

可憐ちゃんは大喜びで、財布の中に閉まってた。どうやら幸運なくじは、持っていた方が良いらしいよ。んで、悪い方のくじは、神社の境内にてくくりつけてお祓いしてもらうんだって。全然気にせず、何でもかんでも縛ってたよ。

そんな中、ニコニコして皆の様子を見ていた桜ちゃんに気が付いた。

あれ?おみくじ引いてたっけ?


「桜ちゃんは、おみくじはどうだった?」

さり気なく聞いてみた。

「私?引かないよ?」

「あぁ、興味無い系?」

「興味無いと言われれば、そうなのかも。私ね、必死に神様にお願いしていた時期があったの。」

あぁ…、トラウマの…。

「だけどね、願いは叶えてもらえなかった。皆に会えた事は素敵な事だったけれど、今だにスランプからは脱出出来てないしね。だから私は、自分で何とかしていきたいって思ってる。」

「つよ!」

「強くなんかないよ。弱いから色んな人の助けを借りて、いっぱい頼っちゃってる。だけど、もしも神様が、お前は今年運が悪いんだぞって言ってきたら…。」

「言ってきたら?」

「神様だって、サッカーで倒しちゃう!」

「ふふふ。そういう芯のしっかりしているところが、桜ちゃんの強いところだよ。」

「ただの意地っ張りじゃないかな?」


そこへ天龍が話しかけてきた。

「そうでもないぞ。」

「そうかな?」

「俺も喧嘩で負けっぱなしで、いつもボロボロになって帰っていた時、神様はいないんじゃないかって思ってたぜ。」

そう言えば天龍も、おみくじ引いてなかったかも。

「まぁ、人それぞれだしね。私はすがれるもんなら、神様にだってすがっちゃう。」

「いいと思うぞ。その為に神様ってのは居るのだろうからな。」

「そうなるねぇ。」


ちょっと複雑な思いだった。

二人共、それこそどん底から這い上がってきたんだなぁ、って思った。

神様すら信じられないほどの酷い状態って、どんなんなんだろう…。

私はそこに落ちる前に、ここにきた。

これはある意味、凄く運が良かったのかもね。

それこそ神様に感謝しつつ、今度の大会でも勝利に貢献したいな。

そう思いつつ、おみくじにあった縁結びの項目を思い出した。

『今は目の前の難題を乗り越える時。いずれ出会える。』


初詣が終わり、今度は全員で、天龍の実家兼食堂の「天空」に来たよ。

ここで大会の説明を聞きながら、お昼ご飯を食べて解散ってことになっている。

何回かチームメイトと来たことがあるけれど、今日は親も一緒で、大会での日程や、宿泊関係の説明が後藤先生から聞いた。

ざっくりまとめると、全国大会の会場は東京で、5会場にて9グラウンドを利用して、全32チームによるトーナメントが開催される。

明日の1月2日午後に開会式があって、さっそく3日に1回戦が始まる。

4日に2回戦、6日に準々決勝で、ここまでの試合は40分ハーフ、つまり前後半合わせて80分にて試合する。

準決勝は7日に行われ、この試合以降45分ハーフとなり、10日に決勝となる。

決勝までいければ、1週間もの長丁場になるねぇ。


東京という場所で考えると、電車で2時間ぐらいで大概のところには行けちゃう距離だから、うちらにとってはラッキーかもね。

いざとなれば家に帰れるって安心感はあるよ。

宿泊するホテルは、例のごとく高山ホテルグループのとし子会長さんが段取りしてくれていた。どの会場からも電車1本で移動出来る、都内でも一等地のホテルだよ…。

ちなみに親の分の部屋もあるみたい。

だから着替えが1週間分あれば、家に帰ったり、親が何回も往復することなく試合に集中出来ることになる。

全員の親が有給やら使って正月休みを延長してあるみたい。

そう言えば母さんが言ってたっけ。

桜ちゃんの父さんが、正月は予定をいれないでと言っていたけど、本当にそうなるとは思わなかったって。


それはさておき、当事者の私が言うのもなんだけど、決勝までいける自信があるのかと問われれば、複雑な心境なんだけれどね。

親も親で、最初否定的だったくせに、今ではノリノリで大騒ぎだよ。

ちなみに全校生徒が応援に来てくれることにもなっている。

学校側だって、どうせすぐ負けるだろうみたいな雰囲気がプンプンしていたし、関東大会決勝まで応援なんてきてくれなかったのに、今では「祝!女子サッカー部 全国大会出場」なんて横断幕を校舎に掲げて、こっちも大騒ぎになっているよ。


そうそう、12月には抽選会にも行ったよ。

1回戦は、中国地区1位の広島元安高校だった。

前評判はパッとしないけれど、過去にも全国に出たこともあるしで、うちらよりは有名かな。つか、桜ヶ丘より無名な高校はないけれど。

だけどちょっとカチンときたんだよね。

廊下で対戦相手の選手とすれ違った時に、超余裕とか言ってたから。

こちらの思う壺だけれど、徹底的にやるからね。


説明も終わり部長が立ち上がった。

「皆も知っての通り、私達が目指す最終目標は優勝である。これが身の丈に合った目標でないことは、私達自身が身に沁みて分かっている。だけど何としてでも今の状態で決勝に進み、桜ヶ丘を全国へと導いてくれた桜を百舌鳥校の前に連れて行く!何としてでもだ!」

凄い気合入ってる。

そう、百舌鳥校とは一番遠い位置でのトーナメントとなったの。つまり決勝まで当たらない。

「そしてそこで、百舌鳥校の奴らに、本当の桜ヶ丘を見せつけてやろう!つぐは大の田中師匠が言っていた。私達は、奇跡の桜を咲かせようとしていると!」

部長は皆の顔をゆっくり見渡した。全員真剣な表情だよ。

「思いっきり咲かせよう。満開の奇跡の桜を…。舞い上がれぇぇぇぇぇ!桜ヶ丘!!!」

「ファイッ!オオオオォォォォォォォォォォ!!!」

小さな食堂、「天空」が揺れるほどの叫び声は、澄んだつくばの空にまで響いた気がした。


そして全国大会を舞台に、大きな挑戦が始まった。

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