第62話『桜の誕生日』
今日は突然のことで、どうして良いかわからないでいるの。
だって…。
「Happy birthday to you~
Happy birthday to you~
Happy birthday, dear SAKURA~
Happy birthday to you~」
「おめでとー!」
「桜先輩!おめでとうございます!」
「ほれ、ろうそく消しな。」
「ありがとう、皆さん!」
フゥーーーーーー
思いっきり息を吹きかけた。ろうそくは18本あるよ。
そう、今日は私の誕生日。それでもってクリスマスの12月25日。
パチパチパチパチパチパチッ
「えー、今日は、世界的な行事である、桜生誕祭に出席していただき、まことにありがとうございます。」
部長がノリノリで、大袈裟な事を言っているよ。
「クリスマスと誕生日会を一緒にやるついでに、皆でケーキ食べて騒ぎましょって集まりでしょ!」
「ほらほら、主賓は中央のお誕生日席に座ってなさい。」
「そうやって誂うんだから~!」
「何を言う。今日は世界中のあっちこっちで桜の誕生日を祝っているぞ?なっ?ジェニー。」
「そうネー!前夜祭ではカップルが愛を確かめ合い、今日は家族でお祝いネー!」
「それはクリスマスイブと、クリスマス当日の事を言っているのでしょ!私の誕生日だからって訳じゃないのに!」
「いやいや、世界的なイベントだから。桜生誕祭は。」
「私も入信するネー。桜教に。あぁ、桜様。我を導きたまえー。なーむー。」
「ジェニー!?何か色々混ざってるし!」
「うむ、照れながら怒った顔も可愛いな。」
「部長!」
「まぁまぁ、桜が神となってしまっては、部屋に忍び込むのも罰が当たりそうだからな。」
「また忍び込むつもりだったの!?」
「駄目か?」
「だーめー!」
頃合いをみていおりんが助けに入ってくれるよ。
「はいはい、茶番はそこまで。ケーキ分けるよ。」
そう言ってケーキナイフで当分に切っていってくれる。
「ちなみに今日のケーキは、後藤先生からのプレゼントでーす!」
可憐ちゃんからだ。先生ったら、あんなに誘ったのに来てくれなっかったよ。
ま、まぁ、この状況に先生が居るって方が、先生から見たら罰ゲームかもね…。
でも、ちょっと信じたいこともあるの。
後藤先生は、寅子さんのところへ行ったってね。
聞いても教えてくれないだろうなぁ~。
でも、二人の秘密でもいいよね。
ケーキが切り分けられる。
あれ?今日は部員全員来ているから、13個に切り分けるの?
次々にテーブルに並べられるホールケーキは3個。それを4等分に切っていた。
お…、大きいよ…。
あれれ?それだと12個分だよね…。
「可憐ちゃん、それじゃぁ1個足りないよ。」
「いいのいいの。」
そう言って切られていくケーキ達。
「これだけでかいの食うのことも、滅多にないかもな。」
天龍ちゃんの言う通りだね。切り終わると、各自配っていかれる。
えーーー?私の無いよ?
「可憐ちゃん…、あの…、あの…。」
「桜ちゃんもケーキ欲しいの?」
「ほーしーいー!」
「桜は、関東大会2回戦目で、ジェニーと秘密協定を結んで試合に出たので、ケーキはお預けです。」
「えー、そんなんじゃないよー。」
「そうネー。そりゃぁ、ちょっと桜が可哀想だったってのもあるけどネー。」
「うーそ。」
「ん?」
「嘘よ、嘘。まぁ、ジェニーのお芝居が下手くそだったから、直ぐにわかったけどね。だから、桜ちゃんはサッカー大好きだから、ボールを食べてもらいます。」
「えーーーー!?」
そう言って後ろから取り出した箱は、2号ぐらいのサイズの箱。
本当にボールじゃないよね?まさかね…。
「じゃじゃ~ん!」
そう言って箱の上部を持ち上げると、そこにはサッカーボールがあった。
「ほ…、本当に、ボール…?」
「そんなわけないでしょ。」
そう言ってフォークを渡された。
「早く早く、食べてみて。」
言われるがままにフォークをボールに刺す。
「あれ?」
凄く柔らかい感触。これはまさにケーキのスポンジの感じ。
すくってみると、本当にケーキだった。
「ケーキ屋さんがね、特別に作ってくれたの。関東大会優勝おめでとうだって!」
「すご~い!でも…、でも…。私だけが食べちゃったら…。」
「いいの!皆には話してあるけど、誰も反対しなかったよ。」
私はふと、視線を上げて周囲を見渡した。誰もがニッコリ笑っていた。
「生誕祭の主役だからな。教祖様には是非一番の物を食べてもらわないと。」
「そうネー。それに味はたいして変わらないと思うネ~。」
「だけど、桜先輩、後で一口くださいね。」
私は直ぐに視界が歪んだ。
「もう、何で泣いちゃうのよ。」
いおりんが優しく肩を抱いてくれる。
「だって…、だって…。こんなに大勢で、こんなに凄い誕生日会、やったことないから…。嬉しくて…。」
「本当にバカな子。来年も再来年もやるんだから、今のうちに慣れておきなよ。」
「うん…。」
来年以降私達はどうなっているかわからない。
進学する人、実家で仕事を手伝う人、サッカー続けられる人も全員じゃないと思う。
だけど、そんな事関係なく、これからもいつでも会えるって、言ってくれているんだと思った。
とても嬉しい…。
ポロポロと涙が落ちちゃう。
「先輩!早く食べないと、食べられちゃいますよ。」
そう言われて一口食べた。
甘くて柔らかくて溶けちゃいそうな美味しさに、ほんのり塩味を感じたのは涙のせい。
この味は一生忘れないって強く思った。
隣で福ちゃんも自分のケーキを食べる。
「んー!甘くて美味しいです!」
「イチゴすっぺー。」
反対側では天龍ちゃんも食べていた。彼女にケーキという組み合わせが、予想外過ぎてちょっと笑っちゃった。
「俺だってケーキぐらい食うぞ?」
そう言いながら豪快に食べる。
あっ、ほっぽに生クリームついてる。
「天龍ちゃん、動かないで。」
「あ?」
私は彼女のほっぺについている生クリームに触らないように、頭をそっと押さえて顔を近づける。
「おい!桜!」
「うごかないで…。」
そう囁くと、天龍ちゃんはおとなしくなった。
そっと舌の先で生クリームを舐めた。
「ほっぺに生クリームついていたよ。」
「先に言え!びっくりしただろ!」
顔を真っ赤にして怒る天龍ちゃん。なんで怒ってるんだろ?
ふと反対側を見ると、福ちゃんも口元に生クリームつけてる。もう、子供なんだから。
「福ちゃんも動かないで。」
「あぁ、桜先輩…、駄目です…。僕達女の子同士じゃないですか…。あぁ!」
ペロッ
「福ちゃんも生クリームつけてたよ。」
「ぼ…、僕…。お嫁にいけません!」
「ふふふ、大袈裟なんだから。」
「ちょーーーーっと待ったぁぁぁーーーー!桜!あんた何しているのよ!?」
「えっ?二人共ほっぺに生クリームつけていたから…。」
「あぁーーー、もう!とんでもないことしたって自覚ある?」
「ん?」
いおりんが凄く怒っているみたい。何のことだろう?
彼女は直ぐに問題の二人組を見た。
「ちょっ!二人共やめーーーい!」
見ると、部長とジェニーがケーキのお皿を両手で持って神妙な顔付きをしていた。
「ジェニー、覚悟は良いか?」
「OK!」
「天使のキッスをいただくためだ。ここは派手にぶちかまそうじゃないか。」
「これがハラキリ…。なんて崇高な儀式なの…。」
二人共、とても神妙な顔付き…。何をしようとしているのだろう?
「やめなさい!部屋の掃除、誰がすると思っているの?」
「私が責任を持って、朝までかかってでも綺麗にするぞ。ついでに色んなところも…。」
「部長…、私も付き合うネー。」
「いったい二人は、何をしようとしているの?」
私はたまらず聞いてみた。
「二人はね、顔にケーキをぶつければ、生クリームだらけになるでしょ?そうすれば桜がペロッとしてくれると思っているのよ!」
「ん?そんなに酷かったら、ウェットティッシュで拭くか、洗面所で洗ってくるしかないよね?」
二人の動きがピタッと止まる。
「その手があったかぁ…。」
「奥が深いネー…。」
「ギャハハハハハハハハハッ!残念だったな!」
天龍ちゃんが大笑いしていた。
「桜教…。」
「破門…。」
「懺悔…。」
三姉妹ちゃん達のとどめで、二人は諦めたみたい。
「まーったく、くだらないこと考えていると、私が二人のケーキも食べちゃうぞ。」
藍ちゃんがフォークで奪おうとする。二人は皿を持ったまま逃げちゃったよ。
部屋の隅で寂しそうに食べていた。
よくわからなかったけど、ちょっと可哀想になっちゃった。
だから、皆には内緒にしていたサプライズをすることにしたよ。
まずはションボリしている二人の元へ。
目の前でしゃがむと、両手にサプライズのプレゼント品を握って目の前に出した。
「ん?なんだこれは?」
「ミサンガだよ。私から二人にプレゼント。」
「オオオオォォォォォォォォォォ!!!!!!一生大切にするぞ!」
「私は家の家宝にするネー!!!」
「ダメダメ。ちゃんと使ってね。」
全員同じ色で、オレンジ色なの。
「オレンジ色は、希望とかエネルギッシュって意味があるらしいの。」
手首に縛ろうとしたので、それを止める。
「利き足に付けてね。利き足につけると、友情とか勝負って意味なんだって。」
ミサンガは、つける場所にも意味があるみたいなの。
二人があたふたと付け始めたので、他の人にも配った。
「何だか、全員同じ物をつけているだけで、とても安心するであります。」
香里奈ちゃんの感想だった。
「そうかもね。百舌鳥校の時は、こういうの無かったから…。喜んでもらえるかどうかわからないけど…。」
「僕、もうつけちゃいました。桜先輩からプレゼントいただけるなんて、凄く嬉しいです!」
「あれ?何か書いてない?」
ミーナちゃんが気が付いたみたい。
「うん。目指せ!全国優勝!って書いたよ。」
全員の視線が私に集まった。
「駄目…、だったかな?」
「とんでもねぇ。気合入ったぜぇ。」
天龍ちゃんが試合の時のような、鋭い眼光になったよ。
「私も…、私も一杯シュート防ぎます!」
ミーナちゃんも凄く喜んでくれた。
「桜~。あんたも案外おもしろいことするじゃない。」
いおりんはニヤニヤしながら右足首につけていた。
「うんとね、昔、確か小学生の頃にもらったことあるの。」
「ほぉ?小学生でも女子サッカーあるのか?」
天龍ちゃんの質問だった。
「なかったの。だから男の子からもらったよ。」
そして私は小学校6年生の時の話をした。
「その時に住んでいたのは、北海道の旭川だったかな。そこで小さな小学校に転校したのだけれど、皆サッカーやっていたの。各学年1クラスしかなくて、私達6年生の担任の先生がアマチュアの社会人サッカーをやっていてね。色々と教えてもらってた。だけど、6年生だけだと11人いないから、4年生までも一緒にやっててね。凄く弱かった。」
「その頃の体格差とか、結構あるかもな。成長期だし。」
「部長の言う通りだよ。そんな中、夏休みに私の転校が決まっちゃって、夏休み前の最後の大会があって、みんな凄く気合入ってた。私と一緒に1勝するんだって。」
「いいね、そういうの。」
藍ちゃんからだ。
「うん。凄く嬉しかった。私も凄く頑張った。そしたらね、初戦勝てたの!もう皆優勝したみたいに喜んでた。だけど、次はあっさり負けちゃった。」
「あらら…。残念ネー…。」
ジェニーが寂しそうな顔をしていた。
「そして夏休み。同じ6年でパスが凄く上手かった男の子がね…、あの…、その…。」
「ん?どうした?」
天龍ちゃんが、どうして言いづらいのか不思議そうにのぞきこんでいた。思い切って話してみた。
「告白されたの。ミサンガを手に持って。」
「ヒュー!桜もやるじゃない!」
可憐ちゃんがニヤニヤしながら聞いていた。ちょっと恥ずかしかったけど、話を続けた。
「『俺のパスを全部受けとめてくれたのは、お前が初めてだ。だからお前がどこへ行っても、俺がちゃんと届くパスを出すから、大きくなったら、一番近くで最高のパスを出すから…。だから付き合って欲しい。』って言われたの。」
「格好良いですね!小学生にしては、おませさんです!」
「そうなの福ちゃん。その子、凄くカリスマがあるって言うか、誰もが引き付けられちゃう感じで、とても人気があったの。もうドキドキしちゃって、どうして良いかわからずに、ごめんなさい、って断っちゃった。」
「ちょっと勿体無いかもであります。」
香里奈ちゃんは自分の事のように聞き入っていた。
「次の引っ越し先が九州だったからね…。それに私、恋愛とかって感情は持っていなかったの。」
「そうだろう、そうだろう。ここは私のような頼れる人と付き合うべきだ。」
部長が元気になって前に出てきたところを、いおりんに取り押さえられた。
「そんでミサンガなんて思いついたの?」
「うん。」
「ちなみにその男の子、なんて名前なの?」
「松山 日向君だよ。」
「また日向君と会えるといいね。」
「会ってくれるかな?」
「桜、いっつも言ってるじゃーん。「大丈夫!」ってね。それよ、それ。」
「うーん。そうかなぁ…。そうだといいけどね。はい!私の昔話しは終わりです!ケーキ食べちゃいましょ。」
何だか昔話しで盛り上がりつつ、クリスマス兼誕生日会は楽しく過ぎていきました。
この時は、まさか日向君と直ぐに会えることになるとは、夢にも思っていませんでした。