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フィールドに舞う桜と共に  作者: しーた
『奇跡の桜』編
45/90

第45話『桜の打開策』

「あのデカイの、今まで以上にやっかいだなぁ。」

肩で息をしながら天龍ちゃんが言った。確かに高さもフィジカルもありながらディフェンスラインをよく統率しているよ。

もちろん練習試合で対戦はしているけど、流石に今日は気合が違う。

「水戸女子も苦しいからね。ここは踏ん張りどころだよ。」

そしてホワイトボードにて試合を振り返る。敵は動揺が続いていて、攻撃の手が緩んでいることを告げる。守備に偏るあまり、攻撃陣が少なすぎるのだ。

分析していくと、2つの打開策があると思う。一つはこのまま強引に攻め立てること。もう一つは、わざと攻めさせて、それを防いでからのカウンター。


最初の策は攻め続けても点が取れなければ相手の不安が消えてしまい、思わぬ反撃を食らう可能性があるし、早目に得点しないとあまり意味がないかな。守備に自信をもっちゃうからね。

後の策は、もしも点を取られてしまったら取り返しの付かない事になってしまうけど、防ぐことが出来れば大きなチャンスが生まれるというハイリスク・ハイリターンな戦法となる。

「フォワードとして、天龍はどっちがいいと思うんだ?」

決めかねた部長が天龍ちゃんに意見を求めた。


「そんなの簡単だろ。両方やって2点取るんだよ。相手が引いてれば強引に攻めて何が何でも1点取ればいいんだ。もしも攻められたら何とかしてくれ。その代わりボールが俺のところに来ればキッチリ決めてやる。」

「ははははははっ!」

「何が可笑しい?」

「単純だが、それがいいな。よし、それでいこう桜!」

「うん、いいと思う。だけどキッチリ守られている相手に闇雲に攻めてもダメだよ。左右に揺さぶったり、縦へのロングボールとか、相手を走らせるような方法も使っていって体力も奪い取らないとね。兎に角ボールを沢山回すこと。」

「わかった。」


「それとね、私達は一人じゃないって忘れないでほしいの。」

「ん?どういうことだ?」

「水戸女子チームは、キャプテンである本間さんの指示に従い、彼女が守備もし攻撃もする。だから彼女が失敗すればチームとしても失敗になるの。だけど桜ヶ丘は違う。全員で考えて一人一人が決断してる。誰かが失敗しても他の人がカバーすればいいし、一人で攻められなければ他の人がフォローすればいい。そうでしょ?」

皆は私の目を見ながら力強く頷いた。


「後半始めまーす。準備を願います!」

運営の人から声がかかった。

「よし!いくぞ!」

「もう一頑張りだよ!」

声を上げながらピッチに走りだし円陣を組んだ。

「最初は水戸女子の出方を見ます。見極めたらさっきの戦法でいきます。根負けしないように、それと調子に乗って攻め過ぎたり守り過ぎないよういに!」

「オウッッ!!!」

「舞い上がれ桜ヶ丘!!!」

「ファイッ!オオオォォォォォ!!!」


ピッーーーーーーーーー

後半戦がスタートする。ボールは変わって水戸女子からだ。ボールを自軍で回していくけど、積極的に攻めてはこない。どうやら守ってからの一発のカウンターに賭けているのかも。私達が1回戦きっちり守ったおかげで、うちの守備が硬いと思っていて、相手は慎重な作戦をとってきたみたい。


周囲の仲間に視線を送ると、どうやら皆、それが分かっているみたいだね。

それでも敵はサイドを攻め上がってくる。相手の攻撃人数が少ないため攻めあぐねているとことろをウミちゃんがパスカットすると、直ぐに前方の藍ちゃんにパスを送った。

攻めようとするけど、相手の守備が厚い。少しボールを下げてジェニーにパスをすると、彼女は左足でドリブルしながら戦線を上げていく。

両チームが水戸女子側の陣地に多数入り乱れる展開となったよ。


水戸女子はFW1人を残して、ほぼ全員守備な状態。

これでは色々と封印している私達では流石に攻め切れないでいた。

だけど少しずつ削りとっていっているよ。そう、相手の体力をね。

ハーフタイムで言ったように、左右、前後に大きくボールを動かし、その分相手も動かしていくの。

かなり足にきている選手もいる。私も極力キープしないで仲間へとボールを回していく。


ここで一つ大きな風穴を開ける作戦に出る。相手の足が止まってきているからね。私は部長に視線を送った。

そして相手に見えないように前線に上がるよう手で合図を送る。部長は直ぐにそれを理解した。

これは大きな賭けだよ。CBという守備の要でありオフサイドトラップの仕掛け人を前線へ送り出すんだから。

だけど部長の持っている空中戦の強さは、相手のCBに負けていないよ。ここで部長が競り勝てば、相手は立ち直れないほどの精神的ダメージを与えることが出来る。


ボールが私に回ってくると、右MFのいおりんにダイレクトでパスを出す。

不意に素早く出されたパスは、相手の守備のリズムを崩す。一瞬対応が遅れたことで、敵の意識が右サイドへと向けられた。

ジェニーが下がり、その代わり部長がスルスルッと駆け上がってくる。

いおりんは相手を一人交わし、次のDFとの勝負の前にクロスを上げた。

しかも絶妙なところに!

当たり前のように敵CBの本間さんが飛び込んでくる。そこへ部長も飛び込んだ。


!!


激しく競り合いながらボールはゴールへ吸い込まれた。部長が競り勝った!

だけど、相手GKが伸ばした手に当たり勢いが弱まる。それでもボールの勢いが止まらない。吸い込まれるようにゴールへ向かうボール。

そこへ小さな影が飛び込んできた。水戸女子のDFだった。

お世辞にも華麗にとはいえないけど、かろうじて伸ばした足に偶然当たったようにも見えた。


それは水戸女子の団結力と勝利への執念の現れ。スポーツにおいては、偶然とかラッキーとか言われつつも、こういったプレーが勝敗を分ける時もある。

こぼれたボールを他のDFがキープすると、水戸女子司令塔である本間さんが叫んだ。

「逆襲だ!」


その言葉に水戸女子の選手は一斉に走りだした。まずい!

全選手が弾かれるように走りだした。私も自軍へと急ぐ。水戸女子は前にボールを出したものの、選手が追いついてこない。それが幸いして味方がディフェンスラインを作っていく。だけど部長が間に合わない。

ボールは右へサイドチェンジする。今まで攻めを我慢していた闘志が爆発しているかのように激しく攻めてくる。


部長のポジションであるCBに就いたジェニーはオフサイドトラップを仕掛けるかどうか迷っているように見えた。三姉妹にも緊張が走る。

ダメ!

オフサイドトラップにばかり気を取られていて全体が見えてないと瞬時に理解した。

私は自然と最終ラインへと向かって走りだす。

!?

私と並走するように水戸女子重戦車、本間さんがあがってきた。


ボールは短いパス回しで今だ右サイドにある。

「ジェニー!」

彼女に視線を送ると、直ぐに私の意図を理解してくれた。キョロキョロと見渡し全体を把握する。

本間さんが最前線へ到着すると同時に高いクロスが上がる。ゴール真正面。

私はジェニーを追い越しゴール前へと飛び込む。


走りこんできた勢いで、あの体格の良いジェニーは跳ね飛ばされる。絶好の打点でヘディングシュートが放たれた!

守護神ミーナちゃんが飛ぶ、良い反応!

だけどボールの勢いを消しただけでボールはゴールへ吸い込まれる…。


トンッ

私は右のインサイドでボールを軽く弾く。

「先輩!」

ミーナちゃんが笑顔で振り返る。

「大丈夫。いくぞーーーー!!!」

突然の大声に、倒れていたジェニーも走りだす。

ボールは容赦なく彼女に回す。

そして更に前方にパスが送られた時、それはこの試合の勝負が決した瞬間だった。


ピッピッピッーーーーーーー

試合終了の長い笛が鳴り響く。

結局、天龍ちゃんが2得点決めたよ。

「っしゃーーーー!!」

喜ぶ桜ヶ丘イレブンと、ガックリと肩を落とす水戸女子。

その対象的な風景を、私達は忘れてはいけない。

負ければ、グラウンドに涙を落とすのは私達だから…。

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