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フィールドに舞う桜と共に  作者: しーた
『奇跡の桜』編
43/90

第43話『桜の初勝利』

ピッーーーーーーーーー

後半戦開始を知らせる笛がなる。桜ヶ丘からのボールとなる。私は天龍ちゃんからボールを受け取るとバックパスでジェニーに渡す。

FW二人はスゥーーーっと前に出ていき、両サイドはいつでもパスを受けられるようにスペースへ動き回る。

ジェニーは慌てず起点となりながらボールを回し様子を伺う。


土浦四高は積極的にボールを奪いにくる。時には二人がかりで襲ってきては上手くパスを出せれて不発に終わる。だけどボールを出された選手へ走り寄り、また激しくチェックする。

それは私のところや藍ちゃん、いおりんといった攻撃的なMFにボールがわたっても同じだったよ。

これじゃぁ、いくら何でも体力がもたないと思うよ。

それだけ焦っていることになる。

茨城県代表決定戦の、それもまだ予選。しかも1回戦。ここで負ければサッカー部としての活動はほぼ終わりと言っていい。だからこそ悔いの残らないようにって思いもあるかもしれない。

形振り構わず襲い掛かってくる。


私も守備気味にポジショニングして攻撃を防ぐ。後にして思えば、今まで勝ち星なしの創部1年足らずのチームに負けるはずがないという考えが相手にはあったと思う。

全力を出せば勝てる、そんな雰囲気があったのかもしれないね。

だけど私達は、ただただ負けてきたわけじゃない。


ずるいとか卑怯とか、小手先の考え方とか部活らしくないとか、それこそ創部1年目の私達には関係ないよ。本来なら3年活動出来る部活が1年しか出来ないなら、それこそ知恵を絞って活動するのもアリだと思うし、それがダメなら事情があって時間が取れなかった部活は負けなさいと言っているようなものだよね。

豪雪地帯にある高校なんかは、グラウンドが使える日が少ないと思う。使えても普通に練習や試合は出来ない。だから負けて当たり前、むしろ負けろということはない。

だからこそ筋トレしたり屋内で出来る練習をしたりして、他の高校と対決してる。

だから私達も出来える手段は全部使いたい。


土浦四高はまとまっていて良いチームだよ。

でもね…。

やっぱり油断や慢心は否定出来ないかも。

試合は終盤へと差し掛かる。残り15分ぐらい。これまでいおりんのミドルシュートや福ちゃんのヘディングシュートなど攻撃はするものの決まっていない。

私達の攻撃を防ぎきる自信があるのか、向こうの攻撃となるとかなりの人数をかけて攻めてきた。

私はジェニーに、前半彼女からやってもらった合図を送る。右手を顔の位置でクルクルまわした。ジェニーは直ぐに理解して小さく右手を上げて答える。

まるで総攻撃のように攻めてくる土浦四高。だけど、ジェニーと部長を軸に硬い守りが効いていてなかなか攻め切れない。高いボールをゴール前に出しても部長が防ぎ、一人抜いても直ぐにフォローがいて前に進みづらい。

それでも数で押し込んでくる。土浦四高のキャプテンマークを付けた選手がジェニーの裏でパスを受け取り部長を強引に交わしてシュートを放つ。


危な…。

だけどミーナちゃんは冷静に横っ飛びしボールを弾く。見た目にも余裕があるよ。

そのこぼれ球をリクちゃんが拾うとジェニーにパスを出した。

彼女は囲まれる前に左足で私へボールを送る。

!!

グラウンド内に緊張が走る。

今まで怒涛のように攻めていた土浦四高はほとんどの選手が自軍のエリアに入っていた。守りはかなり薄い。

私はボールを左サイドの藍ちゃんに大きく出して自分も走りだした。

全然追いつけない場所に飛んで行くボール。こうなると足の速い方が先に追いつく。もちろんそれは計算しているし藍ちゃんなら誰にも負けない。

かなり深いところでボールをキープすると、一緒に追いかけてきた敵ディフェンダーが襲いかかろうとする。

ドリブル禁止の藍ちゃんは、1度切り返しをして敵を振り切ると、ゴール前にクロスを上げる仕草を見せる。

ニアサイドには福ちゃん、フォアサイドには天龍ちゃんが待ち構える。

何とか追いついてきた敵守備陣が二人をマークする。

それを見た藍ちゃんは、ボールを手前に、そう私にパスを出した。

敵は、あっ!と言いながら私に襲いかかる。FWばかりに注目していて、私がほぼノーマークだったからだ。

敵ディフェンダーの二人のうち一人が向かってくる。後ろからもボールを奪いに来ているのがわかる。


福ちゃんは動きまわって声を出しながら敵のディフェンダーの注意を向けさせた。

敵を引き付けてくれている。そのお陰で出来た、小さな隙間からボールを蹴りだす!

スッと飛んで行くボールは、ゴール前の最前列から少し手前にいた天龍ちゃんへ飛んで行く。敵のディフェンダーが慌てて左側から襲ってくる。

彼女は胸でトラップするとゴールに向かって右側へ落とし、ワンバンドしたボールを豪快に蹴りこんだ。


ピピッーーーーーーーーー

敵のGKは一歩も動けなかった。それほど豪快なシュートは久々に見たかも。

崩れ落ちる土浦四高チーム、喜び立つ桜ヶ丘学園チーム。

結局このまま試合は進行し、終了の笛を迎えた。

「やったぜ!!!」

「桜先輩!勝ちました!!」

「まずは1勝ネ~!!」

全員が私のところに集まってくる。

「桜ぁ~!」

部長は涙声で抱きついてきた。

「私は嬉しいぞ…。まさか、あのサッカー同好会が公式戦で勝てる日がくるなんてよぉ…。」

「夢じゃないよ。ふふふ。さぁ、整列しよ!」

センターサークルに戻り整列する。

相手チームの選手達は皆泣いていた。これで部活は終わり。そんな哀愁が漂っている。

「2-0桜ヶ丘学園の勝利!」

「ありがとうございました!」

審判のコールの後、私達は勝利の喜びを爆発した。

自軍ベンチに向かい、応援してくれた父兄にも一礼する。


「よくやった!」

「あんた達最高だよ!!」

あれは渡辺さんちのお父さんと天龍ちゃんのお母さんだ。その他の人も拍手で迎えてくれた。

「監督!勝ちました!!」

部長が顧問の後藤先生に報告する。そんな事は見ていたのだから知っていたのだけど、どうしても先生に伝えたい気持ちはわかるかな。

「うむ。あの厳しい条件の中、よく頑張ったな。」

「は゛い゛!」

部長は、また涙ぐんでいるよ。本当に嬉しそう。

「上手くいったネ~。」

ジェニーが私にハイタッチ…、いやミドルタッチをしてきた。それに強く応える。

「ニシシー。でも、これからも上手くいく保証はないからね。しっかりとやっていかないと。」

「そうデース!慢心、ダメ、絶対!」

「よし、荷物を片付けるぞ。午後からは第二試合がある。明日の決勝に備えるんだ。」

後藤先生は監督らしく指示を出す。


そこへ土浦四高のキャプテンがやってきた。

「岬さん…。」

彼女は目を真っ赤に腫らしていた。

「今日はやられたよ。どんどん上手くなっていく桜ヶ丘にいつか負けるんじゃないかと思っていたけど、それが今日だとはね…。」

悔しそうな中にも、覚悟というかそういうのはあったみたい。

「いえ…。土浦四高は良いチームだと思います。とても強かったです。」

彼女は寂しそうにニコッと笑った。

「U-17日本代表の岬さんにそう言われると嬉しいよ。これからも頑張ってね。」

「はい!四高の分も頑張ります!」

お互い握手して別れる。


それを見ていたいおりんが、急に不安になったのか怖がっていた。

「私達が負けていたら、ああなっていたんだよね…。」

「そうだね。トーナメントだから負けたら終わりだね。」

「勝って兜のなんとやらだね。皆にも言っておく。」

「うん。」

今までの練習試合の負けと、大会での負けは全然違うからね。

私達はちょっと負け過ぎたところもあるから、しっかりと気を引き締めておかないと…。

ロッカールームで、後半の試合内容の確認を済ませる。

「ということで、今日は数少ないチャンスをしっかりと決められたから勝ちにつながったと思うの。これは、これからも続くから緊張感を持ってやっていこうね。」

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