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フィールドに舞う桜と共に  作者: しーた
『奇跡の桜』編
18/90

第18話『桜の勧誘活動』

4月。

校庭の桜が満開の中、入学式が終わり早速部活の勧誘を始めているよ。

「女子サッカー部、今年より始まりました!興味がある人は裏のグラウンドまで~!」

「見学だけでも大歓迎でーす!」

私は初めての勧誘作戦に、ちょっとドキドキしながら行き交う新一年生を見守る。

他の部活には入部希望の人達が集まって話しをしたりしていたけど…。

「こないねぇ~。」

「大丈夫です、誰か来ますよ~。」

いおりんは半分飽きているみたい。気持ちは分かるよ。ここまで反応無いと…、ちょっとね。でも福ちゃんは張り切っていたよ。後輩が出来るのが楽しみなのかもね。


他の部員はというと、部長は体格が良すぎて怖がられるといけないのでグラウンドで待機している。藍ちゃんは元陸上部なので、陸上部の知り合いに会うのがちょっと…という理由で来ていないよ。可憐ちゃんはそもそも緊張して声が出ないし、元々小声の渡辺三姉妹もアウトかな。天龍ちゃんは…うん…まぁ…ね。

ということで、私といおりんと福ちゃんで勧誘することになった。

人もまばらになってきちゃって、どうやら今日は駄目みたい。人気の部活は沢山人がいたのだけれどね…。ちょっと残念。


「今日は駄目みたいね。こんなんだったら練習していた方がよっぽど良かったよ。」

「まぁまぁ。可憐先輩が上がり症ですからね。実質一人少ない状態ですし。」

「もう、それは分かってるよぉ。でもぉ~。」

「あ、あのー。」

「!?」

3人に緊張が走った。目の前には初々しい生徒が立っているからだ。

「は、はい!」

「女子サッカー部に入部を希望いたします!」

ビシッと敬礼する。

「やったー!」

いおりんがはしゃいだ。うんうん、なんだか凄く嬉しい。

「1年生だよね?」

「はい!」

「ねぇねぇ、どのポジション希望なの?」

「まだ良くわからないであります!」

「変な敬語可愛い~。」

「す、すみません。」

「いいの、いいの。うちはフレンドリーな部だしさ。ささ、グラウンド行こう!」

「はい!」

4人でさっそく裏の校庭のグラウンドへ行った。


部員達は休憩していたのか、一箇所に固まって座っていた。

「おーい。新入部員連れてきたよー!」

いおりんが嬉しそうに手を降る。

皆は待ちきれなくて駆け寄ってきた。

「よろしくお願いします!」

「よぉ、香里奈。遅かったな。」

「!?」

「はっ!?」

「えぇ~?」

がっくりするいおりん。

「ぶ、部長の妹さんでしたか…。」

同じく福ちゃん。

そうだよね、部長の妹さんが入部するって前から分かってたもんね。

「お姉さま。本日より入部いたします。ご指導、ご鞭撻、宜しくお願いします!」

「うむ。えーっと、妹の香里奈だ。皆、よろしくな。」

「よろしくー。」

「可愛い~。」

「部長に似なくて良かったね。」

「どういう意味だ、いおりん!」

色んな第一印象があったみたいだけど、概ね良好みたい

「香里奈ちゃんは、サッカーでどんなプレーが好き?」

「私もお姉さまのように果敢にゴールを守るゴールキーパーに…と思っていましたが、先日テレビで正確無比にボールを蹴る選手に憧れてしまいまして…。」

「パサーね。いいよ、やってみよう!」

「あ、あの…。先輩、僭越ながら、そんなに簡単に決めてしまっても宜しいのでしょうか?」

「いいの!いいの!やりたいことから始める、それがいいの!」

「はぁ…。」

「やってみて、例えば途中でドリブルが格好良いって思ったらそっちもやってみよう!」

「はぁ…。」

「大丈夫、基礎や戦術なんかも皆で覚えるから、一緒にやろう!」

香里奈ちゃんは戸惑いながらも私の手を取った。

「さぁ、着替えて着替えて!」

「はい!」


キョロキョロする香里奈ちゃん。

「あの…。部室は…?」

「あぁ…、部室ね、まだ無いの。だから共通の更衣室で着替えましょ。」

「私が案内してきます!」

福ちゃんが手を上げて香里奈ちゃんを連れていった。

「ふふふ…。福ちゃんはりきってるね。」

「あぁ、フクになら任せてもいいな。家では私がたっぷり可愛がっているしな。」

「あはははは…。」

「遠慮することはないぞ!桜も私に甘えるが良い!」

「部長は相変わらずきめぇーなぁ。」

天龍ちゃんが腕を組みながら軽蔑の眼差しを向けていた。

「そんな事ないネー!妹LOVE、私は凄くわかるネー!」

「だろ?だろ?」

「なので香里奈ちゃんもいただくネー。」

「ちょっと待った。」

「何か問題でも?」

「香里奈は正真正銘私の妹だ。そこに入り込む余地はない。」

「それはどうかナ?選ぶのは可愛い妹達ネー!」

「ぐぬぬ…。」

「その辺にしておきなよー。」

「桜、これは重要な問題だ。」

「そうネ。部長とはいずれ決着をつけなければならないネー。」

あれ?元々は私が原因で争っていたんじゃ…。


「姉上ー!」

そうこうしているうちに香里奈ちゃんがやってきた。部長とは違って肩ぐらいまで伸ばしている髪が走る度に跳ねる。

「では、私が香里奈ちゃんの基本的な指導をしているので、ジェニーを中心に練習を続けましょう。」

「んだな。」

「よし、ジェニーに遅れを取っている場合ではないな。」

「カモーン!ブチョー!」

部員は散らばり練習を開始した。ミニゲームが中心にすすめているよ。


「では、よろし…。」

「待って。敬語はいらないよ。私のことは桜って呼んでね。」

「えっ…、あ、あの…。」

「2年生の福ちゃんは桜先輩って呼んでるよ。」

「あっ、では桜先輩。よろしくお願いします!」

「うん、よろしくね。じゃぁ、まずは基本的な蹴り方から…。」

「まずはスタンダードな足の甲で蹴る方法、足の内側で蹴るインサイドキックや足の外側で蹴るアウトサイドキック、つま先や踵といろいろと蹴ってみよう。丁寧に正確さを求める時はインサイド、強く蹴りたい時は足の甲で、意表を付く時はアウトサイドが有効だよ。」

「はい!」


お互いでパスを出しながら色んな蹴り方をする。そこへミニゲームからのボールが転がってきた。

「桜パス!」

天龍ちゃんが大きく手を振っている。

「丁度いいね、見てて。」

アウトサイドで回転をかけて蹴りだす。ボールは天龍ちゃんへ向かわず左の方へ一度向かってから大きく曲がり目的の場所へと飛んでいった。

「ほぇーーーーーー!凄いです!」

「パサーを目指すなら、まずは思い通りの場所にボールを蹴れないとね。」

「な…、何だか難しそうです…。」

「大丈夫。納得いくまでとことん練習しよ!」

ニシシーと笑う。

「先輩といると、何だか勇気がもらえます。」

「サッカーってね、11人でやるでしょ?考え方も11通り、好き嫌いも11通り、得意不得意も11通り、つまりね、同じ人は誰ひとりいないの。ボールを蹴って選手になったら、それはもう世界に一人だけの選手になれるの。だからやりたいように練習して、思いっきり試合を楽しむ。」

「でも、それじゃぁ戦術とか戦略とか欠けてしまうと思います。」

「あら、いいところに気がついたね。そう、11人の個性を集めてチームになったら、今度はチームとしてのありかたを皆で考えるの。うちのチームはディフェンスが苦手とか、カウンターが得意とかね。試合では、チームの特性から選んで最善の手を尽くすの。だからやっぱり同じチームは存在しない。世界で一つだけのチームになるの。だから、チームに合わせた戦術や戦略を皆で考える。」

「なるほどです…。」


「つまり、どこかの真似をしても駄目だし、一番理解している自分達が考える。こうしよう、ああしようってね。私達はまだ生まれたばかりで、真っ白な状態。これからどんな風に色を付けていくかはまだ見えてないかな。だから香里奈ちゃんの個性も見極めて、チームに絡めていくよ。遠慮しないで、やりたいことを一緒に頑張ろうね。」

「はい!桜先輩凄いです!私、不安でしたけどやっていけそうです!」

「うん!でもね、守って欲しいことがあるの。」

「それは、なんでしょうか?」

「仲間を裏切らないこと、学校を裏切らないこと、そして自分を裏切らないこと。」

「えっと…?」

「まずは仲間を信じて、仲間に信用されること、学校があっての部活なので校則やテストの結果、当然だけど犯罪もしちゃ駄目、つまり学校を信じて、学校からも信じられること。そして最後に自分を信じられて自分を信じること。同じ意味のつもりだけど、どうかな?」

「よくわかりました!でも、これって、とっても厳しい条件ですよね?」

「そうだね…。ここまでサッカーに全てを賭けている人って、そうそういないんじゃないかな…。」

「桜先輩はどうですか?」

「私?」


うんうんと頷く香里奈ちゃん。その瞳は好奇心で一杯だ。

「私は…。極力そうしようってぐらいじゃないかな。」

「なるほど…。私はどちらかというと条件が厳しい方が燃えるタイプです。頑張って実戦してみます!」

「でも、基本は忘れずにね。」

「基本?」

「そう、楽しくなければサッカーじゃないから。」

「あぁ~、何でもそうですね。」

「そうそう。」

一生懸命パスを出す香里奈ちゃんを見ていると小学生の頃を思い出す。


何も考えないでボールを蹴っていた日々を…。

今も楽しんでいる?

そう自分に問いかけてみる。

……………。

迷う必要なんかない。

だって、今は楽しいもん。

シュートだって絶対に決められるようになる!

皆となら…乗り越えられる気がする…。

だけど、もしも私が迷ったら…。

その時はお母さん助けて…。

お母さんが持ってる羽を、少しだけ貸して…。

その羽で飛んで見せるから…。

ゴールに向かって…。

勝利に向かって…。

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