最初は「グチャッ」
お願いします。
どうか、私に協力してください。
この閉鎖された建物で起こる殺人ゲームを
止めてください。
私には参加する事しかできません。
あなたが真実を暴いてください。
私は“嘘”はつきません。
目を覚ますと、そこは見知らぬ場所だった。
「ここは……どこ?」
どうして、こんな場所にいるのかわからない。
思い返そうとしても、何故か思い出す事ができない。
さらに頭痛がする。
さっきから、ズキン、ズキンと痛みが増してきている。
これは一体……?
「おーい、誰かいないかー?」
「……声?」
奥の方から男の人の声が聞こえてくる。
まだ若そうな声からして、私と近い年代かもしれない。
「あ、いたいた! 大丈夫かい?」
近づいてきた人は思ったとおり、私と近い年代の青年だった。
「え、ええ。ここは一体……?」
「それが僕にもわからない。ただ、僕達はどうやらこの建物に閉じ込められたらしいんだ」
――……閉じ込められた?
「それって、どういう意味なの? 閉じ込められたって……」
「ああ。どうやら、この建物は完全に閉鎖されているんだ。調べてみたんだけど、脱出する出口がまったくなかった」
「あの、携帯電話とかは?」
青年は頭を掻きながら、首を横に振った。
事態がまったくわからない。
なんで、こんな事になってしまったのだろう。
私は考え込みながら、辺りを見回した。
廃墟された建物。
それが一番、この場所を表す適切な言葉だった。
ドラム缶が散乱していて、ゴミがあちこちに散らばっている。
溝鼠でもいそうなくらい、辺りは散らかっていた。
唐突に青年が口を開く。
「とりあえず、他の人と合流してから。詳しく話そう」
「……他の人? 私達以外にもまだいるの?」
「ああ。僕と君を合わせて、現在5人になるね」
「そうなんだ」
「あっ、そういえば、まだ自己紹介がまだだったよね。僕の名前は月村優。よろしく」
「私は梨守真夜。……よろしく」
彼から差し出された手を取り、握手する。
「月村……君でいいかな? あなたはここに閉じ込められる前の事って覚えている?」
「いや、覚えていないな。梨守さんも?」
「ええ」
「……そっか。なら、もしかしたら、他の皆も同じなのかもしれないな〜」
「多分、そうなるわね」
月村君に案内されて、細い廊下を歩く事、数分。
私達は大きな部屋へと出た。
そこには既に他の場所を探索してきたのか、三人の少年少女が退屈そうに待っていた。
「ごめん、待ったかな?」
金髪の青年が月村君の言葉に反応して、「おせーよ!」と愚痴を漏らしていた。
「……そっちの人は?」
ショートカットの髪型をした女性が私の方を見て、月村君に聞く。
「ああ。僕達と同じ、この場所に閉じ込められた人だよ。名前は……」
「梨守真夜です。よろしく」
金髪の青年が「ヒュ〜!」と口笛を吹いて、私は少しばかり嫌悪感を抱いた。
「何々、なかなか可愛いじゃん! 俺、君みたいな子、すっげー好みなんだけど」
「おい、アキラ! よせよ、梨守さんが嫌がっているって」
月村君が金髪の青年を止めに入る。
「おいおい、月村。俺はただ、好みだって言っただけじゃんか。ホント、お前真面目過ぎて、うぜーな……」
アキラと呼ばれた青年が舌打ちをして、傍に倒れていたドラム缶の上に座る。
「あはは……。ごめんね、梨守さん」
「ええ、別になんともないけど……、あの人は?」
「彼は白木アキラ。僕が最初に出会った人だよ」
白木はポケットから、タバコケースを取り出して、タバコを一本抜き取る。
そして、それに火を点けて一服していた。
「アイツ、不良だから気をつけた方がいいで」
「……え?」
私の後ろから声がしたので、振り返ってみる。
そこにはポニーテールの髪型をした少女が白木を見ながら、立っていた。
「えーと、……あなたは?」
「ウチは大城沙流歌。よろしくな! 真夜」
初対面でいきなり名前を呼ばれる事に少し、困ってしまう。
喋り方から見て、きっと関西の人なんだろう。
活発そうな性格の少女だった。
「ええ。よろしく、大城……さん」
「沙流歌でええよ、呼び捨ての方がこっちも気が楽やねん。それにしても、アンタ、すごく美人さんやなぁ〜。何食べたら、そんなに綺麗になれるん?」
沙流歌が目を輝かせながら、私を見る。
どうやら、彼女はこの現状について事態を重く感じていないらしい。
「そ、そうね。好き嫌いがなかったから、……かしら?」
「あちゃ〜。そしたら、ウチじゃ、無理や〜! ウチ、ピーマン食べられへんからなぁ〜」
沙流歌は残念そうな顔をして、肩を落とした。
そんな沙流歌を見て、私はついつい笑みを溢してしまった。
「あ、笑わんといてや〜。ウチ、ホンマにピーマン食べられへんのやで! なんか、バカにされてるようで傷つくわぁ〜」
「ごめん、ごめん。そんなつもりじゃないわ。ただ……、こんな状況なのに明るいのがすごいって思えて」
沙流歌は本当にあまりにも変わった子だった。
いや、本当はこの状況の中で恐さを隠して、無理に明るく振舞っているだけなのかもしれない。
でも、そのおかげだろうか。
警戒していた私の心も、すっかりと簡単に解けていった。
そして、沙流歌との話も終えて、私は最後の一人に挨拶に行った。
床に座っていたショートカットの髪型の女性は、やってきた私を上目で見つめる。
その目にはどこか不思議な雰囲気を宿しているかのように私には見えた。
「初めまして。梨守真夜です。よろしく」
「……よろしく。私は宮野美影」
「あの、宮野さんもここに閉じ込められる前の事とか覚えていないの?」
「……ええ」
「そ、そうなんだ。それじゃあ……――」
他にも質問を聞いてみたが、返答のほとんどは「……ええ」や「……違う」など、最低限に返せる言葉だった。
どうやら、宮野さんはあまり喋るのが得意ではないらしい。
さすがにもう何も話す事がなくなってきたところで、私は宮野さんとの会話を終了した。
とにもかくにも、どうやら、私達5人はこの閉鎖された建物内に閉じ込められたらしい。
4人の話によると、この建物内にある出口は全て閉鎖されている。
そして、携帯電話も使用する事ができない。
要するに、脱出不可能という事になる。
――それでも……何か手はあるはず。大体、私達は何故、こんな場所に連れてこられたの?
いくら考えても、まったく答えが出ない。
いや、出るはずがない。
だって、私達5人には“まったくの関連性がない”からだ。
だから、まったく犯人の考えている事が読めない。
私達をどうするつもりなのか、それさえ予測不能なのだ。
「あ〜、だりぃ! いつになったら、ここから出れるんだよ!」
白木が3本目のタバコを吸い終えた所で、立ち上がり、歩き出す。
「おい、どこに行くつもりだ! アキラ」
月村君が白木を止めようと声を掛ける。
「便所だよ! 便所! ったく、勝手に人の名前を呼び捨てにしてるんじゃねーっての」
「すぐに戻ってこいよ。何があるか、わからないんだ」
「わかってるよ、……ったく、うぜー奴」
そう言い残して、白木はトイレを探しに行った。
「彼……一人で行かせてよかったの?」
本当に一人で行かせてよかったのか、不安になって、私はその事を月村君に聞いてみた。
「大丈夫だよ。ここには僕達5人しかいないんだし、それにアキラだって男だ。自分の身くらいは守れるよ」
「まぁ、そうよね……」
月村君にそう言葉を掛けられるも、私の不安は消える事はなかった。
そして、この不安はすぐに的中する事になる。
「ふぅ〜」
ようやく、トイレを見つけることができて、俺は一息つく。
――……それにしても、あの真夜ちゃんって言ったっけ?
俺はあの女を思い返していた。
本当に綺麗な容姿をしていた。
「ここを出たら、まっさきに唾つけておかねぇとなぁ〜!あんな極上な女はこの先、出会えるかどうかわかったもんじゃないぜ」
俺は小便を済ませて、洗面所の前へと立つ。
――まぁ、早くここを抜け出して、あの子と二人きりで……。
コンッ! コンッ!
「ん? 誰だ?」
奥の扉から、ノックが聞こえて、俺はそっちを振り返って見た。
コンッ! コンッ!
「おい! 他に誰かいるのか?」
――ったく、悪ふざけも大概にしやがれよ!
俺は手を洗い終えると、ノックが聞こえてきた扉へと近づく。
一番奥から、一つ手前の扉だ。
俺はドアをノックした。
コンッ! コンッ!
「誰か入っているんだったら、ノックしろ!」
数秒も立たずして、ノックが帰ってくる。
コンッ! コンッ!
――やっぱり、誰かいるのか。ちっ、月村のヤロウ。5人だけじゃなかったじゃねぇーかよ。
「はぁ〜、アホらしい。早く戻るか」
俺はその扉から離れようと歩き始めた。
キィイイン!
後ろで扉の開いた音が聞こえた。
どうやら、中に入っていた奴が大便を終えたらしい。
そう言えば、どんな奴か気になる。
俺は振り返ろうと、言葉を掛けた。
「おい、お前も閉じ込められ―――」
グチャッ!
「……あ?」
腹辺りに何か冷たい感触が入り込んでくる。
それが何度も何度も出入りしていた。
グチャッ! グチャッ!
「……げぅぇ」
入り込んできた冷たい感触の辺りから、赤い液体がポタポタと流れるのが見える。
――これは……俺の……血……?
よく見てみると、さっきから出入りしていたのは細い15センチ程の銀色のナイフだった。
今ではすっかり、俺の血がベトベトとついて、真っ赤な紅色に染め上がっている。
グチャッ! グチャッ!
ナイフを握り締めているのは“ ”だった。
実に楽しそうにナイフを振りかざしては刺しての繰り返しをしている。
その刺し方と来たら、腹の中をかき混ぜているみたいだった。
既に腹の中の臓器が無茶苦茶に溢れかえっていた。
中には、刺さったナイフに引き抜かれて、出てきている臓器もあった。
ピンク色に染まっている臓器本体に俺の血が、べっとりとついてある。
まるで、スポンジのケーキにクリームを塗った後のような感じだった。
「てめっ、やめっれ…ぐぇえげ……ぶぇえっぅ………!」
血が、俺の血がゆっくりと床を伝っていく。
ドロドロと流れていく血はそのまま排水溝へと流れて、ピチャピチャと音を立てて流れ落ちていく。
「ぎえっ……ぐっ……ぅ……」
もう、まともな声が出せないでいた。
あまりに激痛故に意識がすぐにでもぶっ飛びそうだ。
視界もだんだんとだが、ぼやけてきている。
それでも、そんな俺を見て喜びながら、“ ”はナイフを振り下ろすのを止めない。
“ ”が口を開けて、俺に話しかける。
「お前…は最……生贄……ってもら…よ」
もう何を言っているのか、はっきりと聞こえない。
「ぁ………ぇ……」
ただ手を、手を上へとひたすら伸ばす。
そして、神に縋る様に、俺はがむしゃらに慈悲を願った。
――……死ニタクナイ、死ニタクナイ!
「――さよなら。白木アキラ――」
“ ”の口が確かにそう言っているように俺には見えた。
ナイフが俺の喉元に勢いよく振り下ろされる。
トドメを刺さんとばかりに血を求めているかのように真っ直ぐに喉元へとナイフが下りてくる。
「ぐ……ぉ………………」
――……死ニタクナイ、死ニタクナイ! 俺ハマダ、死ニタク――!!
グチャッ!