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あくまの日常  作者: rourou
8/16

07話 危ないところでした

帰宅から夕食まで、味方皆無の戦いを終えた翼は、一人風呂場で溜息を漏らした。


「はぁぁ……疲れた」


「では洗い流しましょう」


唐突に風呂場の扉が開き、ラティが現れた。

わざわざ気配を殺していたのだろう、完全に不意打ちだった。


「きゃーっ!?」


翼は乙女の様な声をあげ、胸と股間を隠した。

ラティは眉を顰め、冷徹な顔で翼を見下ろして吐き捨てた。


「何を乙女の様な声をあげているのですか。……気持ち悪い」


嫌悪感をたっぷりと載せたものだったが、翼はそれに反応する事は無かった。

トイレとお風呂という二つの聖域のうちの一つを侵された翼は、混乱の余りにラティを見て、慌てて目を逸らした。


「な、なななななんで――ッ?!隠せぇーッ!!」


ラティはすっぽんぽんで堂々と立っていたのだ。実に男らしい。


「はて。今さら隠すところなど無いでしょうに。私の身体は隅々まで変態であるツバサ様に舐めら――」


ラティは首を傾げながらペタペタと歩み寄り、恥ずかしげも無く危険な発言をし始める。


「恥じらい!ジャパニーズ恥じらい!乙女心を持ってほしいな!!」


皆まで言わせず、翼は叫び声を被せる。

一度眼を逸らしたが、しかし悲しい本能でちらちらとラティを見てしまう。

湯気が漂おうとも、光の中で見る肢体は眩しくて堪らなかった。髪をあげたことで、覗き見えるうなじが素晴らしい。

ラティはそっと胸と股間を隠して身を縮めると、翼から目を逸らす。


「見ないで……」


無感動な顔を恥ずかし気に塗り潰し、色っぽい声をあげる。


「――――ッ?!」


ズッキューンッ!と翼の胸に突き刺さった。

ラティはすぐ様無感動な顔に戻ると、さっきの幻だったのかのように腰に手を添えた。丸出しである。


「完璧でしょう?む。何をおっ勃てられて――」


ラティは胸を揺らして自賛すると、眉をひそめて翼の下半身を覗き込む。


「どおおおっ!」


翼は俊敏に飛び上がると、勢いもそのままに湯船に飛び込んだ。ざばーんとお湯が溢れ出る。


「……湯船に浸かる時は静かに。勿体無いでしょう。それに身体を洗って無いのでしょう?さ、早くこちらに。お背中を流します」


ラティは翼に注意をすると、スポンジを持って椅子をトントンと叩く。

隠す気は毛頭無いようだ。


「自分でやる!一人にしてくれぇ!」


翼は動けない。男の子だからだ。


「裸の私に冷えたままでいろと?早く温まりたいのですが。さっさと来てください」


しかしラティも諦める気は毛頭無いようだ。

無感動な顔のままでぶるりと震えて見せて、翼を引きずり出そうと試みる。


「ぐぐ……」


結局翼は、物理的に引きずり出された。




「如何ですか?」


丸くなった翼の背中を、ラティが丁寧に洗っていく。

翼が早く終われと念じながら必死に自制しているおかげで、返事を返すどころではない。

ラティは翼の脇腹に手を伸ばすと、抓りあげる。


「……あだぁ!?」


翼は飛び上がる。

抗議の視線を向けると、ラティの無感動な瞳が迎え撃つ。


「如何ですか?」


翼は一瞬も拮抗する事なく負けを認めて目を逸らした。


「き、気持ちいいよ……」


再びの問いに、翼は答えざるを得なかった。


「それは宜しい事で」


ラティはその答えに満足したようで、あとは静かに洗い始めた。


「ツバサ様」


「うん?」


不意にラティは話し掛けた。


「危惧した通りのことが起きそうです」


「そっか」


それだけで翼は理解した。

吸血鬼の事だろう。危惧していた事が起きたということは。


「ご家族の安全はつつがなく。後は――」


家族の安全はラティがどうにかしてくれる。彼女がそういうのならば信じられる。


「俺がやるだけか」


後は翼を狙って来るだろう吸血鬼を、翼本人が返り討ちにすれば良い。


「はい。微力ながら私も」


「ありがとう」


当然と言った口調で協力を宣言するラティに、翼は背を向けたまま感謝した。今振り向いたらこの雰囲気が壊れてしまう。


「いいえ。好きでやっている事です」


「でも本当に、俺で――ェッ!?」


済ました声のラティに再度感謝を伝えようとすると、また脇腹を抓られた。


「しつこい方ですね。次はありませんよ?」


「わ、わかりました……」


何故感謝するだけで怒られるのか。

理不尽さを覚えつつも、翼は逆らう愚は犯さなかった。


「しかしツバサ様。お気を付けて下さいね。幾ら強かろうとも相手は腐っても吸血鬼。油断は出来ませんよ」


「うん」


ラティはゴシゴシと翼を磨きながら釘を刺し始める。その手と口調に段々と熱がこもり始めてくる。


「特にツバサ様は脳筋ですからね。プライドだけの羽虫共とは言え、頭を使うものがいないとも限りません。搦め手にはとことん弱いのですから、先走らないようにして下さい」


力だけは人並み以上にある翼は、技術方面がお粗末である。それをよく知るラティは、離れている間にも変わっていないことを理解した分、その声にはとても力がこもる。


「分かってるよ。そういうのはラティに任せるよ」


だが翼は堂々と丸投げした。


「……ツバサ様が頭を使うようになれば問題無いのですが」


ラティは思わず手を止め、呆れたように呟く。


「それだとラティの張り合いが無いでしょ」


「……はぁ」


反省の欠片も見られない様子に、ラティは深く溜息を吐いた。

能天気に笑う翼の背中を見下ろしたラティは、おもむろにその手を伸ばした。


「ほォアッ!?」


背中に二つの膨らみがのしかかり、下腹を撫でられた。翼は素っ頓狂な悲鳴をあげる。


「前も洗います。――おや?まだ大きいままですね。昨夜もあれ程したのに……ツバサ様は性獣ですか」


「当たってんだよ!」


真面目な話は唐突に終わった。後はラティの気晴らしに翻弄されるだけだ。

逃げようと足掻くも、ラティは執拗に肌を擦り付けて来る。背後から抱かれては抵抗のしようもない。


「当てているのです。大好きでしょう?これが」


ラティは耳元に囁きを送り込み、強くめり込ませて来た。とっても柔らかかった。


「…………大好きっス」


翼は泣いた。嬉しくて泣いた。

どうせまたすぐに馬鹿にされる事は分かっていたが、感謝せざるを得ないものがそこにはあった。


「素直な事はツバサ様の美徳ですね。……小さくするには一度済ませれば良いのでしょうか」


ラティは後ろから覗き込み、するすると手を伸ばして来る。


「そこは俺がやる!もういいから!今度はラティな!」


翼は慌ててその手を止め、迅速に抜け出した。残念で仕方がないが、こんなところでおっ始める訳には行かないのだ。これ以上は理性が保たない。

ラティは獲物を逃した事に不満そうだったが、背中を洗うという当初の目的を果たした為か、素直に引くことにした。


「仕方ありませんね。では先に入っていて下さ――ひっ!」


そして今度は自分を洗おうとしたところで、背中を撫でられて飛び上がった。


「……」


ラティが口を閉じ、頬を染めながらジロリと翼を見つめる。翼くらいにしか読み取れないだろうが、無感動にも見える瞳の奥に確かに羞恥が見えた。


「俺が洗うし!」


非常に珍しい勝機を感じた翼は、仕返しとばかりに、ラティを座らせスポンジを持った。


「……性獣の目をしておりますよ?」


ラティは瞳の奥に焦りを浮かばせながらも、あくまで無感動な声と態度を崩さない。また口八丁でラティが脱げ出す前にと、翼は素早くラティを磨き始めた。


「くっ!」


ラティはかなり敏感なようで、びくりと身を震わせた。一瞬漏れた声を恥じる様に必死に歯を食いしばり、何とか耐えようとする。


「仕返しじゃー!うらうらぁ!」


だがいつもいつもいつもやられてばかりいる翼が、この千載一遇のチャンスを逃すはずがない。最近知ったばかりのポイントを重点的に責め立てる。


「あっ!くっ!」


その度にラティは震え、声が漏れる。

無感動な顔が崩れ、何かを耐えるように赤く染まっていく。

ラティの背中が執拗に磨き抜かれていく。


「どうだどうだぁ~!ふはははは!少しは俺の気持ちが――」


第三者から見たらヤバイ人だ。

女性の背中を洗い回して鳴かせるヤバイ性癖の変質者である。


「――――翼」


その変質者の声とシルエットに、翼の母親は震える声をかけた。


「――ッッ?!」


翼は外に立つ母親のシルエットにようやく気が付き、びくりと身を震わせる。

夢中になり過ぎて気が付かなかった。


「母さん、情けないわ!性欲だけは一丁前だなんて!それもこんな!ううっ!」


だっ!と母親のシルエットが走り去っていく。

母親にとっては、翼は嫌がるラティに特殊なプレイを強要している変質者にしか見えなかったのだ。


「母さん!?母さーんっ!誤解だ!誤解だー!!」


翼は慌てて後を追おうとするが、すっぽんぽんでお湯まみれですぐに追うことは出来ない。ドタバタと慌ただしく浴室から飛び出し、高速で身体を拭いて走り去っていった。

すぐに母親の罵倒する声と、翼の悲痛な声が聞こえてきた。


「はぁ……はぁ……っ……」


その頃ラティは、ようやく耐え切った感覚に額の汗を拭った。彼女は中々のくすぐったがり屋さんだったのだ。

これも鉄板ネタ

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