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あくまの日常  作者: rourou
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04話 いいえ、リフォームです

攻めにかかる女の子は大好き

「……What's happen?」


それが帰宅して我が家を見た時の翼のセリフであった。

朝は普通の家だった。今は伸びていた。縦と横に伸びていた。

見た目も記憶にある家とは違う姿になっている。


「おかえりなさいませ、ツバサ様」


間違えたという淡い期待は、現れたラティと母親によって粉砕された。


「あらあら何してるのよ翼。顔だけはいいのだからそんな顔してたら全部台無しよ?」


母親も何気に酷い事を息子に言いながら、ほくほく顔を浮かべている。


「いやいやいやいやいや!どうしてこうなった?!」


帰ってきた翼は、慌ててラティに詰め寄った。


「凄いのねぇ、ラティちゃん家のリフォーム会社」


「容易い事です」


この現象を全く意に介していない母親と、当然の事と頷くラティ。


「凄いどころじゃねぇよ!おかしいでしょ!?どう考えてもおかしいよ!リフォームじゃないよねこれ!絶対違うよね!?俺間違ってないよね!?ねえ?!」


不思議空間に押し切られまいと、翼は必死に抵抗を続ける。確かにお隣さんは空き地ではあったが、半日どころでどうこう出来るわけがない。明らかに人外の手段を使ったに違いないのだ。

外観だけで無く中までもが、我が家からかけ離れた事になっていた。


「リフォームです」


だがラティはピシャリと正論を叩き潰す。


「さっきあの人にも写真送ったのだけどね、大喜びだったわぁ~」


父親までもがこの超常現象になんの違和感を覚えていないらしい。ラティならばそんな悪い事はしないだろうが、流石にこれは滅茶苦茶だ。


「違うじゃん!?うちと違うじゃん!?面影ないじゃん!?」


翼は勝てるビジョンが浮かばないままでも、住み慣れた我が家の変貌っぷりに足掻きを止めない。既に手遅れであるというのに。


「何を仰いますか。こちらなど、完璧に面影がございます」


ラティは、場所的にかつては翼の部屋だったであろう部屋を開く。

そこだけは翼の部屋だった。正確に言えば部屋の家具だけは。


「何でだよ!?むしろ何でだよ!?それに何だよこれ!?」


しかし広さは倍になっている。そんな中でポツンと端に寄せられた翼の家具。物凄い違和感があった。

あまつさえ、部屋の中に見たこともない扉が付けられているでは無いか。

ラティがその部屋を開くと、可愛らしい部屋が広がっていた。


「私の部屋ですが」


一体いつ作ったのか、翼をデフォルメしたような人形が、大きなベッドの枕元に座っているでは無いか。


「何で繋がってるの!?おかしいよねこれ!?何でこれだけ鍵ないの!?」


翼は目を剥いた。

何故に翼の部屋とラティの部屋が直結しているのか。

しかも、各各部屋に付けられている鍵が、その扉にだけは存在しなかった。止めるものは何もない状態では無いか。

ラティは首を傾げる。


「――?この壁はこの通りに……こうなりますから」


そして壁を掴んで引いた。

すると壁だったものが折りたたまれ、翼の部屋とラティの部屋の境目が無くなった。


「逆に何で扉つけたぁ!?」


翼は頭を抱えた。

しかし、毎晩ハッスルかひゃっほう!と心のどこかで思った事もまた事実である。いやいや、昨晩のラティは非常に可愛かったと、翼が良からぬ事を考え始める。


「ああ、ツバサ様、これですが」


それを呼んだのか、ラティは完璧なタイミングで翼の隠していたエロ本、の写真を見せた。


「のおおおおおおおおおおおっ!?」


タイトルが見えるように綺麗に並べられた写真を見せ付けられ、翼はのたうち回る。


「――燃やしました」


「きゃああああああああああっ!?」


続けて告げられた真実に、翼は啼いた。


「問題ありません。全て熟読しました。こういうのがお好みなのでしょう?」


さらなる衝撃に精神をガリガリ削られる翼に向かって、ラティはぴらりとスカートを捲った。


「――ッッ!!」


見えそうで見えないギリギリのライン。

細くしなやかな太ももに食い込むタイツとガーターベルト。あと少し上に上げれば、魅惑の園が……。


「……分かって頂けたようで何よりです」


思わず食い入るように絶対領域を見る翼を見たラティは、微かに頬を緩めてスカートを下ろした。

絶対領域がさようならすると、帰って来た理性によって翼はがくりと四つん這いになった。

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「しかしこれで、ある程度は安全になりました」


色々な意味で打ちひしがれる翼を見下ろすラティは何処となく満足そうだった。


「…………そう」


ゾンビのような顔をした翼は、深く俯いたまま呻いた。その犠牲は余りに大きかった。


ある程度(・・・・)は、ツバサ様が暴れても問題は無いでしょう」


「……へぇ」


ピクリと翼の身体が震えた。

顔を上げた翼は、何かを期待するような顔をしていた。


「暴れないで下さいね」


オモチャを手にした子供の様な顔の翼に向かい、ラティはきっちりと釘を刺す。


「も、勿論だし!」


翼はラティから目を背け、明後日の方向に向かって言い放った。

危ないところだったと、ラティは密かにため息を零した。しばらくは注意して監視する事を決めながら。






「お手伝いさせて下さいお母様」


今朝とは比べ物にはならないキッチンは、人が二人並んでも楽々と作業が出来る大きさになっていた。

そして夕食の準備を行う翼の母の隣にラティが並んだ。


「あらあらそんな。気を使わなくてもいいのよ、ラティさん?」


新しく広いキッチンに浮かれた様子の母親は、頬に手を当て申し訳なさそうにする。


「ツバサ様の為に、少しでもお母様の味を覚えたいのです。ご迷惑でしょうか……?」


しかしラティがしおらしいことを言うとハッと目を見開き、ラティの手を包み込む。


「そんなこと無いわよ!本当に何でこんな良い子がうちのアレに……ううっ」


さりげなく息子をアレ呼ばわりした母親。嬉し泣きする母親とは対照的に、

やはり無感動な顔のラティは、態度だけはしおらしく、母親の手をそっと包み返した。


「ありがとうございますお母様」


そして早速とばかりに二人で作業を始めるが、すぐに母親は目を丸くした。


「あら。あらあら。上手いわねえラティさん」


「ありがとうございます」


翼はそれを聞いて、内心耳を疑った。こっそりと様子を伺うと、ラティは軽やかに野菜を刻んでいた。

昔、悪魔時代にはラティは料理が出来なかった。一度手料理を喰わされた事があったが、一言で言って酷いものだった。

気合いで完食して「美味かったよ」とは言ったが。蒼白で震えながらでは、説得力は皆無だったろう。それからはラティは何も作らなかった。


「これなら私が教える事も無いんじゃないかしら?」


そんなラティが、手際よく作業を進めている。それは決して母親にも劣らぬ鮮やかな手際だった。

捨てられたと、ラティが思った時。彼女は自身の非を探し、翼を探しながらも必死に改善したのだ。そんな事を露も知らぬ馬鹿の為に。


「今朝のツバサ様は大変嬉しそうにお母様のお食事を食べておられました。私ではとてもあの様に……」


ラティは淀みなく作業を続けながら、悲しげに眉を下げた。瞳は全く変わらぬままだが、どこか悲しげに見えないでも無かった。

すると騙された母親は、ギュッとラティを抱き締め、キッ!と翼を睨み付ける。


「翼!あんたうちのラティちゃんに何て酷い事を!」


「えッ?!」


まさかの母親の根本的な裏切りに、翼は愕然と目を見開いた。


「いえ、お母様!私が未熟なのです!……ですが、少しでも早くツバサ様に喜んで頂けるようになりたくて」


ラティは翼を庇うように壁になり、健気な少女のように涙を拭った。ちなみに涙は一滴も流れていなかったし、顔は無感動なままだった。


「ううっ!何て良い子なの……!頑張ってラティさん!おばさんも頑張るからね!」


だが母親には何かのフィルターを挟んで見えているのだろうか、健気に見えるラティに感極まった様に涙を溢れさせる。


「ありがとうございますお母様」


ラティは着々と取り入っていく。

遠慮する気は欠片も無いようだ。

一度離れた分を埋めるかのように、ぐいくいと懐に侵食を進めてくる。それもこれも全ては、言質を取ったからだ。恐るものなど何もなく、確実に翼を絡め取っていく。

その姿に、翼は戦慄を隠せない。


「あ、悪魔め……!」


言うまでもないが、ラティは本物の悪魔である。

退路を断つとなおよい

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