花と雨―聞こえる少女と視える少年―
カンカン
電車の警報がなり、遮断機かおりる。
ここの電車はやたらと時間がかかるため、通りすぎるまで携帯でも弄ろうかと上着のポケットに手を突っ込んだ。
――!?。
ポケットに手を突っ込んで、ふっと目に入った光景に一瞬だけ俺の時が止まった。本当に、ほんの一瞬。
それに気づいた時は直ぐ様体が動いていた。
「何してんの!?」
俺は遮断機をくぐる少女の腕を掴んで引き止め、その拍子に少女が振りかえり、ぼーっとしたような空ろな目と目があった。
「………」
ガタンゴトン ガタンゴトン
電車が走り抜ける。
あと少し遅ければとんでもない事が起きただろう。想像しただけで寒気がし、いや、やめようと頭をふって俺は少女に再び問いかけた。
「本当、何してんの?」
その問いかけに彼女はただぼーっと俺を見つめる。
え?聞こえてる?っと、思ったら彼女の小さな唇が動いた。
「聞こえたんで」
空ろな目で、随分可愛らしい声で囁いた。
は?聞こえた?
何を言うんだこの子はっと、彼女の言葉に疑問に思っていると彼女はガタガタ五月蝿い線路へゆびさした。
「呼ぶんです、女性の声が、微かに…今は電車で聞こえませんが……」
「………」
彼女の言い方でなんとなく察した。彼女が言ってるのは恐らく霊の事だろう。
これが何も感じない人にとっては何いってるんだと思うが、俺もその類いを感じる方で霊が視える。
普通にして視える時はそうそうない。相当向こう側の主張が強いときで、基本的に俺は目を閉じて意識すれば視える(たまに意識せずに視える)。俗にいう霊視というのだろうか。
しかし、視えるだけで向こうの声は聞こえない。そもそも聞こえたとしても関わりたくない。
「……信じませんよね」
霊の声が聞こえる少女は嗤笑して、遮断機が上がる線路へと踵をかえした。
そして線路のなかへはいり、ある場所をゆびさした。
「でも聞こえるんです。微かに…か細い声が」
少し声が弾み、空ろな顔も笑ってるように見える。
そして少女はスカートの裾を押さえながらしゃがみ、線路の地面の方を見つめながら呟いた。いや、誰かと話してるように。
「聞こえますよ。そうですか、それはお辛い」
しゃがみこむ彼女を時たま通る人達が邪魔くさそうに顔をしかめたり、異様な目で見下ろし通りすがる。
そしてたまに近くにいる俺にも似たような視線がくる。
なんなのこの子は、見たいな目で訴える。
いや、無関係なんですが。そう言いたい。
…―――あ。
数秒立ってからはっと気づいた。無関係ならば立ち去ればいいのか。
俺は話しに夢中になる彼女に声をかけず、立ち去ろうと右足を動かした。
だが、右足が動かない。
何かが重く足首に巻き付いた感じがした。いや、巻き付いたというより、誰かが逃がすまいと足首を掴んでる感じだ。
「あれ?声、聞こえない」
ぼそっとしゃがみこんでいた少女の呟きが聞こえ、まさかと背筋が凍る。
俺は、正直視たくないがまさかを確認するため、瞳をとじた。
真っ暗な中足首の所を意識した、するとか細い女性らしき手が足首を掴んでいた。
「わっ…!」
思わず俺はその手を振り払うため、後ろへ足を払った。
するとあっさり手は引っ込み、手は白いヒトガタのもやの中へと戻っていった。恐らく白い人形のもやが彼女が話していたやつなのだろう。
やめてくれ、と内心毒づきながら目を開けるといきなりの少女の顔が間近にあり驚いた。
危うく声をあげそうになったが、慌てて口を押さえた。
もう、さっきから心臓に悪い。
ちなみに少女の遮断機くぐりで凄い寿命にダメージを食らって、さらに白いヒトガタのもやの手と少女のドアップのダブルコンボ、多分10年以上寿命縮まってるだろうな。
押さえた手をはなしながら俺は溜め息をついてから、先程から俺をそらさず見つめる少女に視線を向けた。
「えっと、何?」
「もしかして視えるんですか?」
じっと見つめる少女の空ろだが何処か嬉しそうな黒い目。
「霊、視えるんですよね?」
よくみると目の下には隈があるなぁ、とのんきに観察してたら彼女に両手を握りしめられていた。
「へ?」
「やっと見つけました!」
嬉しげに微笑む少女。
ちょっと可愛いかも。
って、待て待て現実逃避はここまでだ。
これ以上彼女といたら俺は、俺は関わりたくない事に関わることになるんだぞ!?