鬼嫁姫とツンデレ魔王
あらあら、そのあたりでやめて下さる?
いくら不細工で凶悪な顔をしていても、その子たちは今は私の子も同然ですの。あまり痛めつけるようなら、わたしも容赦しなくてよ。
だいたいこのダンジョンで死んだ魔物達を誰が、蘇生させていると思っているのかしら。私の魔力とて、無限でなくってよ。何十体もの魔物に蘇生魔法をかける労力を考えたら、諸悪の根源である、あなたを消し炭にした方がよほど効率的…
……あら、あなた、私をご存知ですの?
え?
攫われた私を魔王から奪還すべく、異世界から召喚されて、勇者にされた!?
……ちっ、あのボンクラ親父が。私をなめやがって…
……失礼。思わず、姫らしからぬ言葉を使ってしまいましたわ。
父があなたにしたことを、心から謝罪致します。元の世界に、あなたにも大切なご家族やご友人がいたでしょうに。
すぐに無能親父を引っ張ったいて、帰還の儀を……え、天涯孤独?向こうの世界よりも、こちらの世界の方が気に入られた?
まあ、まあ、それはよろしゅうございました。召喚を行ったのは、こちらですから、当然福利厚生は面倒みさせますわ。私こと、第一王女エリフール・セテヌスがお約束します。
しかし、勇者様。せっかく私を助けに来て頂いたところ申し訳ありませんか、私別に魔王から攫われたわけではありませんの。
いえ、魔王はそのつもりだったようですが、実際は攫われたふりをして、私が自らついていきましたの。
世界征服を企んでいるかなんか知りませんが、あの時の魔王はおいたが過ぎました。お仕置きをするのに外から責めるよりも、攫われたふりをして、内部から崩してやる方が効果的かと思いまして。魔女と恐れられた私の魔力は伊達ではありませんわ。
ここに到着するなり、私は持っている魔力をフル稼働して暴れまくりましたの。ラストダンジョンだけあって、魔物も高レベル揃いでしたが、私の敵ではございませんわ。
魔物も、幹部魔族も倒しまくった結果、最終的に魔王が出てきて、相討ちで倒れるまで死闘を続けたのは、今ではいい思い出ですわね。
私の力を見せつけたら、次は調教ですわね。
飴と鞭は使い分けてこそ、効果があるものですわ。
焦ってことをなそうとしてはいけませんわ。やはりそう言ったものは時間を掛けなければ。
ゆっくり時間を掛けて、ダンジョンの魔物や魔族たちに、むやみやたらに人間を襲わないように躾けましたの。
生きる為に人間を襲うのは仕方ないですわ。私は倫理観の為に死ねとは言えません。人間ですら、極限状態では当たり前のように人を傷つけますもの。
だけど、魔王城一帯は、近隣諸国のどこよりも肥沃な土地。植物が食べられない魔物達でも食べられる動物はたくさんいます。
人間だから食べてはいけないというのは、人間に生まれたものの奢りですわ。そんなもの理由になりません。
でも、その後の人間の行動…復讐心を燃やすとか、その為に魔物を殲滅させようとするとか、そう言ったデメリットの強さを教え込んでやったら、ある程度の知能を持つ、魔物ならば納得して、積極的には人間を襲わなくなりました。実際、この近辺の被害はかなり縮小しているはずですわ。
世界征服はいいのかって?元より、そんなのは魔王と一部の魔族だけの悲願。力に従っているだけの魔物達には関係がないこと。その一部とて、私がお仕置きをしたら、物騒なことを考え無くなりました。
手の中のものだけで、満足をする。足るを知るって素晴らしいことですわ。未だそれを学ばないのは、馬鹿な魔王だけ。まぁ気長に調きょ…教育していこうと考えていますの。
そんなわけで、私は自らの意志で、ここにいますの。だから、あまり心配は…え?それでもやはり一度城に帰って欲しいですって?
まだまだ調教育の途中ですから、余り中断したくないのですが…そうですわね。あなたが魔王に許可をとって下さるなら、一度帰ってもいいですわ。一度あのアホ親父にもガツンと言ってやらないととは思いますし。
…二つ返事で了承されるかも、しれませんわね。
――あの人は私に、随分とうんざりしているでしょうし。
ああ!?エリフールを連れていくだぁ!?そんなの俺に許可をとらずに勝手に連れて行け!!せいせいする!!
あの美しい外見にすっかり騙された!!なんだ、あの凶暴な女は!!お蔭で俺はすっかり腑抜け扱いで、異境住まいの魔族からは蔑まれる毎日だ!!
あの災厄の女を、さっさと引き取ってくれ!!
…おい、ちょっと待て。
いいから、ちょっと待て。分かりましたとか、簡単にいうんじゃない。
たまたま、たまたま耳に挟んだ噂だが、お前、エリフールを連れて帰ったらあいつと結婚させてやるとか言われているんだろう。
お前、それでもあいつを連れて帰ろうっというのか?
エリフールは姿だけは極上だが、ドラゴンより凶暴で、ピクシーのようにこざかしい女だぞ。
お前みたいな優男の手に負えるか。やめておけ。
お前なら、いくらでも他にいい女を捕まえられる。あんな女に結婚の口実を与えるようなことをしてやるこたぁない。
待て待て待て待て
考えなおせ!!あいつは魔王である俺を、笑顔で瀕死状態まで追いやれるような女だぞ!!
お前は、確かに強い。見ればわかる。だが、正直いって今のレベルのお前じゃ、俺は倒せない。後10レベルは上げなければな。
そんなお前があいつと夫婦喧嘩をしてみろ。あっという間に病院か、教会送りだぞ。そんな化け物嫁にしたら、体がいくつあっても、足りな…
だーかーら、待て!!早まるなっ!!
あー…これだけは言いたくなかったが。
あいつにはなぁ、腹に俺のガキがいんだよっ!!魔族の血を引く、ガキが!!
人間はなぁ、自分と異なるもんを嫌悪するんだろ?戻ったところで、ガキもあいつも迫害されるだけだ。
あの女はどうでもいいが、半分は賤しい人間の血が流れているとはいえ、魔族としてトップクラスの高貴な俺の血を引く俺のガキだからな。人間どもにそいつが虐げられるのは、許せる事態じゃねぇ…
ああ!?生まれたら、ガキだけ置いて行く!?
てめぇ、子供を母無しにさせるとか、どんだけ鬼畜生なんだ!!
…確かに、魔族の多くは卵生で親がいねぇまま一人で育つのが普通だが、それがどーした。
そのガキが胎生で、人間よりの生まれ方をする以上、人間寄りの育て方をするべきだろっ!!
…一時的に、城に帰るだけだ?結婚する気もない?
そんなの、実際帰ってみたらどうなるかわからねぇだろうが!!あいつが里心ついちまったら、どーしてくれるんだ!!
てめぇが欲しいのはこれだろ。おら。和平誓約書だ。これがある限り、俺はお前を召喚した国を襲わせることはねぇ。誓約を裏切れねぇような、特別な呪術も施してある。
それさえありゃ、満足だろ?それを持って、さっさと国へ帰りやがれ!!
居なくなった方がせいせいするが、仕方ねぇから、エリフールは俺が引き取ってやる。
災厄を押し付けなかった俺に、せいぜい感謝するんだな!!
「…ツンデレ、乙」
「?勇者様、それは、どういう意味の言葉ですか?」
「…リア充滅べって意味だな」
「??ますます意味が分かりませんわ」