雪の日に
粉雪が舞い落ちて。
その、小さな手のひらに包まれる。
子どもはそれを、私の方に差し出した。
「ねえみて、ゆきだよ!」
「どれ、見せてごらん」
でも覗いてみても、そこにあるのはただの水で。
「あ、とけちゃった」
肩を落とすその子。
せっかく捕まえたのにーと呟きながら水になったそれを見つめている。
ふとその子が顔をあげた。
「ねえ、オネエサン」
「なあに?」
急に話しかけられ、慌ててニッコリと笑顔を作る。
ちょっとわざとらしくなってしまったかも知れないが。
無理矢理作った笑顔も、その子の無邪気な表情を見れば、自然と心から笑えてくる。
何故、殻に閉じこもってしまうのだろうとか。
何故、自分に正直になれないのだろうとか。
そういうことを、ずっと考えてた。
小さい子はこんなにも真っ直ぐで、正直なのに。
自分は。
周りに笑いを向けていても、どこかで他人が踏み込めないように、一線を引いている。
それゆえに、相手に分かってもらえない。
自分も、相手を理解しようとしない。
それが、普通になってしまっている。
頭では分かっているのだけれど。
どうしても、腑に落ちない。
もし大人が子どもみたいに正直だったなら、とついつい考えてしまう。
大人になっても、子どものようだったなら。
誰も壁を作らないから、心の底から信頼しあえるだろう。
嘘ということができない、純白のキレイな人間になる。
それに、私たちのような悩みごとを抱える人がいなくなる。
皆が望む、世になる。
こんな世界だったら。
何も悩まずに、楽しい毎日が送れるのに。
ツンと服の裾を引っ張られた。
はっと下を見ると、首を傾げて私を見るその子。
「よかったぁ、しんじゃったかと思った」
そう言って、へにゃりと顔を緩ませる。
「ごめんね」
私はその子の髪を撫で、前を見た。
そうだ、現実を見なければ。
くだらない想像をしていても、何も始まらない。
―――現実を、見なさい。
私にはその子が、こう言っているように感じた。
お読み頂き、ありがとうございました。
天狐 翔