ブロッコリーよ、しがみつけ
コテンと落ちてたブロッコリー、交番に届けてみるか…….
ブロッコリーが落ちてた。交番に届けようかと思ったけど、届けられたくなさそうだった。落とし主をドンと構えて待っているように感じた。
落とし主は気づいているのだろうか。遺失届出してるかな?交番に届けたほうが早く落とし主に届くのではないか?でも小さい子が迷子だったら迷わず交番に連れていくだろ!
イヤイヤ期の子供の手を引っ張るかのようにブロッコリーを持ち上げ交番に向かった。
そういえば、財布届けた時って5パーもらえるよな?
ブロッコリー届けたら5パーもらえんのか?
そうブロッコリーに問いかけると、ブロッコリーは顔を背けて無視してきた。
交番が近づいてくると、普段はない行列ができていた。よく見たらみんなブロッコリーを抱えている。なんの偶然かわからんが、とりあえず俺も並んでみる。
前の人に、なんでこんなに人が並んでるのか聞いてみた。なんとなんと、ブロッコリーを落とした人が交番に来て騒いでるらしい。
しかも落としたブロッコリーを届けてくれた人にはswich2をくれると。
なるほど、それでこの行列ができているのか。我こそは本物のブロッコリーを拾ったものであると、みんな胸を張って並んでいた。
ふふふ、勝つのは俺だ、そう簡単に道にブロッコリーが落ちているはずないだろ!…..
…….まてよ、落としたブロッコリーの外見なんて覚えてないだろ…..これは落とし主の気まぐれで終わる可能性がある。
当然だ、普通ブロッコリー落としたくらいで交番に来ない。あいつは変なやつだ。
そう思っていたが次々に瞬殺で偽物を見分けて、悪徳なりすまし者を捌いていく。なかなかみる目があると感じた。
口が軽い俺は前に並んでるやつに自慢気に話した。俺が本物のブロッコリーを拾った者だと、俺があのswich2をいただくと。
前のやつは交渉してきた、
もしswitchを手に入れたら7万円で売ってくれと。
俺は迷わず承諾した。ブロッコリーを拾っただけで7万円貰えるとは、ニンマリ顔が抑えきれなかった。
次第に順番は回ってきた。
俺は自信を持って落とし主に差し出した。
よく見たら落とし主はまあまあ年をとったお爺さんである。落としたことに気づかなかったのも無理はない、思い荷物を運ぶのに夢中だったのだろう。あんなにムスっとしてたブロッコリーだったが、主人のもとに帰ってこれたと安心した表情を見せた。
落とし主は目つきを変えてガン見している。7万円を確信した俺は心の中でガッツポーズ!!
いつの間にか、ブロッコリー騒ぎで人だかりができている。そんな中をかき分けて向かってくるお婆さんがいた。
……さーん…いーさーん….じいさーん!!!
じいさん!!ブロッコリー見つかったよ!!
ほら!!!
ワンッ!!!と犬が鳴く。
お爺さんはその場に崩れ落ち、犬を抱きしめて泣きじゃくる。どうやら探していたブロッコリーとは、野菜ではなく、犬の名前らしい。
え?は?え?
うそーん、まじ?
野菜のブロッコリーも信じられない表情であった。血の気が引くように、色鮮やかな緑が白くなっていく。俺は見ていられず、力いっぱいブロッコリーを抱きしめた。悔しさと悲しさを分かち合った。きっとこのブロッコリーは本当に落ちてしまったのだろう。お婆さんの持っていた買い物袋には欠けた形跡のある大きなブロッコリーと、にんじんやじゃがいも、シチューのルーが入っていた。
美味しく食べられるはずだった、他の野菜と競い合い、俺が1番美味いと誇りに思いながら喉を通った未来があったかもしれない。
ブロッコリーはかすかな涙を流した。
俺は無言でブロッコリーを抱えたまま、家に帰った。
数ヶ月後、俺は会社を退職した。
退職金は思ったほどなかったけど、あまり気にしなかった。新しい生活にワクワクしていたから。
実家は都内だったけど、田舎に引っ越して畑を耕した。収穫した野菜はみんなに美味しく食べてもらえるといいな。
あの時のブロッコリーはどこで育ったのかな?産地に行って後輩ブロッコリーに伝えたい。
買い物袋には必死にしがみつけよと。
持ち帰ったブロッコリーには名前をつけました。
犬 と。