離婚してから侯爵家が破滅したのは誰のせい?
「貴様を愛する気はない」
結婚式の当日に旦那様になる男 マーヴィン・アークライトに寝室で言われた言葉だ。
初夜の支度をしてベッドで待っていた私を見て、ため息と蔑みをこぼしている。
「俺は『黄金の獅子』の加護が欲しかっただけだ」
「・・・かしこまりました」
私は姿勢をただし彼に頭を下げる。抑えようとしたが身体が震える。
その姿に満足したのか彼は部屋を出て行った。
結婚してから5年俺の生活は順調だ。
執務室で茶をすすりながら我がアークライト侯爵家の右肩上がりの帳簿をみる。
あまりの売り上げについニヤける。
「我慢した甲斐があったな」
思い浮かべるのは俺の正妻ファウスティナ。
コウロット伯爵家から嫁いできた女。
貴族なのに地味な茶髪に灰色の瞳で大きな眼鏡で顔を隠しているみすぼらしい姿。
俺より5歳年下なので今年23歳だが身体の凹凸もささやかなものだ。
顔合わせの時は取り繕ったがため息がこぼれそうだった。
俺は、金髪碧眼で顔はなかなかに整っている方だと自負がある。
学生時代は数多くの女性と逢瀬を重ねたものだ。
しかし俺には彼女と結婚しなければいけない理由があった。
コウロット伯爵家は爵位は高くないが何故か国内外の高位貴族に嫁ぐ娘が多く、その家々の全てが花嫁を迎え入れた後から幸運に恵まれている。
内容は様々だが事業が上手くいき、多くの資産を得る事が多い。
それはコウロット伯爵家が営むコウロット社のおかげなのだろう。
元は男爵位の目立たない家だったらしいのだが10代ほど前の当主が興したコウロット社は数年で国内有数の、代が替わる頃には外国にも轟く商社へと成長していた。
当主が金髪に金の瞳のため黄金の獅子と呼ばれている。
その名に連なることが名誉であり、信用なのだろう。
事実ファウスティナが来るまでは我が家は借金を抱え、そのままでは次の年には没落さえあり得るほど困窮していた。
「それが今ではどうだ」
歴史だけのボロボロだった屋敷も改修され、俺の執務室も買ったばかりの絵画など調度品で彩れるほど豊かになった。
借金だけ残して事故で亡くなった両親に見せてやりたいものだ。
「旦那様よろしいでしょうか」
夕食時にファウスティナから久しぶりに声をかけられた。
それは俺が普段はほとんど仕事の会食でこの時間に家にいることも少ないからだが彼女は初夜に釘を刺しておいたおかげか弁えており、必要最低限しか俺に関わってこない。
久しぶりに見たがやはり地味だな。
「なんだ」
「先日旦那様がお会いされていたケアード公爵様なのですが」
ドンッ
彼女の言葉の途中でテーブルに拳を下ろす。
その音に側に控えていた執事長が給仕のメイド達を部屋の外に出るように指示し、部屋から退室していく。
俺とファウスティナだけの部屋に静寂が広がる。
「仕事に口を出すなと言っていたはずだか」
「・・・ですが「黙れと言っている!」
「・・・申し訳ありません」
少し威圧すれば彼女は頭を下げる。
「何度も言っているが出しゃばるな」
俺はそう言い残し部屋から出て行った。
「おい、馬車の用意をしろ外出する」
「かしこまりました」
扉の外で控えていた執事長は俺の指示に従いすぐに玄関に馬車がつけられた。
馬車に乗り込みいつものところへと御者に伝える。
ファウスティナは、必要最低限の会話しかしてないのに度々仕事に口だそうとしてくる。
「ただの女のくせに」
コウロット家の娘とはいっても家業に関わってないただの縁繋ぎの為の存在。
我が侯爵家という爵位とコウロット伯爵家の顔のつながり、その2つからなる財力の恵みを受けれるだけで幸せだと思えばよいものを。
形だけの妻とはいえ、社交も買い物も好きにさせていた。
予算もそれなりに与えていた。
世の不幸な人間を思えばかなり幸せだろうに。
その地味な見た目では碌な縁談もなかったはずだ。それを没落しかけていたとはいえ高位貴族の侯爵家に嫁げた幸せを本当に分かっているのか。
馬車に揺られながら思いだし腹をたてていた。
『愛する人』に癒やしてもらおう。
「お前とは離婚する」
結婚して10年、久しぶりに家に帰ってきた旦那様は私にそう言いながらテーブルに彼側が記入された離婚届を差し出された。
傍らには艶やかな金髪碧眼の豊満な体つきの美女がいた。扇情的な格好に濃い化粧、そうかこれが彼の好みか。彼女は、ソファに座る旦那様の腕にもたれかかりながら向かいのソファの私を見てフッと笑った。
「・・・そちらの女性は?」
私が聞くと彼らは待ってましたとばかりにニヤッと笑った。
「俺の最愛だ」
旦那様の言葉に女性はうっとりとしていた。いや、名前を教えていただきたいのですが・・・。
まぁ、二人は黙ってる私の前でまるで劇のような語り口の説明を初めてくれたので良かったです。
彼女は、モネット・ナルディーニ子爵令嬢。彼女は旦那様と同い年で学園で同級生だったそうだ。お二人はその頃から男女の仲だったが彼女には婚約者もいたし卒業前に旦那様のご両親がお亡くなりになったためアークライト家のことで手一杯になり別れたそうだ。
それからモネット様は婚約者の子爵家に嫁いでいたのだが結婚2年でご主人が病没し未亡人になったそうだ。
子供もいなかった為、実家に出戻った彼女は旦那様と私が結婚することをそこで聞いたそうで。
まだ婚約段階の彼の元に会いに行きそこで再び愛が芽生えたというわけだ。
家のためには、私との結婚は避けれないがそれは形だけで愛はモネット様だけだからコウロットの支援なくても大丈夫なところまで待っていて欲しいと伝えていたそうだ。
なるほど二人からしたら私は恋仲を引き裂く邪魔者だったのだろう。
けれどここ1、2年は彼女と別邸でほとんど過ごしていたでしょうに。
「最初から愛さないとは言っていただろう?いい生活はさせていたんだから最後くらい俺たちの為になってくれよ」
やれやれと困ったように言うが私からすれば本気か?となるが彼らはいたって本気なのだろう。
「かしこまりました、では私は実家に帰らせていただきますが離婚の慰謝料などはまた連絡させていただきます」
ソファから立ち上がり彼らに一礼して部屋から退室する。
背中に「最後まで愛想の悪い女」と聞こえてきたが鼻で笑った。
部屋から出るとそこには執事長が暗い顔で待っていた。
「私は実家に帰ります」
その言葉に何か言おうと口を開いたが彼は何も言えないまま「かしこまりました」とだけ礼をした。
彼は、扉の向こうの二人と違って分かっているのだろう。この後の展開が。
私は侍女達に荷物をまとめるように言い2時間後には侯爵家を出て行った。
私の結婚生活は10年で終止符となった。
「お嬢様」
執務室で書類に目を通していると私の侍女のアリィが声をかけてきた。
「お嬢様はやめて、私ももういい年なんだから」
まもなく30にもなるのだからいい加減お嬢様と呼ばれるのは気恥ずかしい。
「何を言いますか、私にとってはいつまでも可愛らしいお嬢様でございます」
「・・・・」
胸を張って言う彼女は誇らしげだ。こうなった彼女には何言っても無駄だろう。
私の幼き頃からの付き合いで姉の様な人。
「それで、何かあったのかしら」
「大旦那様のもとに『アレ』が来ております」
大旦那様とは私の父のことだ。
現在は隠居して母と悠々自適な生活をしている。
「それでは私も久しぶりに『元旦那様』に会いに行きましょうか」
アリィ、私を大事にしているからって『アレ』だなんてだめじゃない。
笑ってしまった私が言えることではないのだけれど。
私は、書類をしまって父達のいる応接室へと向かった。
「大旦那様、お嬢様をお連れいたしました」
アリィが部屋の扉を開けるとソファに父がおり、その向かい側に彼は座っていた。
二年前の姿からは想像出来ないほどやつれていた。
「・・・・ファウスティナ?」
久しぶりで妻の顔も忘れてしまったのでしょうか。
「お久しぶりです、マーヴィン様」
カーテシーで挨拶をする私に彼は言葉を失っていた。
父の隣に座り彼と対面した。
「ティナ忙しいところ来てもらってすまないね」
「いえ、一区切りついたところでしたので」
私たちの前にはアリィが用意した紅茶があり、それを口にする。
ティナとは私の愛称だが普段客人の前では口にしない。つまりそれだけで彼は客人ではないと言うことだ。
「それでマーヴィン様は本日はどのようなご用件で?」
私が尋ねると彼はハッとしてやっとしゃべり始めた。
「私はコウロット卿と話しに来たのであって君と話しに来たのでは「現在の当主はファウスティナですよ」
彼の言葉を遮るように父が言う。
「は?何の冗談だ」
彼は馬鹿にしているのかとでも言いたげだ。
「本当ですよ、現在はコウロット女伯爵 ファウスティナ・コウロットです」
そう、彼と離婚して1年後に私は父から伯爵位を継いだ。
女性当主は法律上問題ないがやはり珍しく、継いだ当初はかなり貴族社会で話題になったがそれすら知らないとなるとそれどころではなかったのでしょう。
金髪碧眼の社交界でも見目の良さで人気だったのですが今の彼は、髪がパサついて目の下に隈もある。服こそそれなりのものだが裾がすり切れ、少し汚れもある。
見る影もないとはこのことですね。
「・・・そんな目で見るな!だいたい何もかもお前らのせいだろうが!それにファウスティナ!なんだその見た目は!」
彼は、私を指さしながら怒声をあげた。
「お静かになさってください」
私は彼の背後に視線をやる。我が家の騎士が控えているのに気付き彼は手をさげた。
「まず私の見た目ですがこれが本来の私の髪と瞳です」
我が家の当主の証し金髪に金の瞳。眼鏡は認識阻害の魔道具で髪色と瞳の色を変えられるものだ。
「何故結婚していたとき隠していたんだ」
まるで本来の姿だったら愛していたのにと言いたげですね。
「婚前に浮気されるような方に身体を汚されたくなかったので」
「最初から知っていたのか?」
「婚家を調査するのは当然ですから」
彼が美醜で人を判断する人なのは知っていたが眼鏡は正直賭けだった。
顔自体は変わらないので気まぐれにでも手を出されたらと思っていたがまさか初夜で愛さないと宣言してくれるなんて嬉しさで身体が震えるのを抑えるのが大変だった。
「じゃあ我が家の他家との事業や使用人を奪ったのはどういう事だ」
確かにアークライト家の使用人は私が離婚してからそのほとんどがコウロット家に来ていた。特に長年仕えた者のほとんどが。
事業に関しては元々アークライト家の提携していた家はコウロット家とも付き合いがあっただけなのでどちらが大事か天秤にかけられたのだろう。
「奪った?彼らはどちらも自分自身で私の元に来たのですよ」
「そんなはずないだろ!長年仕えていた執事長も順調に進めていた事業を提携していた侯爵家も離れるはずのない人間達まで離れるのはおかしいだろう」
本当に分かっていないようです。まぁ、分かるような方ならこんなことにはなっていなかったか。
「執事長の名前をご存じですか?」
私の質問の意図が読めないのか彼は一瞬考え込んだが「知るわけないだろう」と言い捨てた。ですわよね。
「マーカス、エレミエ、チャール、ナンシー」
指を折りながら数える私を彼は不可解という目で見てくる。
「一部ですがマーヴィン様が長年仕えてくれていたという者達の名前です」
「それがどうしたというんだ?」
「彼らは先代からのアークライト家に忠実な使用人達でした」
「分かっている!だからこそ我が家を裏切るなどおかしいだろう」
「彼らを先に裏切ったのは貴方でしょう?」
部屋に静寂が流れる。少しだけ、少しだけなのですが・・・・腹が立ちますわ。
私の雰囲気が変わった事には気付いたのか彼は少したじろいだ。
「アークライト家の税収の横領、国の文化財指定の家宝の密売」
「なっ、何故それをっ!」
彼は私が離婚した後のアークライト家の内情を知っていることに驚いていた。
これだけでもかなりの重罪だが一番の罪は。
「そして領民を国外への奴隷としたこと」
その言葉にさすがに彼は言葉を失った。
この国では奴隷の所有も売り買いも国の資産たる国民を脅かすとして極刑が定められている。「そんな事はしていない!」
罪の重さは分かっているのか彼は慌てて否定した。
まぁ、認める訳にはいきませんわよね。まさしくその首がかかっているのだから。
「取引した奴隷商も買った貴族も今頃逮捕されていますよ?貴方に入金されるはずだったお金がきてないのはそのせいです」
奴隷にされた領民は我が家に連なる国外の者達が保護する手筈を整えている。
彼はそれより己の保身以外考えていないだろうが。
だがそんなことすら考えられなくしてやろう。
「ケアード公爵から紹介してもらったのでしょう?」
「そ、そんな、そんな事まで知っていたのか!」
ケアード公爵はこの国の膿だ。無駄に高い爵位でなかなか尻尾を出さない悪党。
「私は忠告しようとしましたよ?けれど黙れといったのは貴方です」
さすがの慎重さで私が結婚していたときは真面目な事業だけにして彼との繋がりを固めていたのだろう。私が出た途端に徐々に傾くアークライト家に甘い毒を垂らしたのだろう。
「まさか奴隷にまで手を出すとは思いませんでしたが」
ガチャ
応接室の扉が開けられ中に入ってきたのはアリィに連れられたアークライト侯爵家元執事長マーカス。
ここに向かう途中、アリィに良いタイミングでマーカスを連れてくるように指示していた。「ファウスティナ様、ご指示通りマーカスを連れてきました」
「ご苦労様、マーカスこちらまで来なさい」
「はい、ファウスティナ様」
マーカスは私の指示に従い、私側のソファ後ろに立つ。
彼もいくら何でも子供の頃から仕えていた執事の顔ぐらいは覚えていたのだろう
だが彼はすでに我が家の執事として働いており、執事服の胸元にはコウロット家の紋章の金獅子があしらってある。
「この裏切り者・・・」
恨めしそうにいう彼にマーカスは、言いたいこともあるだろうに表情は一切崩さずにいる。
それが執事としての矜持なのだろう。けれど分からせるにはそれじゃだめなの。
「マーカス発言を許可します」
私の言葉にマーカスはありがとうございますと胸に手をあて一礼した。
「アークライト侯爵様、お久しぶりでございます」
「何が久しぶりだ!長年仕えた我が侯爵家を裏切り、コウロット伯爵家の犬に成り下がりやがって!情報を流したのもお前だろう!」
追い詰められた人間というのは立場の弱い者をみつけるとよく吠えること。
彼はマーカスに怒号を飛ばすがその部屋にいる全員が冷ややかな目を向ける。
「私はアークライト侯爵家に心より忠誠を誓っておりました」
「では何故裏切った!」
「先に侯爵家を裏切ったのはアークライト侯爵様でございます」
「はぁ!?」
「国を守る貴族様が己の欲望に溺れ、領民を苦しめ、侯爵家を破滅へと導いたのは貴方様です」
「俺は没落寸前だった侯爵家を建て直したであろうが!」
現実から目をそらす彼の最後の誇りなのだろう。
「そうですね、ですがそれもコウロット伯爵家の・・・いえ、ファウスティナ様のおかげでございます」
そう、アークライト侯爵家は婚約の段階ですでにかなり危うかった。
先代当主は、優秀とは言えないが人柄良く、人望がある方で事業も問題なく回っていた。だが先代夫婦の突然の訃報から全てが崩れた。
学園で遊びほうけていた一人息子マーヴィンが相続したが、領地のことなど何も分からず詐欺師に借金があると言われ騙され、勝手に作成された借用書に証印まで押してしまった。
金額は大きかったがそれ以上に知識もなく先代の事業に手を出し借金を重ね、潰していた。
結婚後に詐欺師からそれは取り戻したがそれをマーヴィンに伝えてもどうせ散財やくだらない事業にでも費やすだろう。だから私は使用人達をつかって領地の『運営』にまわした。
彼は領民から税を搾取するだけで領地を運営はしていなかった。
まとめられた帳簿の数字を確認するだけ。
まぁ、そのおかげでここまで気付かれなかったのだろう。
私に回された予算を投資し、増やして領地にまわした。
農機具の貸し出しや国外で開発された新たな栽培法を導入したり徐々に豊かになった。
事業に関しても専門家を雇い執事長経由で彼の部下に配属し、彼の不備だらけの事業計画も気付かれないように手直ししてもらっていた。私も手直しには協力し、なおかつコウロット家のつてで他家との繋がりも作れるように手回しした。もちろん彼には気付かれないように。コウロット伯爵家とつきあいある方達なら私の思惑はそれとなく分かっていたのだろう。
その上で彼と友好的な関係を築いたフリをしてくれた。
彼がモネット様と遊んでいる間に私が侯爵家の全てを取り仕切った。その頃には使用人は全員が誰が本当の主かを分かっていた。
だからこそ私に離婚を言い渡したマーヴィンに失望したのだ。
侯爵家から出る私にマーカスが引き留めようとしたが何も言えなかったのは私がアークライトを見限ったのが分かったからだろう。
その後の動きはマーカスに任せていた。
私がいなくなったことでさらにモネット様と遊び呆けて領地などさらに目を向けなくなったマーヴィン。
ケアード公爵が度々侯爵家を訪れるころにはさらに散財が増え、使用人もやめていった。
替わりに入ってきたのは公爵の息のかかったもの達。
全ての使用人をコウロット伯爵家へ見送り、最後にマーカスがアークライト侯爵家を辞めた。そしてアークライト侯爵家は破滅へと急加速していく。
「これがファウスティナ様が侯爵家へしていただいた全てです」
マーカスから全てをきいたマーヴィンは何もいえず固まってしまった。
さて、そろそろ外が騒がしくなってきた。
「マーヴィン」
初めて私から呼び捨てにされた事に彼は驚いてこちらに目を向けた。
「当主としての責を負いなさい」
バンッ
部屋に突如入ってきた数人の騎士にマーヴィンは拘束され地べたに押さえつけられた。
「マーヴィン・アークライト侯爵!貴殿の多くの罪は明らかにされた!ケアード公爵もすでに捕らえた!おとなしく我らに従え!」
最初は抵抗しようとしたマーヴィンも騎士の言葉に抵抗をやめた。
彼らは国王陛下直属騎士団。重罪を犯した貴族に行使される我が国の精鋭。
拘束されたマーヴィンは彼らに連れられていった。
最後に彼は「全て分かっていたのになぜ俺に嫁いだんだ」と呟くように言い残していった。
「コウロット伯爵家の皆様ご協力感謝いたします!」
そういって騎士達は我が家をあとにした。
「なぜ嫁いだのかですか・・・」
その夜、寝室で一人呟いた。
そしてフフッと笑った。
決まっているでしょう。私はコウロットの黄金の獅子なのですから。
多くの人がコウロット家は商売が上手く、高位貴族との繋がりの多い運の良い家と思われているがその実は国王陛下直属の『裁定者』。
怪しい家に嫁ぎ、まだ救いがあれば内部より黒い部分を排除する。
排除後は嫁いだ花嫁の手腕とコウロット家の繋がりをもって繁栄させる。
それが黄金の獅子の幸運とよばれるものの正体だ。
もちろん救いなく国の為にならないとされればアークライト侯爵家のように徹底的につぶす。ケアード公爵も同時に潰せたのはよかった。
両家は取り潰され、領地は国の管轄地になる。
モネット・ナルディーニは直接はマーヴィンの罪に関わってなかったため特に罪に問われないだろうが彼女は彼の子供を宿してしまっている。
国内外に響く大罪人の子供。もうかなり大きくなっているらしいが母子の行く末は明るくはない。
「救いの道はあったのですよ」
捨てたのは貴方です。
私はその後一族のなかから養子をとり後継者に据え、隠居後に一族の男性と結婚した。
コウロット一族には金髪金目の子供がときおり生まれるがその全てが飛び抜けて優秀だ。
しかしそのため幼い頃は周りに馴染めない。
私も何故周りが誰でもできる簡単な事が出来ないのだろうと思っていた。
そのため金髪金目の子供達は当主の養子となる。
その中で一番優秀なものが後継者となるのだ。
それが今代は私だった。
当主は隠居まで結婚しない。次の世代を育てるため、国の安寧に己の人生を捧げる。
父も隠居後に母と結婚した。
他家に嫁いだ一族の娘の子供で、金目ではないが優秀な人で父の秘書を務めていた方だ。
お互いに気持ちがあったのだろう、父の隠居後すぐに結婚し幸せに過ごしていた。
私の旦那様も私が隠居するまで待っていてくれた私の愛おしい人。
これからもコウロット伯爵家はこの国を守っていく・・・・。
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