初仕事
「ポートコントロール、こちらは輸送艦ネフシュタン、出航許可を求む」
「こちらポートコントロール。ネフシュタン了解。300秒待て」
「了解。ではその間に周辺宙域の情報求む」
「磁気嵐、及び海賊の船影は見当たらない。入港に手間取っている客船あり。それが収まれば大丈夫だ」
「珍しいな。腕が確かなヤツしか客船乗りになれないだろ?」
「スラスターのトラブルだ。デブリを拾ったらしい。おっ、収まったぞ。ネフシュタン出航を許可する。良い旅を」
「ネフシュタン了解。ハッチオープン。船体ロック解除。微速前進」
スバルの乘るネフシュタンは、同じ軌道上の隣のコロニーで鉱石を積み、小惑星帯にあるプラントへ向かう。
管制宙域外まで到達したら、一気に加速だ。
「ナターシャ、周辺宙域の警戒頼むな。全方向レーダー出力30%で」
「了解」
「今回は習熟訓練も兼ねてるからな。とりあえず広めの安全宙域あったら戦闘機動で飛んでみる。亜空間航行は次回かな」
「そうですね。使うまでも無い距離ですから」
「おっ、だいぶ落ち着いた口調になってきたな」
「おかげ様で」
戦闘機動とは、簡単に言えば高速でアクロバティックな飛行だ。シミュレータとの齟齬や実際に体感するGは、やってみなければ解らないのだ。
「火器はどうなさるので?」
「それなぁ………一回はやっときたいけど、ヘタに巡回警備隊や軍に見られたら、いろいろめんどくさいな」
「そうですね」
「通常航路から出て、デブリを仮想ターゲットにして撃ってみるか………」
「ログに残りますよ?」
「だよなぁ………無理かぁ、勘繰られても困るなぁ」
「海賊が襲ってくれれば、合法的に攻撃出来ますけどね」
「やな事言うなよ」
人、これを旗と言う。
回収するか折るか、それは神のみぞ知る………といったところだが、船乗りという者達は、ジンクスとか非科学的な事柄を意外と重視している。
「管制宙域を出ました。航路設定。生産プラント群小惑星帯、工業プラント。高速航行に入ります」
「メインエンジン出力60%、船速安定、自動航行に移行」
「了解。到着予定、16時間後です。2時間後に訓練に最適な空間がありますよ」
「良いな。やるか」
訓練開始から30分、スバルは飽きている。
ネフシュタンの操作自体は良好、思い通りに動かせている。急速な反転やスライドに懸かるGも気にならない。
しかし何も無い空間を無意味に飛び回るのは、なんとも味気ないのだ。
早々に通常ルートに復帰して、再び自動航行に切り替えると
「訓練終了、飽きた。メシ食って寝る」
と、ブリッジを離れた。
「ビーーーー!!!!」
「んだよ!うるせぇなぁ!」
艦内アラートに起こされるスバル。着替えもそこそこにブリッジへ急ぐ。
「状況は?」
「小型輸送船からの救援信号を捕捉、正体不明の船に襲撃を受けていると」
「警備隊は?」
「到着まで40分程」
「微妙だな、場所は?」
「それが、今向かっている工業プラント周辺で………」
「どっちみちぶつかるわけか」
「いかがなさいます?」
「そいつ等スルーしてこっそりプラントに着けれるか?」
「無理ですね。状況的にも」
「とりあえず確認だな。光学レーダーで捉えられる範囲に接近」
「既に。映像廻します」
そこに映し出されたのは、民間のクルーザーやツギハギの輸送船に、無理矢理武装した船5隻に囲まれた小型輸送船だった。
「護衛艦は………無さそうだな」
「1隻コチラに来ます。戦闘用レーダー照射されました」
「向こうはヤル気か………シールド展開、電子戦開始」
電子戦とは、コンピューターの戦い。船の各制御をコンピューターが行っているので、相手の制御を乗っ取れば、操船から生命維持の循環システムまで、他者の思うがままになるのだ。
多少狂わせるだけでも、兵器の照準がずれ、攻撃が当たらなくなる。
「撃ってきたな。応戦信号を出せ。襲われたのでコチラは仕方なく攻撃する。正当防衛だな」
「仕方なさそうな顔じゃないですね」
全星系に共通する「宇宙航海法」なる物がある。それによると、例え海賊相手であっても、民間船が無闇に攻撃していいわけではない。
自衛の為の攻撃のみ許されているのだ。
「武装展開。レーザー系だけでいいぞ。アイハブコントロール」
「了解。レーザー系火器展開。自動制御解除。ユーハブ」
「ゲームスタートだ」
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