出航準備
予定外ですが、2話投稿します。
「あら、中々に様になってますね」
スバルは今、おろしたての艦長服を着て組合に来ている。カウンターに居たケイトの第一声がソレだった。ケイトのニヤけ顔に少しムッとしたが「今日は仕事モードだ」と自分に言い聞かせ平静を装う。
「荷積みに立ち会いが付くんだろ。もういつでも積めるが、都合はどうだ?そのへんの打ち合わせに来た」
「荷主様に話はついております。担当を呼びますので、少々お待ちください」
ケイトが奥に引っ込んだので、スバルは待合席に腰掛ける。
「………あれが使い分けなるものですか」
「ん?あぁ。仕事用の話し方だな」
「学習します」
ナターシャは会話マニュアルをインストールしたばかりなので、スバルの判断でまだ他人との会話を許可されていない。
普段は聞き取りに徹し、こういった合間の会話で確認と修正を繰り返すことにしたのだ。
「お待たせしました。担当のキツカです。よろしくお願いします。
本日はまず、ネフシュタンの倉庫ユニットの衛生状況の確認とクルーの健康状態のチェック、それに合格しましたら積み込み作業に入り、ユニットの密閉と温度管理の確認をします。
その全てをパスしなければ、出航許可は出ません。宜しいですね」
(おいおい、お役所的マニュアル通り、一字一句間違いなく通達からの
若干上からの圧みたいなヤツなんなん)
キツカと名乗った職員は、皺一つ無いビジネススーツに良く磨かれた靴と、毛一本動かない塗り固めたような髪。
背筋は伸び、眼光鋭くスバルを見る。
しかしスバルは、彼の圧がコチラを値踏みする類のものではない、どこかしら余裕の無さから来ているように思えた。
「どうぞ。あぁ、ウチの積み込みクルーは作業用ボットで、指示も私がブリッジから出しますが………ボットも健康診断しますか?」
「っ、不要です!」
「フフッ」
後ろでクスクス笑うケイト。
(あらあら、軽いジョークも通じないか………顔真っ赤でプリプリしてる)
「では早速行きますか、案内します」
船へ移動する一行。その間会話一つ無く、靴音だけが響く。取っ付きにくさも極まって、近くのハズのドッキングポートまでが、やけに長く感じた。
「ここですよ。これが私の船、輸送艦ネフシュタンです」
キツカは一瞬動きが止まった。各造船メーカーの旧型から最新艦まで、彼の頭には全て入っている自負がある。
だが今目の前にある船は、そのどれとも一致しないのだ。どこの誰が設計したのか、キツカはスバルに問い詰めたい思いを懸命に抑えている。
ようやく落ち着いたところで、それぞれの項目を一つ一つチェックする。
「………い、いいでしょう、積み込みを開始してください」
「了解。ボット起動、アームロック解除」
隙間無く積まれる穀物コンテナ。その速さが異常だった。
同量の作業を頼む船で行えば、扱いに慣れたベテランでも1時間では終わらない。それを僅か20分も掛からず終え、気密ロックまで済んでいる。
「積荷の状態データ送信中。フルタイム管理だからいつでも見れるぞ」
「………あ、はい」
キツカの思考が追いつかないまま、全てのチェックは終了した。思考の波に呑まれながらも、仕事を全うした自分を誰かに褒めて欲しいと思う。
ただどうしても聞かずにはいられないキツカは、最後に一つ質問する。
「あ、あの………もしやこれは、星系外の船なんでしょうか?」
「ん?いや。辺境の民間工場で造った、オリジナルのワンオフだ」
「………そうですか」
ここまでのハイスペック艦が辺境の、しかも民間の工場で造られたなんて、キツカは信じられなかった。
斬新な設計と卓越した技術、辺境の一工場に居ていい存在ではない。おそらくマイスターレベルの仕事だ。だが全てのマイスターは、中央のコロニーか軍に居るはず。
いっそ星系外だと肯定してくれた方がまだマシだ。造船関係は自分の仕事では無いし、自分が何を言ったところで漣程の影響も無いだろう。しかしもったいない………
そこまで考えて、半ば諦めのように思考を放棄した。まさかそのマイスターが目の前に居るとも知らず………
「これでようやく出航出来るな」
「そうですね。航行計画は既に組合から提出されています。私はこれで失礼します。良い旅を」
そう言ってキツカはドックから出て行った。酷く疲れた顔をしていたのは、気のせいだろう。
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