オーダーメイド(自作)
今から1800年程前、太陽系と呼ばれた宙域のハビタブルゾーンに、地球という星があったという。
「環境問題に取り組み、次世代に住み良い地球を残そう!!」
と、声高に唱えた団体があったが、本気で憂いている者は居らず「環境に配慮した商品を使っている私エライ!!」的な自己満足を煽るだけの事で、結局はビジネスであり、団体の活動によって回復、又は現状維持出来たモノは無く、砂漠化と異常気象により住める大地は減り、やがては土地の奪い合いとなった。
度重なる戦乱と、修復不可能な環境汚染、絶滅の危機に瀕した人々は生存可能な星を求めて、宇宙へと旅立った。
所謂「大開拓時代」と呼ばれるものである。
新たな星系の発見、他の知的生命体との邂逅、惑星外居住区の建造………
長い歴史の中で、時には戦争もあり、飛躍的な技術発展と共に数多の星々に人は住むようになった。
今や星間を行き来する事も容易く、豪華客船や貨物船、軍艦や海賊船まで宇宙を飛び回る時代である。
辺境と言われる星系の惑星 「アムス」
その衛星軌道上にある「コロニー」には、星系軍補給基地があり、軍艦用ドックには、補修や補給を待つ船が停泊している。
作業用ボットに指示を出し、AIによる自動化で他にすることがない男が、ボーっと船を眺めている。
「………ないわー」
「どうした?スバル」
「アレはないわー。ナンセンスの極みやわ」
スバル=マグナ。星系軍下請けの民間のA級整備士でありc級宇宙船舶免許取得者。22歳独身。
「宙域の戦闘兵器を人型にする意味よ………無駄技術にも程がある。アレ一機造る予算で、コルベット級戦闘艦3つ出来るんやて。オマエみたいな支援アンドロイドならわかる。人々の生活に寄り添うAIなら、人型にする意味があるさ。フリゲート艦並みの火力しか無いのに、あんなデカい人形作って乗るヤツの気が知れんわ」
スバルは隣に立っているメイドロイドに持論をぶつける。
「それは、私がメイドの格好をしているのと同じくらい無駄だな」
「バッカ言うな!!オマエがメイド姿なのは、機能性と周囲に与える視覚的有用性、使用者への心的満足度、言葉遣いはちょっとアレだが、人間の生活を支援するのに、この仕様は最善なんだよナターシャ」
「………もっともらしい理由を並べているが、それを一言で表せば[スバルの趣味]だな。特に胸部装甲のサイズ感」
「そこは譲れない部分だな。薄いと魅力に欠けるし、デカいとアホっぽく見えるだろ。行動を阻害する程の爆乳とか有り得んし」
「偏見極まれリ………だな。人間の前では言うなよ。差別発言だぞ」
「人間の女性に対しては、大小の貴賤はないぞ。俺が言ってるのは、アンドロイドの機能性の話だ」
汎用支援アンドロイド「ナターシャ」スバルのもう一つの取得資格、特s級設計技術士の技能による、オリジナルワンオフ機体である。
家事全般から戦闘技能、医療技術から各種作業機械のオペレーションまで、ハイエンドのマルチタスクAIと、位相循環エネルギー炉による半永久的な活動を可能にするメイドロイド。
リミット状態で一般的な人間の2.7倍の力があり、戦闘服の中には、簡易医療キットからコンバットナイフまで、生活必需品を仕込んでいる。
「そんなことより、アレは出来たのか?」
「あぁ。後はスラスターの調整と宙域情報のアップデートだけだな」
「………こんなヤベーとえげつねぇをてんこ盛りにしたコーバッグ級………いや、テレダイン級高速戦闘駆逐艦、星系軍にもないぞ」
「可愛いもんだろ、俺の輸送艦は」
「武装隠蔽して、飽くまでも輸送艦だと言い張るか?」
「実際に星系港湾局には、そう登録されてるぞ。審査も通ってるし、海賊に襲われた時用に、最低限の防衛手段は無いと困るだろ」
「あれがスバルの最低限か………」
「ちょっと足りないくらいだぞ。まぁ、その分は機動力でカバーだな」
「高機動のテレダイン級なんて聞いたことないぞ。しかも自称民間の輸送艦なんて」
「ここで軍の人型の玩具の整備なんて、真っ平御免だよ。輸送艦で商売したほうが万倍マシだ」
それから二週間後、辺境のコロニーから一隻の宇宙船が出航した。
その船の名は「ネフシュタン」復活と再生を司る青銅の蛇の名を冠したその船とクルーは後に
「不沈の英雄」として歴史に名を残す。
これはその「始まりの物語」である。
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