小惑星帯と船乗りの矜持
今回スバル達が向かっている管理ステーションは、小惑星帯の入口と呼ばれるところにあり、各所に設置してある「観測ポット」からの情報を常に集めている。
常駐の観測員や警備隊、一時寄港する軍の巡回など、様々な人が居る。
それらを相手に商売をする者達も当然居るわけだ。
一口に小惑星帯と言っても、この星系だけで大小合わせて300はあるだろう。
その中でも有用な資源がある所、星間航路付近、生産プラント群等の要所に管理ステーションがある。
その一番の理由は、海賊の温床にしないためである。
「採掘の管理ステーションか………」
「何か問題でも?」
「男臭いだろうなと」
「あぁ………」
採掘プラントに常駐する船は、殆どが民間の「採掘屋」と呼ばれる人種だ。
彼等は昔の名残りか、ゴリマッチョ系が多い。採掘用ボットより、オマエが掘った方が早いんじゃないか?と言いたくなるほど。
そしてだいたい皆似たようなサイクルの生活をしている。
働く、稼ぐ、宴会、娼館
のローテーションだ。
「ユズハ、お前向こう着いても船から降りない方がいいかもな」
「えぇ?」
「間違いなくムサいおっさん達に襲われるぞ」
「スバ………キャプテンはどうするんですか?」
「スバルでいいぞ。俺はナターシャ連れて商談だ」
「ナターシャさんも?」
「当然だ。ナターシャがいないと、俺が危ない」
「は?」
「俺は暴力が苦手だ。ナターシャは護衛だな」
「はぁ」
「口喧嘩なら無敵だけどな」
スバルが自慢にもならない自慢をしている時、
「スバル、10時方向、船籍不明の船をレーダーが捕捉。距離4000,船影3,コルベット級」
「様子見だ。一応シールド展開」
「了解」
「ユズハ、今回は見てろ。こういった時の対処の仕方を」
「はいっ」
「距離3200、なおも接近中。通信繋ぎますか?」
「あぁ………こちら輸送艦ネフシュタン。接近中の船、所属と名前を教えてくれ」
「返答なし。距離2800」
「そちらのトランスポンダが確認できない。これ以上の接近は許容できない。停船を要求する」
「返答なし。トランスポンダなし。距離2500、戦闘用レーダー照射されました。電子戦開始します」
「あぁ、またか………対象をバンデッドと判断する」
「敵船散開、囲まれます。ビーム砲、撃たれましたが当たりません」
「応戦信号発信。武装展開ミサイルポッド。敵船ロックオン。ホーミング12連、撃て!」
ネフシュタンに搭載されている誘導弾は2種。今回使ったのはロックオンマーカーを自動追尾するタイプだ。
熱誘導ではないので、被弾を防ぐには撃ち落とすしかない。
「全弾命中。3隻共沈黙」
「2発くらいは撃ち落とすと思ったけどな、12発もいらなかったか?」
「いえ、敵船のシールドが2発は耐えましたから、丁度良いかと」
「よし、マーカー付けて警備隊に報告。後は任せればいいだろ」
「了解」
ユズハは呆然としている。スバルの素性はわからない。組合に登録したてで船も新しい。なのに「戦い慣れている」のだ。
「あ、あの………」
「どうした、ユズハ」
「さっきの船は、放っておくんですか?」
「あぁ。救難信号が出てるわけじゃないし、こちらから近付くことはしない。
傭兵や賞金稼ぎなら、乗り込んで捕縛したり積荷を漁ったりするが、ウチは輸送中だ。警備隊に任せればいい」
「そうですか」
「どうした、人道的に助けるか?海賊だぞ。本来なら撃沈されても文句は言えないところを戦闘不能に抑えているんだ。これ以上の慈悲はない」
「………」
「いいかユズハ、武器ってのは[人殺しの道具]だ。船乗りには、いや武器を持つ者には必要不可欠な覚悟がある。
撃つ方も、撃たれる側も。決して遊び半分で振るっていい力じゃないんだ。
撃つなら覚悟しろ、躊躇うな。判断を間違えば、その力は自分に返って来る。その覚悟こそ、この宇宙空間を仕事場に選んだ船乗りの矜持だ」
「はい」
スバルの言葉は、何も寄りかかるものの無い宇宙で生き残る為の、おそらくは船乗りには共通の覚悟である。
それは父にもあったのだろう、とユズハは思った。
「すぐじゃなくていい。心に折り合いをつけろ。なぁに、お前さんに撃たせるこたぁねぇよ。心配すんな」
「はい」
「スバル、後30分ほどで小惑星帯です」
「了解。んじゃ、お仕事しますかね」
そう簡単に気持ちを切り替えるのは難しいだろう。だがユズハの目は、先ほどまでの憂いが消えたように見えた。
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