勘のいいガキは………
「………困りましたねぇ」
「その応えで十分です。私も深く関わる気も無いので」
「それが賢明です。ただ、知っておいた方がいい事もあるかと」
「それは?」
「彼女は、大きな括りで言えば[海賊]ですが、売買しているのは情報。国家機密などに手を出せば、有無を言わせず犯罪者ですが、民間や裏社会のグレーゾーンに関しては、コチラにも理のある相手になる」
「なるほど」
「貴方の船の情報など、良い値が付くのでは?」
「1ダルクにもなりませんよ。私以外動かせないですから」
「模倣や量産も?」
「無理ですね」
「大した自信ですね」
「事実ですから………そんなことよりも、その情報を私に与えて、何を?彼女に近づくな………ということなのですか?」
「まったく………やりづらい人ですね」
やれやれと首を振るスガヌマ。しばらく考えて、
「いえ、寧ろ貴方が預かってくれませんか」
「俺は軍に関わる気はないぞ」
「軍?」
「諜報部だろ。アンタ」
これにはさすがに表情を変えるスガヌマ。
「貴方、勘が良すぎますよ………ハァ、これは飽くまでも私の個人的なお願いということです。上にはスバル殿のことは言いませんし、貴方に面倒事があればチカラになりますよ?」
「代わりに情報を寄越せと?」
「全てを包み隠さず………というわけではありません。その辺の匙加減もお任せします」
「………ウチに来る来ないは彼女次第だ。無理に誘うつもりはない」
「多分来ますよ。あ、勘違いないように、私は強制も司法取引もしていませんから」
「チッ………彼女に追手は掛かると思うか?」
「ないでしょう。今のところは」
「根拠は?」
「コチラにとっては貴重な情報源。アチラの思惑は貴方の船でしょう。
突然現れたワンオフ艦、情報を欲しがる者は少なくない。今回は威力偵察でしょうね。ついでに彼女を潜りこませる」
「そうかよ」
「次は貴方の籠絡か、船の強奪………辺りでしょうか」
「………まぁいい。アンタとの連絡手段は?」
「おや、引き受けてくださるので?」
「既に巻き込まれてるからな」
「重畳。後日端末へ連絡しますので、そちらへ」
応接室を出ると、ユズハが待っていた。
「話は終わったか?」
「はい………」
「じゃあな。達者で暮らせよ」
「待って、ください」
「んぁ?」
「わ、私を乗せてください!」
「(マッチポンプか………)何ができる?」
「宇宙船舶免許D級、あと、オペレーター技能と通信士」
「操舵は俺がやる。とりあえず通信士だな」
「は、はいっ!」
「んじゃカウンターでクルー登録だな。通信設備については追々な」
様々な思惑が交差する中、ネフシュタンに新たなクルーが加わった。
(まいったなぁ………ナターシャにどう説明すっかな………情報部の監視も付くだろうな………面倒くせぇ)
「あら、新人の船乗りが、もう女を拾って連れ込んだって聞いたけど、その娘?」
「人聞きの悪いこと言うなよケイト。新しいクルーだ」
「ゆ、ユズハです。よろしくお願いします」
「ケイトよ。よろしく」
「今日はずいぶんラフだな」
「お昼でアガリだもの。今はプライベートよ」
「じゃあ暇だよな?ちょっと付き合ってくれ」
「勝手に暇人扱いしないで。まぁ予定はないけど、デートのお誘いなら、もう少しスマートに出来ないかしら」
「俺はナンパ男じゃねぇぞ。ユズハの買い物手伝ってくれないか?ウチの船に乘ることになって、部屋はあるけど中身はベッドとテーブルだけだ。
日用品を揃えてやりたいが、俺は女の買い物はわからん」
「スバル君、人にモノを頼む態度じゃないと思うんだけど」
「ケイトも好きなもの買っていいからさぁ、頼むよ。他に知り合いいないんだよ」
「そういう時は『ケイトしか頼れる女はいない』って言うのよ。はぁー、まぁいいわ、貸一つね」
「わかった。恩に着る」
「ユズハさんだっけ、貴方も苦労するわね」
「へっ?」
「彼、船に関しては優秀だけど、女心はまったくわかってないわ。相当鈍いわよ」
「え、いや、私はそんな………」
「同じ船に乘るんだもの、そういう関係じゃないの?少なくとも、周りにはそう見られてるわよ」
「ち、違います」
「ふーん………まぁ私はどっちでもいいけどね。行きましょうか」
「はい、お願いします」
こうして、スバルは「野暮天」のレッテルを貼られ、ユズハはケイトと商業区に向かう。納得いかずにトボトボ帰るスバルだが、このあと張り切って部屋を改装するナターシャに捕まり、ヘトヘトになるまでこき使われるのである。
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