プロローグ〜星系軍開発局
新連載です!
本日3話投稿します。
「………よって我が軍に配備すべきは、汎用人型兵器であると確信致します!!」
熱弁を振るう第二研究室長、ローマン=ドリームは、万雷の拍手に応えて手を振る。
彼が言うには、適宜装備を換装する事で、前線の戦闘から後方支援、小惑星帯での採掘作業まで、この一機で可能であり、制作費は嵩むが、費用対効果は抜群である、らしい。
軍上層部はコレを承認。生産ラインの確保と、さらなる機能向上に向けての研究費を上乗せした。
「くだらない………やってられるかよ」
会議場で唯一人、この承認を冷えた目で見ていた男は、その日のうちに退職届を出し、民間の客船で星系を離れた。
(本体だけでアホほど金掛かるのに、状況に応じて別装備の換装だと?意味がわからん。
百歩譲って採掘専用ボットなら………いや、それも無いな。もっと小型の無人機で十分だろ。平和ボケにも程がある)
一人の優秀な元研究者は、そこで思考を止め、座席のリクライニングを倒し眠りについた。
これから二年後、最初の試作機がお披露目され、汎用人型兵器の生産ラインが稼働する。新たな時代の幕開けと、星系全体のトップニュースになった。
「へぇ、人型ねぇ………使えんのかね」
「どうなんすかね?姐御は欲しいっすか?」
「今んとこ半々さね。使い道がありゃあいただこうかね」
とある小惑星帯にある、少し寂れた宇宙船用ドックには、登録を抹消された民間船や退役した払い下げの軍艦が並んでいる。
元はエネルギープラントだったが、採掘量の減少で廃棄された小惑星、そこを占拠し根城にした海賊団の巣窟である。
首魁の名はエネミー=クリスティア。配下からは姐御と呼ばれ、全宙域指名手配の特級賞金首、通称「海賊女帝」である。
「まぁ、焦るこたぁないよ。この宙域にあるモノは全て、アタシの物だからね」
「さっすが姐御!!そこに痺れる憧れるぅ」
「バカ言ってんじゃないよ!!そろそろ客が来る頃さね。鉱石は準備出来てんだろうね」
「それは抜かり無く」
「アタシ等真っ当な海賊さね。良い商談をしようじゃないか」
エネミーの狡猾さは、真にそこにあった。他の海賊や裏のマーケットを仕切る者たちが、欲するモノを提供する。
エネル鉱石や各種薬物、時には人も商品になる。
特にお尋ね者の海賊は、補給をしようにもまともな港に立ち寄れる訳もない。
推進剤のエネル鉱石も、この廃棄プラントならば、まだまだ採掘出来る。
ならばエネミーを頼りにするのは必然という訳だ。
売り捌くにはヤバいものでも、ここに来れば金になる。時には食えなくなった海賊を船ごと引き取って傘下に加えたり、敵対すればタコ殴りで船だけ奪う。
そうして膨れ上がったのが「海賊女帝の大船団」であった。
「エネミー、いつもすまねぇな」
「お互い様さね。どうだい、稼いでるかい?」
「まぁまぁだな。それよりお前さんに良い情報があるんだ。買わねぇか?」
「ほぅ、アンタがわざわざ売り付けようってんだ、ガセじゃないだろうね」
「あぁ、値付けは任せるが、聞くかい?」
「良いだろ。聞かせなよ」
「例の軍が作った人型な、この小惑星帯に試験採掘に来るらしいぞ。数は12。半分が採掘装備、残り半分が護衛の戦闘装備、後は輸送艦だ」
「そいつは穏やかじゃないね。何時だい」
「一週間後」
「そうかい………なぁアンタ、手伝う気はあるかい?」
「拠点を移すのか?鉱石掻き集めて俺の船に満載しても………」
「いや、いただくのさね、その人型を」
「………っだっはっはっは!!そいつは大仕事だな!よしノッた」
星系軍開発局発表の情報によると、第一次試験採掘は成功を収め、汎用人型兵器の有用性が確認されたとのこと。
新たな鉱脈の発見には至らなかったが、優れた成果を上げた………らしい。
星系軍は汎用人型兵器の早期配備を決定し、今後各艦隊に配属、帯同することとなった。
しかし、第一次試験採掘の前に、第零次試験採掘に向かった12体の人型と、随伴の輸送艦が消息を絶った事は、公式の発表には一切無く、開発局のごく一部の者しか知らない事実であるが、彼らがそれを口にすることは永遠に無いだろう。
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