表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/41

#4 侯爵令嬢アリシア・フレアベリーの秘密 2

 

「シャルトリューズ公爵家の当主、ジェラール・シャルトリューズ公爵だ。

 おまえも聞いたことがあるだろう?」


 その名を聞いた瞬間、わたくしの胸は高鳴り、思わず息をのみました。


「まあ……!」


 思い返せばつい先週の、伯爵家での親しいお友達とのお茶会で、皆様が熱心に語り合っていたあの噂話を思い出してしまいましたわ。


 ジェラール・シャルトリューズ公爵様といえば、なんといっても「氷雷の騎士」と称されるほど名高いお方。

 数年前、シャルトリューズ公爵家は口にするのも恐ろしい不幸な事件に見舞われ、存続さえ危ぶまれる状況に陥ったそうなのです。

 そこで、当時まだ学生であったジェラール様が急遽公爵に叙爵されるという異例の処置が取られたとのこと。

 本来ならば世継ぎとしての準備を整えてからの継承されるはずの爵位を、若くして背負われたのですもの。

 その胸中には、きっと計り知れないものがあったことでしょう。

 そのためなのでしょうか、卒業後はすでに公爵でありながら、あえて剣の道を選び、騎士団に入団されたジェラール様。

 以来、数えきれないほどの武勲を挙げ、陛下からのご寵愛も厚く、今では若くして第一騎士団長という名誉ある地位に就いていらっしゃるのです。


 それだけではありませんわ。

 そのように高貴で勇敢なお方でありながら、容姿もまた格別に麗しいと伺っておりますの。

 噂では、そのお姿を一目見ただけで胸が高鳴り、感極まって気を失われる女性が続出するほどなのだとか。


 さらに驚くべきことに、浮ついた噂ひとつなく、非常に品行方正でいらっしゃるとか。

 ですから、王都の令嬢方の間で理想の結婚相手として、常にランキング上位を争う存在になっているそうですわ。


 ……あら、もちろん、わたくしがこのような噂話にいつも興じているわけではありませんのよ。

 淑女としてそのような振る舞いはふさわしくないこと、重々承知しておりますもの。

 ただ、ほんのたまたま、耳に挟んでしまった、というだけのことなのですわ。


 それにしても、あの公爵様が、わたくしに縁談を持ちかけるだなんて……。


「素晴らしい方と聞いておりますが………でも、どうして……?」


 ええ、不思議なこともございますわね。

 近頃ではお見合いによる縁談は、少し時代遅れの風潮がございますわ。

 多くの方が学園で恋を育まれたり、夜会で理想のお相手を見つけたりしていらっしゃいます。

 ましてや公爵様のようなご立派な方ならば、周囲から自然と良縁が寄せられるはずではありませんの?


 それに――これが一番不思議なのですが――わたくし、公爵様とは今まで一度もお会いしたこともなければ、言葉を交わしたこともございませんのに。

 なにもかもお持ちの、あのように完璧なお方が、どうしてわたくしのような下位の者にご興味を……?

 望まれるならば、王女様ですらお迎えすることができるお方ですのに……。


 ――あっ、ああ、もしかして!?


 ええ、わかりましたわ、わたくし!

 公爵様が求めていらっしゃるのは、きっとわたくし自身ではなく、フレアベリー家の『力』

 ――つまり、この魔力そのものなのですわね?


 公爵様は騎士団を率いるお方。

 わたくしたちの王都を守るという、非常に大切なお役目を担っていらっしゃいますもの。

 過酷な戦いに身を置く中で、きっと騎士の皆様の防具や武具に魔力を注ぎ込み、守りを強化する必要があるのではなくて?

 そのために、フレアベリー家の魔力を活用できる者をお側に置きたいとお考えなのかもしれませんわね。


 ……ええ、そうに違いありませんわ!

 公爵様が選ばれたのは、『わたくし』という個人ではなく、『わたくしの魔力』なのですわね!


 つまりこれはわたくしの魔術師としての能力が目当ての、実務的なお見合いなのですわね。

 物語のようなロマンチックな恋というわけにはいかないことが、少し残念で仕方ありませんわ。

 でも、これが現実なのだと、わたくしはきっと受け入れなければならないのでしょうね。


「アリシア、きっと公爵は可愛いおまえを気に入るだろう。なにも心配しなくてよい。」


 父の力強い声が、わたくしを現実に引き戻しましたわ。


 ええ、もちろんですとも。

 公爵様はわたくしの、この魔力を必要とされていらっしゃるのでしょうから。

 そういうことでしたら、わたくし、きっとお望みに叶うことと思いますわ。


「それでだな。シャルトリューズ公爵とは、明後日にお会いすることになった。」


「まあ、急なお話ですこと!」


 わたくしは驚きの声を上げましたけれど、お父様の表情は相変わらず余裕たっぷりですわ。


「場所は王宮内の温室だ。どうやら王妃様のお耳に入ったらしく、ぜひにとお貸しくださるそうだ」


 王宮内の温室ですって?

 あれはただの温室ではございませんわ。

 貴重な薬草や魔法植物がずらりと並び、王宮で特に厳重に管理されている場所なのですもの。

 王妃様の許可がなければ、近づくことすら叶わないと聞いておりますわ。


 さすがはシャルトリューズ公爵様。

 きっと公爵様が特別なお力をお持ちだからこそ、こういったお計らいが可能なのですわね。


 それにしても、この選ばれた場所には、何か特別な意図が隠されているような気がしてなりませんわ。

 例えば、公爵様がわたくしの魔力を確かめたいと思っていらっしゃるのか、あるいはわたくしの植物や薬草に関する知識を試されるおつもりなのかしら?


 ああ、こうしている場合ではありませんわ!

 何をお求めになられてもお応えできるよう、しっかりと準備を整えなくてはなりませんもの。

 簡単なポーションの作り方から、少し難しい転移魔法まで、すべて復習しておく必要がございますわね。


「お父様、わたくし……精一杯頑張りますわ!」


 そう意気込むわたくしに、父は満足げに頷きながら、衣装の準備や当日の作法について指示を出してくださいました。


 フレアベリー侯爵家の娘として、わたくしが務めを果たす時が来たのですね。


 ええ、もちろんですわ、お父様。

 どのような試練であっても、わたくし、必ずや乗り越えてみせますわ!


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ