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#3 侯爵令嬢アリシア・フレアベリーの秘密 1 

アリシア視点です☆

 

 初夏の柔らかな陽射しが降り注ぐ昼下がり。

 わたくし、アリシア・フレアベリーは、その穏やかな日差しに誘われ、自邸の庭へ足を運びました。

 この庭には、歩くたびに姿を変える魔法の迷宮が広がっておりますのよ。

 実は、この迷宮はわたくしが自ら設計したものなのですわ!


 小道のあちこちには兄たちが施してくれた魔法が散りばめられていて、迷い込んだ方を容易には外へ逃がしません。

 秘密を守るには最適な場所ですのよ。


 今日もまた、わたくしの目の前に新たな道筋が織り成されていき、ほのかに甘い蔓薔薇の香りが風にのって漂ってきました。散歩中の猫がわたくしの足元をすり抜けていきましたが、それに気を取られることなく進んでいきます。小さなつむじ風がそっと舞い上がり、一片の花びらがひらひらと揺れながらわたくしの手のひらに吸い寄せられるように舞い降ります。

 わたくしはその花びらにそっと唇を寄せました。


 その瞬間、目の前には可愛らしい四阿(あずまや)が現れましたの。

 ええ、ここはわたくしの特別な隠れ家なのですわ。

 わたくしは満足して微笑みながら、小さな階段を上ります。

 そして中に入ると、真っ白でふかふかのソファにそっと腰を下ろしました。


 なんて完璧なのでしょう!


 テーブルの上には、わたくしの好みにぴったりの温かさを保った紅茶がポットに用意され、香ばしいノワゼットのビスキュイが銀のお盆に整然と並べられています。その光景はまるで、心地よい午後のお茶会を予感させるような優雅さそのものです。

 ビスキュイをひとつ手に取り、そっと口に運ぶと、その香りと甘みが心に穏やかな満足をもたらします。膝の上には猫の形をした愛らしいクッションをのせて、心地よさをさらに高めました。


 そして、わたくしの手元にあるのは、陛下の御従妹のセシル王女さまからこっそり頂いた恋愛小説。

 装丁からしてロマンチックなその本をそっと開けば、甘やかで夢のような物語の世界が広がります。

 外ではそよ風が庭の花々を揺らし、小鳥たちのさえずりが心地よいBGMを奏でていますわ。

 これ以上ないほど完璧な午後のひととき、わたくしは心ゆくまで楽しむつもりですわ。


 この小説、孤高の騎士バーナード卿と美しき王女プリシラ姫の波乱に満ちた恋物語でして、なんと挿絵まで素晴らしいのですのよ!

 なんと、バーナード卿の優美なお顔が、まるでわたくしに愛を囁いているかのように見えるのです!

 ああ、わたくしも早くプリシラ姫のように、身を焦がすような恋をしてみたいものですわね。

 ええ、きっとある日突然、恋の喜びが稲妻のようにわたくしを貫くものなのですね!

 そう本には書いてありますもの。

 はぁ……なんて待ち遠しいことかしら!


 と、思わずため息をついたその瞬間です。突然、風に乗って聞き慣れた低い声がわたくしの耳に届きました。


「やっと見つけたぞ、私の可愛いアリシア。」


 その声に驚いて振り返りますと、生垣の前、ほんの少し前まで何もなかった空間に、淡い魔法の光につつまれた父・フレアベリー侯爵の姿がすーっと現れました。

 堂々とした魔術師の正装に身を包んだお父様のお姿!

 幼い頃からわたくし、このご威厳あふれるお姿が大好きでしたのよ。


「お父様! お帰りなさいませ!」


 そう声をかけると、父は満足げにわたくしを見つめながらゆったりとうなずき、おっしゃいました。


「アリシア、お前に素晴らしい縁談を持ち帰ったぞ。これ以上ない良い縁だ。」 


 あら、それはなんとも意外なことでございますわね。


 これまでにも幾度か縁談のお話がございましたけれど、父や兄たちはそのたびに慎重すぎるほど慎重で、実際にわたくしにお勧めされたことは一度もございませんでしたの。

 それどころか、わたくしが他家の御令息とほんの少しでも親しくなりかけると、父も兄も揃って何かと理由をつけて間に割り込んでくるのですもの!

 ……いえ、もちろんそれは、わたくしのことをとても大切に思ってくださっているからに違いありませんわね。それはわかっていますのよ。


 けれども、今回のお話には何か特別な意味があるのでしょうか?


「どのようなお方でしょう?」


 わたくしが控えめに尋ねると、父はどこか得意げに唇をきゅっと引き上げ、満面の笑みを浮かべながらお答えになりました。


「シャルトリューズ公爵家の当主、ジェラール・シャルトリューズ公爵だ。聞いたことがあるだろう?」


 その名を聞いた瞬間、わたくしの胸は高鳴り、思わず息をのみました。


「まあ……!」


   

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