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#24 手の中の誓い

ジェラールの回想から…。

 

 家族を……守るということは、こんなにも難しいものなのか。

 俺に、その資格が本当にあるのだろうか。


 *******


 母は俺が幼い頃に亡くなった。

 だが、父は母を深く愛し、母の想い出を大切にしていた。

 残された人生を仕事に没頭していたのは、母を忘れられないためだったのかもしれない。


 当時は先々代タンザナイト王の世で、王太子不在の中、王位継承争いが激化していた。

 宰相であった父が、その渦中で多忙を極めていたことも、仕方のないことだったのだろう。


 だから、ある日、父がいきなり再婚を決めたときは驚いたものだ。

 しかもその相手は、市井で暮らしていたまだ17歳の少女だったのだから。


 だが、父にはその選択を迫られるだけの理由があった。


 結婚式の前夜、父は兄のエドワードと俺を呼び出し、重々しい口調で秘密を告げた。


「エレノアは陛下の子を宿している。

 彼女を守れ。」


 タンザナイト王は恋多き人だった。

 だが、同時に情の深い人でもあった。

 仮初めの寵を与えたエレノアと、その腹の子を守るために一計を案じたのだ。


 ――公爵家に生まれる子として記録されれば、王家の庶子と疑われるよりも安全だ。

 そう王は判断した。そして、我がシャルトリューズ家にその危険を押し付けたのだ。


 父がその申し出を受け入れた理由は、今となってはわからない。

 だが、おそらく父と王との間には、深い事情があったのだろう。


 *******


 エレノアは邸に入り、父の正妻となった。

 だが、公爵夫人として人前に出ることはほとんどなかった。


 当時、俺は学園で第4王子と寮生活を送っていた。

 殿下は優秀で、そして一風変わった人だった。

 彼に振り回されることも多かったが、兄エドワードからは「役に立つから」と諭されたものだ。


 あの頃の俺は、家のことなど気にも留めず、ただ目の前の課題と殿下の面倒を見る日々を送っていたのだ。


 だからエレノアのことは、正直言えばどうでもよかった。

 当主代行をしていた兄エドワードが苦労しているのを横目で見ているだけだった。



 やがて月が満ち、生まれた子は――しかし、息をすることはなかった。


 エレノアは、その現実を受け入れることができなかったのだろう。

 ある日、侍女が抱えていた赤子を自分の子だと思い込み、奪い取ろうとしたとき、彼女が壊れていたことを俺たちは知った。



 少し経って、タンザナイト王が、静かに崩御した。

 多くの後継者候補を生み出し、国を静かな争いに巻き込んだままに。


 その知らせが届いて間もなく、エレノアは突然邸から姿を消した。


 数日後――戻ってきた彼女は再び身籠っていた。

 彼女の顔には嬉々とした笑みが浮かび、どこか熱に浮かされたようだったという。

 そして兄に告げた言葉は耳を疑うものだった――。


「陛下の子を、また身籠りました。」


 その言葉は、兄を戦慄させたはずだ。

 すでに先王はこの世にいないというのに。



 エレノアは再び出産した。

 たった三月、温められたその胎内から、彼女の腹を裂いて出てきたものは、――子ではなく、魔獣だった。


 父と兄がその命を懸けてそれを倒したが、知らせを受け、学園から駆けつけた俺が見たのは、凄惨な戦いの跡だった。

 魔獣の残した名残――床に転がる、握りこぶしほどの魔石だけが、そこにあった。



 兄は、血に染まった床に伏しながらも、かすれる声で言葉を残した。


「シャルトリューズ家を……頼む。」


 その言葉が、兄の最後だった。


 *******


 今の俺なら、あの程度の魔獣、決して倒せないものではない。


 もし、俺があの場にいたなら――。

 いや、そのときの俺は、仮にその場にいたとしても、きっと何もできなかった。


 守れなかった。


 大切な人たちを、無惨に失った。


 そして俺は、手に入れるはずではなかった公爵位に、つくことになった。

 父と、兄の血を犠牲にして得た公爵位に。


 俺の中に残ったのは、ただの無力感と、深い決意だけだった。



 ――二度と。

 二度と、大切な人を魔の手に渡しはしない。


 けれど、今回の件で思い知らされた。


 しかし……相手が「敵」でも「魔」でもないとなれば。


 金でも憎悪でもない目的を持つ者。

 愛という名前で飾られた、欲望や執着……。

 それにどう対峙すればいいのか。



 アリシアの涙を思い出す。

 俺の殺意を見て怯え、そして……涙を流していた。

 あれは恐怖の涙だったのか。それとも……。


 セドリック・ド・ラ・モンテの執着が歪んだものであるとわかっていても、

 あれほどまでに彼女を求める姿が、俺の心に影を落とす。


 あいつの愛執が歪んでいるとしても、

 彼女の心には……彼の想いが何かしら響いているのではないだろうか。


 いや……実際、あの場でも、アリシアは俺に、奴の命ごいをしていたのだから……。

 それは彼女の優しさだと信じたい。

 だが……本当に、それだけなのか?


 そして俺自身も、問わずにはいられない。

 俺は……本当に、彼女と添い遂げる資格があるのだろうか。


 この感情は……ただ婚約者として守りたいと思う以上のものなのか。

 あるいは、それ以上になり得るのか。

 そもそも、出会ってまだひと月足らずの相手だが。


 だというのに……。

 俺はどうして、彼女を誰にも渡したくないと思ってしまうのだろう。

 これはただの責任感か、それとも……。


 彼女の涙が何を意味していようと、

 俺が彼女をどう想い、その感情にどう名付けようと……。


 俺はもう、アリシアを手放すことなど、できない。



 

なんだかんだと言い訳しながら、まだ自分の気持ちに気づいていないジェラールでした☆

次はそろそろアリシアに戻ります。


応援ありがとうございます☆

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