#24 手の中の誓い
ジェラールの回想から…。
家族を……守るということは、こんなにも難しいものなのか。
俺に、その資格が本当にあるのだろうか。
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母は俺が幼い頃に亡くなった。
だが、父は母を深く愛し、母の想い出を大切にしていた。
残された人生を仕事に没頭していたのは、母を忘れられないためだったのかもしれない。
当時は先々代タンザナイト王の世で、王太子不在の中、王位継承争いが激化していた。
宰相であった父が、その渦中で多忙を極めていたことも、仕方のないことだったのだろう。
だから、ある日、父がいきなり再婚を決めたときは驚いたものだ。
しかもその相手は、市井で暮らしていたまだ17歳の少女だったのだから。
だが、父にはその選択を迫られるだけの理由があった。
結婚式の前夜、父は兄のエドワードと俺を呼び出し、重々しい口調で秘密を告げた。
「エレノアは陛下の子を宿している。
彼女を守れ。」
タンザナイト王は恋多き人だった。
だが、同時に情の深い人でもあった。
仮初めの寵を与えたエレノアと、その腹の子を守るために一計を案じたのだ。
――公爵家に生まれる子として記録されれば、王家の庶子と疑われるよりも安全だ。
そう王は判断した。そして、我がシャルトリューズ家にその危険を押し付けたのだ。
父がその申し出を受け入れた理由は、今となってはわからない。
だが、おそらく父と王との間には、深い事情があったのだろう。
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エレノアは邸に入り、父の正妻となった。
だが、公爵夫人として人前に出ることはほとんどなかった。
当時、俺は学園で第4王子と寮生活を送っていた。
殿下は優秀で、そして一風変わった人だった。
彼に振り回されることも多かったが、兄エドワードからは「役に立つから」と諭されたものだ。
あの頃の俺は、家のことなど気にも留めず、ただ目の前の課題と殿下の面倒を見る日々を送っていたのだ。
だからエレノアのことは、正直言えばどうでもよかった。
当主代行をしていた兄エドワードが苦労しているのを横目で見ているだけだった。
やがて月が満ち、生まれた子は――しかし、息をすることはなかった。
エレノアは、その現実を受け入れることができなかったのだろう。
ある日、侍女が抱えていた赤子を自分の子だと思い込み、奪い取ろうとしたとき、彼女が壊れていたことを俺たちは知った。
少し経って、タンザナイト王が、静かに崩御した。
多くの後継者候補を生み出し、国を静かな争いに巻き込んだままに。
その知らせが届いて間もなく、エレノアは突然邸から姿を消した。
数日後――戻ってきた彼女は再び身籠っていた。
彼女の顔には嬉々とした笑みが浮かび、どこか熱に浮かされたようだったという。
そして兄に告げた言葉は耳を疑うものだった――。
「陛下の子を、また身籠りました。」
その言葉は、兄を戦慄させたはずだ。
すでに先王はこの世にいないというのに。
エレノアは再び出産した。
たった三月、温められたその胎内から、彼女の腹を裂いて出てきたものは、――子ではなく、魔獣だった。
父と兄がその命を懸けてそれを倒したが、知らせを受け、学園から駆けつけた俺が見たのは、凄惨な戦いの跡だった。
魔獣の残した名残――床に転がる、握りこぶしほどの魔石だけが、そこにあった。
兄は、血に染まった床に伏しながらも、かすれる声で言葉を残した。
「シャルトリューズ家を……頼む。」
その言葉が、兄の最後だった。
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今の俺なら、あの程度の魔獣、決して倒せないものではない。
もし、俺があの場にいたなら――。
いや、そのときの俺は、仮にその場にいたとしても、きっと何もできなかった。
守れなかった。
大切な人たちを、無惨に失った。
そして俺は、手に入れるはずではなかった公爵位に、つくことになった。
父と、兄の血を犠牲にして得た公爵位に。
俺の中に残ったのは、ただの無力感と、深い決意だけだった。
――二度と。
二度と、大切な人を魔の手に渡しはしない。
けれど、今回の件で思い知らされた。
しかし……相手が「敵」でも「魔」でもないとなれば。
金でも憎悪でもない目的を持つ者。
愛という名前で飾られた、欲望や執着……。
それにどう対峙すればいいのか。
アリシアの涙を思い出す。
俺の殺意を見て怯え、そして……涙を流していた。
あれは恐怖の涙だったのか。それとも……。
セドリック・ド・ラ・モンテの執着が歪んだものであるとわかっていても、
あれほどまでに彼女を求める姿が、俺の心に影を落とす。
あいつの愛執が歪んでいるとしても、
彼女の心には……彼の想いが何かしら響いているのではないだろうか。
いや……実際、あの場でも、アリシアは俺に、奴の命ごいをしていたのだから……。
それは彼女の優しさだと信じたい。
だが……本当に、それだけなのか?
そして俺自身も、問わずにはいられない。
俺は……本当に、彼女と添い遂げる資格があるのだろうか。
この感情は……ただ婚約者として守りたいと思う以上のものなのか。
あるいは、それ以上になり得るのか。
そもそも、出会ってまだひと月足らずの相手だが。
だというのに……。
俺はどうして、彼女を誰にも渡したくないと思ってしまうのだろう。
これはただの責任感か、それとも……。
彼女の涙が何を意味していようと、
俺が彼女をどう想い、その感情にどう名付けようと……。
俺はもう、アリシアを手放すことなど、できない。
なんだかんだと言い訳しながら、まだ自分の気持ちに気づいていないジェラールでした☆
次はそろそろアリシアに戻ります。
応援ありがとうございます☆




