バッテリー解散、芸能界行き
俺が「レフト・フィンガーズ」の募集に応募したのは、リトルリーグの神奈川県大会、小学校最後の集大成の直前だった。
「本当に野球、やめるのか?」
相棒のキャッチャー、三上翔が真夜中のグラウンドで右手で俺にボールを投げた。
最後のキャッチボールをする俺たちのほかに、ここには誰もいなかった。
「前からチャンスは狙ってた。しかも、応募要項の必須項目が俺にピッタリだからな」
俺は右手のグローブで硬球を受け取り、左手で投げ返した。
「応募要項1 STAR by keitの二人と同じ左利きであること」
1年前、芸能界に現れた新星アイドル、STAR by keit、通称・SbyKの二人の間を踊るバックダンサー、そして未来のスター候補生を決めるオーディション。
「お前が決めたことなら止めないよ」
いつもは先に音を上げる翔が「終わりにしよう」と一向に言わない。
「でもさ、一個だけ言わせてくれ。怒るなよ。俺にはわからないんだよ」
俺は県大会の優勝候補を引っ張るピッチャーで、紛れもないエースだった。
「アイドルってそんなに憧れるか?野球選手のほうがずっと格好いいと俺は思う」
「憧れの人ができたんだ」
俺の左腕から放つボールを存分に受け取れるのは、最後まで翔だけだった。
「俺、お前と甲子園に行きたかったんだ」
翔は寂しそうに笑った。
「ベタな夢だけどな。でも頑張れよ。蓮なら何にでもなれる気がする」
「県大会、お前がキャプテンになって引っ張れよ」
そう言って、思い切り腕をしならせた。これでもかという速球。翔が頷いた。
「そうだな、もう帰ろう」
用具を片付けていると、寂しそうな声が聴こえてきた。
「一回だけでいいから相談してほしかったな」
俺がエナメルバッグを肩に担いだまま見ていると、翔は下を向いた。
「ごめん、芸能界に行ってもがんばれよ」
帰宅してすぐにテレビを点ける。
「蓮、翔君にさよならは言ったの?」
暗いリビングで母さんに俺は首をかしげてしまった。
「だって、これからも学校で会うだろ?」
「もうバッテリーは組めないのよ」
母さんは寂しそうに首を振って、洗面所に行った。テレビで録画した映画には、クールな表情の少年と、対照的にニコニコ笑う少年、二人のガンマンが映っている。話題の映画だった。
「パエリア・ウェスタン~リトル・ガンマン・イン・ザ・スペイン~十三人の刺客」
海外ロケで世界中の演技に定評のある十三人の十三歳を集めた西部劇。
俺は、ワールド・ティーンズ映画祭で「ベスト主題歌」に選ばれた光さんより「新人助演男優賞」を獲得した海音さんに憧れていた。
だからこそ合格して暫くしてから、いつものレッスンのあと急にリハの後に集められて「5人グループを組む」と言われた時は面食らった。




