レフトフィンガーズ一番星の憂鬱
いつもの三人に選ばれたことにホッとする。
そして、いつも目の前に立っている二人に追い付けない自分に焦りを感じる。
「レフト・フィンガーズ」なんて名前を貰ったって、所詮はバックダンサーだ。俺の視線の先にはいつも、とうてい届きそうにない二つの星がいる。
「光、またケータリング二つ食ったんだって?」
「うん、また誘惑に目がくらんじゃった」
「玉ねぎ系は食べてないよな。ゲップ出るぞ」
「大丈夫、カツ丼と牛丼」
「思いっきり入ってんじゃん」
いつもの空気の二人に、ツカツカと革靴を響かせた長友社長がやってくる。初老の女性で、もう六十にはなるはずだが、姿勢がいいのか随分元気に見える。
司社長を前にすると、肝が据わっていると自信のある俺ですら少し怖気づいてしまう。
「光、ネクタイがゆがんでる」
「司さん、ありがとう」
「スーツに眼鏡、いいわ、この衣装。イタリアから取り寄せて新調した甲斐があった」
その後、海音さんに一通り段取りを話した後、二人の背中を軽く叩いた。そしてようやく俺たち三人の方を見た。それでも一瞬だけで、いつものように一言だった。
「じゃあ、あなたたち、お願いね」
そう言うとまた、ツカツカと音を立てながら去っていった。
フォーメーションはいつも一緒。光さんと海音さんが二人で並ぶ。
その両脇に一人ずつ、そして光さんと海音さんの間に一人がバックに就く。
俺の指定席はこのスター二人の真ん中だ。レフト・フィンガーズは採用される三人に加えもう五人いる。
八人で毎回スキルを磨き外仕事を含めた実績・人気を考慮して選ばれた三人が左右と真ん中に配置される。
SbyKの二人の間は、次期デビューを1番期待される少年がつく、いわば花形だ。俺は殆ど、そこを死守している。
もっとも、スキル重視で行きたいときは、両脇の左が定位置の宝月透さんが真ん中のバックに就く。
最近はレフト・フィンガーズ最年少の有望株、名波優磨が十歳ならではのハイトーンボイスを買われて真ん中でコーラスを任されることもある。
負けてたまるか。
SbyKより年上なのに、ガツガツしたところもなく寡黙に踊る透さんにも、「光の幼い頃を思い出す」と社長にプッシュされ始めた優磨にも。
でも、目の前の二人の背中を見ていると、とてもじゃないけれど「負けてたまるか」なんて思えない。遠い遠い背中だ。
「光、立ったまま寝るな」
「お、おはよう……」
弱気になった自分を奮い立たせる。
俺は正直、光さんが苦手だ。というより、あまり好きではない。俺にとって憧れの海音さんの隣にいながら、気分屋で、ド天然で、それでいて美味しいところをすべて持って行ってしまう。
俺には野望があった。いつかこの場所からもう一歩前に出て、海音さんと同じ立ち位置に就く。
さっき起きたてで、それでいてキレッキレに踊る少し憎い先輩を見ながら、決められたステップを踏み始める。




