鬼社長と記憶にないニンテンドー64
「え?ニンテンドー64あるじゃん?すごっ」
光が大声を出すと、海音も反応した。
「ずいぶん昔のゲーム機があるんだな。俺たちが生まれる前のハードソフトだよ」
「スマブラあるぜ!バトろうぜ!」
私に似たいかつい顔の春がはしゃぐと、私の忘れられない人によく似た雪も声を出した。
「四人対戦しようよ!私とかいとばーさす、はるとひかる」
「やるかー」
海音がそっと春を抱えてテレビの前に連れていくと、隣にいた恵がボソッと声を出した。
「あれ、買ってくれたのお母さんなんだよ」
「そうなの」
「やっぱり何も覚えてない」
恵はため息をつくと、話し始めた。
「いつも芸事やレッスンの話ばっかりだったお母さんが唯一私のお願い事を聞いてくれたことは、ニンテンドー64を買ってくれた時だけだよ」
ゲームのことはよく分からないが、ずいぶん白熱しているようだ。恵がテレビの方に行き、海音と談笑している。その後、海音がそっと私のそばに寄って来て囁いた。
「司さん、時々こうやって遊びに行きますよ。これからも連れてってください。恵さんも本当は来て欲しいんですよ。僕らは口実です」
目配せした後、カイトー!と叫ぶ雪の元に駆け寄った。あの子はいつも、優しい言葉をふっとこぼしてくれる。そんな所が、あの人に似ている。
「負けたー!負けたー!」
半べそをかきながらもう一回!とせがむ光も、あの人を思い出させる。
いけない、いつまでも過去に囚われては。海音と光は、後ろばかり見ていた私を迎えに来てくれたのだ。この二人が心からくつろいでくれることが嬉しくて、私は必至で涙をこらえた。
「泣きそうでしょ」
席に戻った恵が呟く。
「泣けばいいのに。泣きたい時くらい」
そう仏頂面を崩さない横顔は、いつかのもっと若かった頃の私そっくりだった。




