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つかさ、迎えに行くからな

 大学3年生で留学したイギリスで「日本の芸能は恐ろしく程度が低い」。そういわれて私は激怒した。何だか「走れメロス」みたいだ。


 でも事実、そのころの私は血気盛んで短気、日本の高校で「可愛くない女」と馬鹿にする男どもを成績で見返し、バブル真っ盛りの大学ではテニスサークルに入り、口論を起こした部長の男をタイブレークの末に負かして、即退部した。


 その勢いで留学したイギリスの大学で日本のエンターテイメントを馬鹿にされ、ディベートを巻き起こした。すべて英語でまくしたてた。あくまで論理的に、最大限の静かな圧を込めて。相手がタジタジで謝ると、私は笑顔を向け英語で言い放った。


〝今度は日本語で話しましょう?それが本当の国際平等じゃないかしら〟


 今にして思えば、欧米コンプレックスで一杯だった。時はバブル真っただ中。老いも若きも海外被れの世の中。流行るのは洋画と洋楽ばかり。


 その時、私の夢は決まった。日本の良さを発揮したエンターテイナーを世界で活躍させるプロデューサー。学業の傍ら、バイトに精を出して海外のプロダクションにも、顔を出してコネを作った。


 そして私は、ロンドンで得た軍資金を手に、日本で芸能プロダクションを立ち上げる手はずを整えた。幸い、留学中に毎月、手紙のやり取りをしていた日本の幼馴染が、浅草で舞台に立っていた。仲間もいるという。


「とてもじゃないが、まとまりはない。でも、俺を含めて6人、東京育ちのパフォーマンス集団がいる。あと一人いれば『七人の侍』なんだけどな」


『七人の侍』。あの頃、私が叶わないと負い目を感じていたイギリスや他国の同級生たちが目を輝かせ、尊敬していた黒澤明の傑作。一人、名画座に通い、観ていた戦国アクション。帰国の前にはすっかり打ち解けた同級生たちと眺めた白黒映画。


 三船敏郎が躍動する中、暗闇の中で同じゼミのロンドンっ子のボーイフレンドが手を重ねてきた。


〝ツカサ、このまま僕と一緒にいよう〟


 私は微笑んで、静かにその手をどけた。


〝ありがとう。でも、だめよ。あなたはボーイフレンドだけれど、心の恋人が日本にいるの。私の夢もそこにね〟


 そして、結成したあのグループ。見事なまでの解体。あの時、光か海音のどちらかだけでもいてくれたら七人のサムライは繋ぎ止められたのだろうか。あの時の6人、全員の人生を狂わせた十字架が今も重くのしかかる。


 過保護と言われようとも、鉄の女だの鬼の女だの言われようとも、私は光と海音を、『SbyK』を守り切る。そう決めている。なのに、あの二人に家族との不和のことまで相談するなんて。


 幼い頃から急に泣きそうになることがある。私はずっと、それを堪えて顔を赤くしてきたのかもしれない。



「つかさのあかおにー!」


「うるさい!あっちいけ!」


 いじめっ子から「あいつ」を守った後、泣きじゃくりながら言われた言葉。


「僕、つかさみたいに強くなるからね」


 それから、ロンドンの安アパートで見た写真に書かれた文字。


「つかさ、迎えに行くからな」


 親と不仲で裕福な実家の支援もなく安い量に下宿していた私が抱きしめた宝物。あの1枚は今も捨てきれずに、今の自室にしまってある。

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