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KATA-KA-NA

「『KATA-KA-NA(カタカナ)』って都市伝説じゃないんですか?」


 光が失踪して戻って来る直前の話。


 関さんがこっそり話した「KATA-KA-NA」に対して前から思っていた疑問を口にした俺を、関さんが大慌てで別室に連れ去る。



「海音。絶対、司社長の前でその名前を出すな。そして司社長がいようがいまいがその名前は絶対、この世界ではその名前を出すな」


「言ってること滅茶苦茶ですよ」


 苦笑いする俺を関さんがものすごい形相で睨んだ。


「因みに、芸能界も何も関係なく、地球上で生きている以上、その名前は出すな」


「KATA……」


 関さんが口を塞いだ。


「いいか、今から話すことは一回きりだぞ。『KATA-KA-NA』は司社長が20代の頃、1984年に初めてプロデュースした芸能人。浅草出身の若者で結成させたアーティスト集団。歌、踊り、コント、演技のすべてを兼ね備えた6人組ユニット。通称『六人のサムライ』」


 KATA-KA-NA……学校の社会の授業で調べものした時についでに調べて驚いた……殆ど情報が無いのだ。光じゃないけれど、何でもネットで把握できるこの時代に。


母親や大人の知り合いに聞いても、


「デビューして3か月も持たなかったから、思い出が少ない」


「でもデビュー曲の披露とそれぞれの俳優業は華やかだった」


「その出演作のドラマもお蔵入りしてるけれど」


「まさに太く短く、最大瞬間風速が凄まじいアイドルの極端な例」


そんな話しか聞けなかった。


関さんは続ける。


「ユニット名『KATA-KA-NA』の由来は『KATA-KA-NA』から真ん中の『KA』を引くと『KATA-NA』つまり『刀』のように日本の芸で、「KATA-KA-NA=カタカナ」、つまり英語圏など世界のマーケットを狙う芸事のプロパフォーマンス集団。実際、本人たちの華とスキルも抜群だった」


 そんな詳細、初めて聞いた。


「しかし、六人グループで全員が我が強く、ダブルセンターを決めるのにも一苦労。一人、誰もが認めるエースがいたが相方が決まらなかった」


うちの事務所は珍しいことに、過去所属のタレント活動も差し支えない範囲で紹介しているが「TEEN(ティーン)to(トゥ)OLDER(オールダー)」は跡形もない。それだけ「問題あり」なのだろう。


「メンバー感がゴタゴタしてるうちに一人が薬物で脱退、もう一人がさる大企業のCMに出た際に揉めて大批判をした。その会社の社長は日本のフィクサーと繋がっていった。発言の13日後、そいつは失踪、何でも外国の地下で働かされているって話だ」


 話がどんどん剣呑になっていく。おまけにあまりに浮世離れしていて、深刻な顔で頷けばいいのか笑えばよいのかも分からない。


「KATA-KA-NAは事実上の解散。そのパフォーマンスも、大企業の一存で映像を流す許可はおろか、元メンバーの身元すら分からない。この何でも明らかになる時代に、すべての情報を消されたんだぜ。いくら活動時期がほぼ無いとはいえ。やべえ案件なんだよ、これは」


 関さんは、チラチラと楽屋を見渡しながら大汗を掻いている。でも、芸歴がそこそこある俺が何でそのことを知らされていなかったのだろう。


「それに……」


「それに?」


 関さんはいつにも増してあたりを見渡している。


「このグループはな、司社長にとって心の傷なんだ」


楽屋の空調は効いているのに、関さんの汗は止まらない。


「同年代の才能溢れる青年たちを集めて、危うい魅力でかろうじて保たれていた〝影の最高傑作〟なんだ。口にこそ出さないが、司さんは今でもこのグループに、泣きたいほどの未練がある。実際、プライベートでも交流があったほど仲のいいメンバーの5人が身元不明で、一人は薬物中毒だからな。おまけに……」


「ひょっとして」


 俺も流石に感づいた。


「メンバーの一人と深い関係だったとか」


 関さんは首を振った。


「海音なら気づくと思ったよ。でもな、司さんがタレントに手を出さないよう社を挙げて取り締まっているのは知ってるだろ?それは創業からだ。でも、その仲のいい幼馴染のメンバーが留学から帰国した時に、まだ留学中の司さんにこう言ったそうだ。『俺がスターになったら金髪の女優なんか蹴散らしてお前を迎えに行くって』」


「それくらいの出来事が……俺にも言わないわけだ。相当な心の傷なんですね」


「ああ。今じゃ彼らは、語ることもできない芸能史の隠れた星々となっている。文字通り都市伝説ってやつだな」


 時折見せる司さんの寂しそうな顔が浮かんだ。光と俺を組ませて「史上最高のユニットを作る」と何度も言っていたが、彼女の中ではまだ更新されていない過去があるのだ。


「当然このことは……」


「光には言いません。だってあいつ、この世界には残らないでしょ」


「寂しそうだな」


 関さんのハンカチはもうビショビショで、替えの3枚目を取り出した。


「いずれにせよ、あいつは静かに暮らした方がいいです。その方が傷も浅い」


 そう話した直後に、よく通る声がした。


「海音くん!関さん、お待たせしました!勝手に出て行って本当にごめんなさい!」


 光の目に、初めて会った時の輝きが戻っている。


「どこ行ってたんだ、心配したぞ」


 慌てる関さんに、光は頭を下げた。


「ご心配をおかけしました」


 俺は光の肩に手をやる。


「大丈夫か」


「うん」


「やたら明るいけれど頭ぶつけたとかじゃないよな」


「まさか」


 光はよく分からない地団太を踏むようなステップを踏むと、首をかしげてから「先は長いな」と呟いて笑顔を見せた。


「始めましょう!レコーディング!」


 何が起きたのかは分からない。でも、こいつの目が生き返った様子を見て、もう一度やってみようと思えた。


 あの日、光がどこで何をしていたのかを俺はデビューした今も知らない。

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