鉄仮面との約束
「佐助、行こうぜ」
鉄仮面が踵を返したその瞬間、僕は思い切って声を出した。
「あっ、あのう、鉄仮面さん……」
「どうした」
「LINE交換しませんか?」
退学した私立中学校のグループラインは消した。公立中学校のグループラインは招待されても輪に入る勇気はなく、今でも仲のいいグループLINE「光をどうにかする会」とその友達との個人のアカウントしか僕にはない。
一度は拒否された。でも、でも……。
「俺、携帯電話持ってないんだわ」
ガーン!僕が落ち込んでいると、鉄仮面がさっと紙の切れ端を取り出した。
「メールでいい?パソコンなんだけど」
僕が首をぶんぶん縦に振って頷くと、佐助さんが声をかけた。
「こいつ、歌や演技のうまい人を見つけると連絡先を渡すんだよ。あ、怪しくないから安心して……そういうと怪しいか。なんにせよ、会いに行くときは親御さんにも話し通して一緒に、ね」
「鉄仮面さん」
僕は思い切ってさらに話した。
「鉄仮面さんみたいに格好良くなるにはどうしたらいいですか」
「そうだなあ」
「否定しろよ」
鉄仮面と佐助さんは掛け合いは出来上がっている。きっとお互いに慣れているのだろう。
「毎日、タップダンス踏みな。あと、剣道やってごらん。泣き虫も治るよ」
「はい!」
「じゃ、俺はこれで」
2人に僕が一礼すると、事務所『TEENtoOLDER』の名刺を落とした。
拾った鉄仮面が呟く。
「まだ続いてんだな……」
「え?この事務所知ってるんですか?」
驚いた僕の頭に鉄仮面が手を置いた。
「事務所の社長に行っとけ。『タレントを大切にするのなら双六は6つそろう』って」
「はあ……」
「それともう一つ、俺たちのことは誰にも喋っちゃだめだぞ。事務所の社長にも、友達にも、家族にも。仲間や相棒や恋人がいても話しちゃだめだ」
僕が首を縦にぶんぶんぶんぶん振ると、
「そんじゃ」
と声がして、顔を上げたら二人はもう裏口の扉のすぐそばにいた。
その後、事務所に帰ると海音と関さんが迎え入れてくれた。太陽と潤もいて、スタッフの皆はよかったと叫んだ。
お母さんは僕を連れたがったけれど、僕はスタジオに入った。
海音がすっとそばに来てささやく。
「この中に入るってことは、この世界に入るってことだぞ。お前、嘘つけないだろ。大丈夫か?」
「大丈夫」
僕は目を閉じて呟いた。
「秘密の一つや二つくらい、僕にだってあるよ」
歌詞に悩む海音に覚悟を伝えると、納得して頷いてくれた。
イントロが始まる。逃げ出していた日々から、また同じ繰り返しが始まる。僕は大きく息を吸い込んで、最初の声を歌いだした。




