第75話:方向性
璻は藤宮を見ると質問をした。
「その響灘制度に浅間由里香の母親の一族が関わっているんじゃないかって話ですね?」
藤宮は深く頷き璻の質問に応える
「はい。裏で動いている方々が多くいらっしゃるので。まぁ断言はできませんが、スパイ活動している一族なんかは長年スパイ家系の事が多くあります。頭の片隅で覚えておくといいかもしれませんね」
九鬼は璻に話の補足をするように話しかける
「基本はあんまり出てこないんだ。響灘制度に入っている人間ってさ。基本は政治家が多いんだがこの手の一般人タイプはあんまり見た事ないし、考えられるのは与瀬村あいな自身が響灘制度に入っている一族だって知らないかどっちかだな……でもまあ自覚されても面倒だし」
九鬼の言い方はまるで自覚した後を知っているように聞こえた。璻はその発言を聞き不安そうな表情をするとボソッと一言言葉をかけた。
「そうですか……」
そんな一言を聞いていた藤宮は璻の様子から何か感じ取った。藤宮は璻と穂積を見ながら話しかけた。
「そういう可能性を考えてカウンセリングしましょうって話です。穂積さんも璻さんもそんなに深刻にならないでください」
璻は隣の穂積の顔を見ると顔が真っ青になっている。そんな穂積を見ていた璻は少し考えた。
……これ私がどうしようと考えていたから同じように不安になっているのかもしれない……
璻は穂積と藤宮に両方に声をかけた。
「知らない可能性のほうが高いんですよね。じゃあ今考えてもしょうがないので次行きましょう。次っ!」
璻の言葉を聞き穂積も頷き顔を上げ璻を見ていた。さっきよりも少し顔色がよくなったように感じた。
諏訪はまた話を続ける。
「はぁっ……とりあえず母親の浅間由里香が与瀬村あいなを家から追い出した所からだったな。与瀬村あいなは何年かして一度だけ自宅に戻っていたことがあった。その時の与瀬村あいなは風俗嬢として働きメンズコンカフェで有名になっていた。自宅に戻って母親の浅間由里香から『アンタお金あるんでしょ。アンタの若いエキスを餌にした中年男性から稼いだお金、アンタの母親なんだから受け取る義務アタシにあるでしょ』と言われ与瀬村あいなは絶望し、数万母親に渡した。それ以降自宅に帰る事はなかった。これは前回のカウンセリングから引っ張ってきた内容か?」
璻はその内容を聞き思わず頭の中で考えが浮かんだ。
……娘をなんだと思っているんだ。お金を稼ぐ奴隷と思っているのか?……
母親の浅間由里香の考え方に璻は理解が出来なかった。
九鬼が諏訪の話を聞き怒り始める。
「虐待じゃないすか。なんだその母親」
藤宮が全員に話しかける。
「いや、そういう親、昔平気でいましたよ。耳も聞こえない、目も見えない障害を持った親が健常者の子供を産み育ってていた事例が昔ありまして。その子供に一生私の世話をするように育てたんです。と言われ育った依頼主も昔いましたし、スポーツ選手で小さい頃からメディアで話題になった方とかもいましたっけ。両親が貧乏で金遣いが荒く稼ぐ能力がなかったから、自分の子供の人生を潰してスポーツ選手としてお金を稼ぐようにしたとかありましたね。それを経験した子供は記憶の奥深くどこかでその記憶を受け継いでいるんですよ。拝金主義の時代、心も貧乏な人が多くいた。日本が経済崩壊した後に物は止まり、お金を持っても物がこない状態になった。そうなって初めて日本人は気づいたんです。お金をたくさん稼いでも物が入ってこなきゃ意味がないんだなとね。今や昔の話ですよ」
九鬼は藤宮に質問をした。
「つか、大体バックグラウンドわかりましたけど、この場合どうカウンセリングするのがベストなんすかね?」
まさかその質問を聞いた諏訪はその九鬼の姿に少し成長したように見え嬉しそうしていた。藤宮は九鬼をじっと見ると問いかけた。
「九鬼くんならどうしますか?」
藤宮の目はまるで九鬼の考えを知りたいと言っているように見えた。九鬼は少し悩むと藤宮の問いかけに答えた。
「俺ですか?そうですね。今悩んでいる箇所と幼少期の考え方を比較し付随している箇所にアドバイスをするとかですかね」
藤宮は九鬼の意見を聞き少し考える。
「うーん。正しいちゃ正しいですけどね。九鬼くん、それだと詰めが甘く考え方が浅いですね。相手が男性ならそれで理解できるかもしれませんが今回は女性です。基本的に女性は共感を好みます。例えばですけど……そうですね。九鬼くんが女性だった場合、話だけ聞いて感情を理解し共感して欲しいのにまったく知らない男性にこうやった方が効率的で早く解決できるよ?と言われたらどうしますか?」
九鬼は藤宮の質問に戸惑いながら応えた。
「えっ……それって前提条件がまったく違いますよね。話を聞いて受け入れて欲しいが女性の意図なら男性の意図は真逆の事してますけど」
藤宮は不自然な笑みを浮かべ九鬼に対して微笑んだ。九鬼はその瞬間、違和感を感じたのか背後からゾクゾクと寒気を感じた。藤宮の不自然極まりない笑みに対し九鬼は頭から言葉が浮かんだ。
……お前の考えは視野が狭い、そんな事を藤宮さんから言われている気がする。言葉でコミュニケーションできねぇのかよ。だから嫌なんだ。この人察しろってオーラ出すの。そういうのはっきり言えよっ!……
藤宮は九鬼を見てにこやかに応えた。
「これが仕事場ならそれでいいんですが…カウンセリングするという意図で来ているので感情を共有する事が優先になります。男性は共感する事が疎い部分があります。感情を置いてけぼりにしやすく、そこを見ないようにしがちです。逆に与瀬村あいなのような女性は他人に依存し共感する事が主軸になる事が多い、自分がこんなにも頑張っているのに相手がわかってくれない。自分が相手にされないと怒るとかもそうですね。これは女性だけではないです……今現在でも日本の多くは自分が何をやれば楽しいかわからない人が多くいる。なんとなく社会的に正しいと言われている事を相手に強要する事で自分の価値観、自己肯定感をあげ高めようとしている人もいますが、そもそもそのやり方違いますよね?と気づいてくれるように話を持っていく事が今回のミッションです。めちゃくちゃ地味ですがね」
藤宮の説明を聞きなんとなく腑に落ちた。
……大きな括りは間違っていないが、ようはさっさと答えを出さずもっと過程に目をむけ、もっと細部まで考えろってことか?依存や共感している習慣を見つけ、理解した後にその習慣の考え方違うんじゃないと気づかせるパターンか。この考え方は知らなかった。俺が性急に考えすぎたな……
九鬼は黙って深く頷くと藤宮に言葉をかけた。
「なるほど。俺最初からアドバイスすれば終了だと思っていました」
藤宮は九鬼の意見を否定せずにただアドバイスをした。
「九鬼くんの言ってる方向性は間違ってはいません。好きで泥を被っている依頼主に対して過程を聞かずなんの説明もなく我々が水で洗い流されたら、依頼主は多分怒るでしょ?この場合、可哀想だねと共感して一緒に泥を被るのではなくて、アドバイスをするなら、水被っているこちらの方が綺麗でしょ?と比較対象を出してあげると依頼主から見たらわかりやすいかなと思いますね」
璻はその話を横から聞いていた。依存する人に対して藤宮は容赦はないそんなふうに璻から見えていた。
……好きで泥被っているって言い方キツイな。藤宮さん……
九鬼は続けて藤宮に話をする。
「言わんとしている事はわかりますが、俺そこまで考えたことないですよ……」
珍しく九鬼が少し自信を無くしているように見えた。藤宮は九鬼に声をかける。
「大丈夫です。そこを突き詰めて考えカウンセリングすると九鬼くんは筋もいいので伸びると思います。次、穂積さんならどうしますか?」
藤宮は唐突に穂積を見ると意見を問いかけた。
「わわわ、私ですか……話を聞いていて要因はひひ一つじゃないと思います。例えば……いっ…依存されている人は人に求められる事にメリットをかっ……感じます。他人に優しい人って認めてもらいたい。ままままた、依存したい人はぬるま湯でぬくぬく過ごしたい、どんな私も受け入れてほしい、この人といなくても自分は成長しなくていいとかか考えがちです。その考え方にはどんなメリットがあるのか、デメリットがあるのか?どのパターンでその依存的な考え方をやっているのか私たちが把握することが大事だと思うんです。幼少期の話を聞きながら与瀬村さんの考え方のパターンに気づいてもらえるように話を持っていく、そのほうがすすすスムーズでいいかなと……」
穂積の発言に藤宮は応える。
「メリットデメリットですかその視点はなかったですね。お二人ともありがとうございます。さて、じゃあ……璻さんカウンセリングの際に聞くポイントをまとめて書いてくれますか?」
璻は頷きながら答えた。
「はい。わかりました。」
璻はそう応えると紙とペンを持ち、話し合った内容を書き出す事にした。
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・なんとなく社会的に正しいと言われている事を相手に強要する事で自分の価値観、自己肯定感をあげ高めようとしている人
日本の多くの人は自分が何をやれば充実している、楽しいのかわからない人が多くいます。実際にこの時代では最新技術に頼って自分で考えない人が多く溢れていました。その中でも”社会的に正しいと言われている事を相手に強要する事で自分の価値観、自己肯定感をあげ高めようとしている人もいました”この一文は藤宮が最も不快と思っている部分でもあります。例えば、社会が素晴らしい団体だと認めたから自分もその団体に寄付をするなどもそうですね。本当に?その団体は素晴らしい団体でしょうか?もしかしたら裏金作っているかもしれませんし、海外マフィアに属しているかもしれません。そんな可能性もあるかもしれないけど、判断しようと自分で決意し責任をとることが大事なことでもあります。自分で判断すること、自分の判断の責任を自分で持てるように気づくのも水流士の役目だと藤宮は思っている節があるかもしれません。
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