第72話:感情を無駄に共感してほしい依ゾンビ
諏訪は2枚目に書かれている個人プロフィールを見ながら話を進めた。2枚目3枚目と紙をめくりながら話を進めた。
「お前らのおかげでだいぶ話がズレた。亡くなった父親と母親の話についてまだすり合わせしてなかったけどよぉ。この与瀬村あいなの産みの母親、2歳の時に交通事故で亡くなっている。死因だが買い物の帰り道、急に車が突っ込んできたと書いてあんな。周辺地域は交通事故が多発していた地域だったらしい。亡くなった母親はそんなもんか」
藤宮もペラペラと紙をめくりながら諏訪に質問をする
「諏訪さん、交通事故の際、与瀬村あいな自身はどこにいたのか?って記載ありますかね。それによってだいぶカウンセリングの内容がかわると思うのですが……」
諏訪は紙をめくりながら該当箇所を探していた。すると2枚目の最後の方に記載がある事を見つけた諏訪は読み上げる事にした。
「あったあった。交通事故の際、与瀬村あいな自身、父親と一緒に自宅にいたが死亡確認の際に母親と対面したってあるな」
藤宮は諏訪の言葉を聞くとなぜか深くため息をし諏訪に言葉を返した。
「はぁっ……やっぱりそうですか。幼い頃に死が身近に感じられる経験をした方は人生の前提条件に"人は必ず自分の元から居なくなるもの"と思いがちになります。無意識に人を避けたり、いなくなったら困るからと人に依存しがちになりますね」
九鬼はその話を聞きながらある事を思い出し、藤宮に質問をした。
「なんか……それって午前中に見た山田さんと同じパターンに似ているな。藤宮さんはいなかったけど依頼主の山田さんの場合は母親がネグレクト気味で育ち父親が過干渉気味だった。親がどっちもいない場合は父性も母性も指標がいない……その場合どの人間を見て育つんですか?」
九鬼の質問に藤宮は淡々と応えた。
「親が途中でいなくなった場合と生まれた時からいない場合では全然メンタルの強さが違いますね。生まれた時から全く両親がいない場合、基本的愛情をかけず育った子供は早々に亡くなる場合と施設で育つパターンがあります。この与瀬村さんの場合は親が途中でいなくなったパターンです。本人が成長するたびに親が変わる昔なら特殊なパターンになりますが…現代では親がすぐ変わるのはごく一般的です。ではここまで九鬼くんに質問しますが…とても綺麗な家で立地がいい場所があるとします。でもその家は建築法に違反した骨組みもまともにない家です。九鬼くんはこの家に住みたいと思いますか?」
急に藤宮から質問が来ると思ってなかった九鬼は少し考えていた。
……家と与瀬村あいな関係ねぇだろうが?何言ってんだ?……
藤宮の質問に呆れ返りながら質問の答えを話す
「そりゃ、そんな家地震が来て倒れ所が悪ければ俺が一発アウトで即死になるじゃないですか。倒れなくても柱とか歪みそうだし、普通に住みたくないですわ」
藤宮は九鬼の意見に頷きながら応える
「ごもっともな回答です。さっき九鬼くんに例えでいった家の状態は"人間の人格形成"の例えの話ですよ。基本的に人間の人格の土台や骨組みは3歳くらいに形成され10歳くらいまでに確定します。この時期人格形成に一番大切な事は"人から愛されている"という実感と"自分は必要とされている"と感じることです。途中で親がいなくなった場合、どこか無意識のうちに"自分は必要とされない"と感じ"人からも愛されない"と自分の中で諦めてしまうんですよ」
九鬼は少し悩むとまた藤宮に質問をする。
「うん?あんま想像出来ないんですけど自分の中で諦めるとどうなるんすか?俺全く想像がつかないんですけど……」
藤宮は九鬼の疑問に対して答える。
「自分の中で常に自分を信じていない状態がデフォルトになります。自分で自分を信頼してないんですよ。かわりに自分を無碍にして他人に評価をしてもらおうとするんです。特にこの手の依存型タイプはネガティブな事を言う人間や愚痴を日常的に吐くことが多い。本人は無自覚ですが…根本的な問題は"自分の気持ちをわかってほしい"という前提条件で話すのでテイカー気質になります。昔の拝金主義の日本ならそれで通じたんでしょうけどね。今や実力社会ですから残念ながらそういう人間は自立した社会からは激しく鬱陶しがられますね」
九鬼は藤宮に問いかける。
「確かに今の時代、依存した人間の方が生きづらいのによくやるな。暇かよ。大体、自分は大変な思いをしていますわかってください!って聞いている側しんどいし、上手く利用されてる状態になっている事に気づかないんすかね?」
九鬼の言葉が無神経に聞こえたのか諏訪は九鬼に悟すように藤宮と九鬼の会話に割って入った。
「んじゃ、お前が考えやすいように聞く側だったとするか。聞く側の人間が小さい頃から親の愚痴を常日頃聞いていなければいけない環境で育ち、困っている人を常に助け、話は聞かなければいけないと親からずっと教育されても朔は同じ事が言えるのか?」
諏訪の言葉を聞いていた穂積は手が震えていた。隣に座っていた璻は穂積の異変に気がつく。まるで何かを酷く怖がっているようにも見えた。璻は穂積に声をかけようとするが九鬼が先に諏訪の質問に対して応え始めた。
「その考えはなかったですね……」
震える穂積の様子に気づいた藤宮は穂積にゆっくりと質問をする。
「穂積さんも似たような経験したと話してましたがどうでしょうか?」
穂積は急に顔を下に向けるとおどおどしながら藤宮の質問に応える。
「わわわわっ……私、あっ……」
そう言葉にした瞬間、穂積の頭の中で生々しく映像が浮かんだ。
それは穂積が小学生の頃だった。
いつも学校から帰ってきた穂積は居間にいる母親や父親の愚痴を無意識に聞いていた。愚痴を聞くと父や母から褒められるというサイクルだったので穂積はそれが"普通"の事だと思っていた。
母親や父親の愚痴を聞かなければならないという感覚をすり込んだのもきっとこの頃だったと思う。
。:*:★。:*:★━━補足ポイント━━★:*:。★:*:。
・小さい頃から死を経験すると人生の前提条件に"人は必ず自分の元から居なくなるもの"と思いがちになる
小さい頃から大切な人が何度も亡くなる経験をすると無意識な中で大事な人は必ず自分の元から居なくなると人格の中で錯覚をします。この傷を癒すために早く結婚する人が多いですが自分で自分の傷を見ない限りまた自分で家庭を壊したり、パートナーを失うことで傷が再発しがちになります。今ある幸せをどれだけ大切にできるかによって過去の傷が癒やされたりします。
・テイカー気質
人間関係や仕事において「自分が何を得られるか」を最優先し、他者から時間・労力・成果を奪う(Take)傾向が強い人のことを言います。ちなみに愚痴を聞いてくれる人はなんでも聞いてくれる人という概念がくっつくので無意識に人のエネルギーを奪っていきます。こういうタイプの人間は残念ながらこれから淘汰されます。
・親の愚痴
親の愚痴を無意識に聞いていると知らない間に「自分の話を受け入れてという」前提条件でコミュニケーションが始まります。親がこれをやっていると子供も真似して生活をします。「自分の話を受け入れてという」考え方でコミュニケーションが始まるとテイカーになりがちです。どこの会話のシーンで自分で信用しない自分がいるか見つけてあげると気が楽になったり自分の状態がわかるようになります。
コメント、評価、ブックマーク、感想お待ちしています!
。:*:★。:*:★━━━━━━━━━★:*:。★:*:。




