第69話:手放せない記憶
諏訪が話をし終えると穂積は個人プロフィールを各席に配り始めた。配り終えた穂積は璻の隣に黙って座り個人プロフィールを読んでいた。キッチンから足音がした。藤宮はハーブティーを入れたポットとカップをトレーに乗せテーブルへ向かっていた。
藤宮は目の前に立っていた九鬼と鉢合わせになると藤宮は驚きながら話しかける。
「九鬼くん、久しぶりですね」
藤宮は嬉しそうに話すが九鬼はなぜか冷めた目で藤宮を見ていた。
「藤宮さんもお元気そうで。ほんっと相変わらずですね」
璻は遠目から九鬼と藤宮を見ていた。その会話から察するに藤宮と九鬼は知り合いらしいが九鬼は藤宮があまりいけすかないのが感じられる。
諏訪が席につくと九鬼、璻、穂積も席についた。藤宮はテーブル一人一人にハーブティーを配りはじめた。
ハーブティーの華やかな香りに璻はなぜか嬉しそうに藤宮に話しかける。
「藤宮さん、今回のハーブティーは何ですか?」
璻の問いかけに藤宮は応えた。
「今回はエルダーフラワーです。欧州では庶民の薬箱とも言われていて解熱効果や利尿作用、美肌効果などがありますね。呼吸系の炎症にも効果がありますよ」
璻は藤宮に対して嬉しそうに話を返した。
「風邪の時いいかもしれませんね。このハーブティー」
藤宮は笑顔で璻の分のハーブティーを入れると璻に差し出した。
「はい。こちらは璻さんの分です。どうぞ」
璻は嬉しそうに受け取るとお礼を言った。
「ありがとうございます」
璻は藤宮に渡されたハーブティーをゆっくりと口に近づけ少しずつ飲んだ。暖かく柔らかな香りに心がホットするのがわかる。
全員分配り終えた藤宮は璻が空いていたので席に着いた。諏訪は全員に話しかける
「とりあえず、全員座ったな。これからすり合わせすっからな。個人プロフィールは一様全部サッと目を通したな。今回は穂積がメインで龍後が助手だ。監督として藤宮が残る事になっている。俺は環境業務、朔は山田陽翔の報告書作りでここから居なくなるからお前ら3人で頑張れよ」
九鬼が嫌そうな表情を浮かべるとすぐさま諏訪に文句を言った。
「報告書書くのかよ……クッソめんどっくせっ……」
九鬼の文句を聞いた諏訪はため息を出して応えた。
「お前な。カウンセリングした後は報告書書くのが義務なんだよ。中途半端な仕事するなよ。みんなが情報共有できなくて困るのは目に見えんだろうが!」
怒られた九鬼はシュンとしながら諏訪に返事をした
「はい……」
諏訪は話を続けた
「雑談はこれくらいにしてさっさと始めるぞ。今回の依頼者は…与瀬村あいな、性別は女性、生年月日は2031年7月22日の蟹座、19歳だな。依頼主は新埜吟さん、うちの水流士。今回は依頼主が本人ではないのでそこが注意しなければならない点であるな」
璻は諏訪をじっと見つめると質問をした。
「どう注意が必要なんですか?」
諏訪は璻を見ながら疑問に応えた
「依頼主が本人ではない場合は不本意な事があるだろう。いいか?龍後、お前は病気でもない奴にお前は病気だと言われてソイツに病院に強制的に連れて来られてみろ。うぜぇ。お節介な事してんじゃねぇよってなるだろうが。そういう奴の場合、大抵その場しのぎにカウンセリングの時間を使って心を開こうとしなくなる。こっちは本気でやってんのに本人が意図を理解してねぇんじゃ、カウンセリングしても根本的に考え方治らないだろうが」
璻は頷きながら応えた
「確かに……」
諏訪は璻、穂積、藤宮の顔を見つめながら話を続ける。
「今回は施術する人間を焦点に当てながら本人に疑問を持って考えさせるようにする事が目的だ。そこを穂積と龍後と藤宮の3人で話し合うようにしてくれ。話を続けるぞ」
諏訪はそういうと個人プロフィールを見ながら経歴を読み上げた。
「今現在は、メンズコンカフェ学校で講師しながら風俗インフルエンサーも兼任。フォロワーの数6万人。フォロワーのほとんどが男性、しかもおっさんに人気なのか……わからねぇな。」
諏訪の話を聞きながら経歴の欄を見ると本当に書いてあり璻は深く驚いた。九鬼は鼻で笑いながら言葉を口にした。
「おっさんに需要あるって与瀬村あいなって女、おっさんを金ズルかなんかと思ってるんだろうな。おっさんの事人間って認識してなさそうだな」
諏訪は藤宮を一瞬見ると話しかける
「藤宮、生い立ちを読み上げろ。お前の見解も聞きたい。お前が1番得意な分野だからな。俺はこの手のタイプはからっきしダメだ。丸め込まれる。藤宮頼むわ」
藤宮は諏訪に顔を見つめ少し笑うと諏訪の期待に応えた。
「わかりました。では、与瀬村あいなの生い立ちを読み上げますね。実の母親は2歳の時、交通事故に遭い亡くなった。与瀬村あいなが5歳の時父親は再婚し別の母親が出来るが、与瀬村あいなが8歳の時、父親が謎の病死。再婚した母親に育てられるが金遣いが荒く、家でも与瀬村あいなにお金をせびっていた。12歳になった際突然、与瀬村あいなを家から追い出した。それ以降、友達とも距離ができ学校も行かず居場所がなくなった与瀬村あいなは繁華街に入り浸るようになり見ず知らずの中年男性の家に転がり込むとパパ活を開始し食い繋いだ。その後2件ほど風俗に勤めたがたまたまアルバイトでメンズコンカフェに務めると過去最高の売り上げを叩きだし、SNSで話題になった。その経験から学校の講師をするようになったとの事です。相変わらず風俗嬢もしているとも書かれていますね」
璻は個人プロフィールの紙を見ながら藤宮が読み上げた所を目で追っていた。
……複雑な家庭環境、放り出されどこにも頼る場所がない場合、優しくしてくれた男性に住み着くだろうが、そんな現実は甘くない。こんな話聞いていても胸糞悪い……
諏訪ははぁっ……とため息を出しながら藤宮を見ると重い口を開く。
「んで、藤宮お前ならどう考えるよ」
藤宮は少し考えると諏訪の質問に応えた。
「そうですね。とりあえず、再婚した母の個人プロフィールを照らし合わせて考えます。与瀬村あいなが2歳と8歳の時にすでに実の母親と父親が亡くなっているので分離不安症やうつ状態がなかったかを考えなければいけません」
璻はゆっくりと手をあげると藤宮に質問した。
「分離不安症って何ですか?」
藤宮は璻の質問に応える
「分離不安症は愛着をもっている相手が自分の元から去って行くときに不安や恐怖、悲しさを感じますよね。幼少期に成長する時に必要となる感情です。親が保育園や幼稚園で見送る時に泣き叫ぶときなんかは分離不安にあたります。今回は体内の水分子を調整しないただのカウンセリングなので……何かを失う事に酷く抵抗を感じるか執着があるのかどうかも見た方がいいかと思います。それが"お金"なのか"男性"になるのかでもカウンセリングの方向は変わってきますね。」
璻はふーんと話を聞くと次に九鬼が個人プロフィールの紙を見ながら藤宮に質問をする
「その失う事に酷く抵抗があるのは"お金"か、"男性"かで見方変わるって藤宮さん今言いましたけどどう変わるんすか?」
藤宮は九鬼の質問に応える
「失う事に酷く執着したのが"お金"だった場合、再婚した母親に強く影響を受けていた可能性があります。お金がなきゃ生きていけないとか自分は稼がなきゃ生きている価値がない、発言権がないとかそういう思い込みがあるかもしれません。これが "男性"に酷く執着している場合、亡くなった自分の父親を無意識で探している可能性がありますね。このように依存になりやすい人は傾向があります。今回は男性なので過去に深い後悔や罪悪感が男性に対してあるのか?も考えなきゃいけません。またの与瀬村あいな自身、父親が理想の男性であり、失った事で父親と似た男性を探している可能性もあります。この人は父性不足かもしれませんよね。そこまで考えられて初めて感情と現実を切り離して考えられます」
諏訪は藤宮に対して話しかける
「お前のそういう人の悲観的な感情を詳しく分析出来る超感覚はもはや才能だな。相変わらずすぎて腹立つわ」
藤宮は褒められて嬉しいのかニヤニヤしながら話を聞いていた。
「諏訪さん、皮肉言わないで羨ましいって一言言ってくれると俺は嬉しいんですけどね」
それを聞いた諏訪は鬱陶しそうに藤宮を見つめると話を返した。
「うぜぇ。先輩を立てる事知らねーのかよ。おめぇと雑談している暇ねぇーんだよ。話続けるぞ」
璻はその会話を間近で見ていたが何となく仕事上では諏訪と藤宮は仲はいいかもしれない?と感じ取った。
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・分離不安症
愛着ある人(主に両親や養育者)から離れることに対し、年齢に不相応なほど過剰な恐怖や不安を抱いてしまう。これは大人にも見られます。基本は幼少期の頃に自然と無くなりますが、何かの経験で幼少期の感情が戻った場合不登校、頭痛・腹痛、ストーカー的な行動をしたりします。これは両親が亡くなった時、友達が亡くなった時や恋人との別れにも分離不安が出ることがあります。
・失う事に酷く抵抗があるのは"お金"か、"男性"か?
藤宮が指摘していますがこの2択によって与瀬村あいなが大事にしているものがわかります。
お金で個人的に自由を求めたかったのか?男性によって心の安心感を求めたかったのかの2択になります。パパ活をしている女性に多いのは親(父親)に性的に暴行された幼少期だった経験がありそれが愛情だと思い込んでいる人やお金がなく親にお金で接待させられ売られた子供が多いです。そういう方々は自分の本当の感情に気づいておらず同じことを繰り返すことがほとんどです。藤宮自身そういう依頼主を多く見てきたので分析するのは上手です。ちなみに諏訪はなぜかそういう与瀬村あいなのような人間はあまり得意ではないのでこういう感情メインの仕事は藤宮に回したりします。
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