第6話:移植作業
璻はキョトンとしながら藤宮を見る
「どこを変えるんですか?」
「骨盤底筋のところと仙骨ですかね。骨盤底筋は生きる意志そのものの意志、仙骨はトラウマや感情の場所です。これらが固かったり詰まってたりすると我慢することが当たり前になりますね。あと生きることが嫌になったり、トラウマに飲み込まれて他責思考や依存になりやすかったりします。」
藤宮は狭山の水分子を見続けている
璻は疑問にふと思った。
…記憶を見た場所全て治すのかと思ったけど、違うんだろうか?…
璻は藤宮に質問をした。
「藤宮さん、記憶を見た箇所の水分子を全て治すんじゃないんですか?」
藤宮は顔を左右に振ると静かに応える
「全部治すのは今日中だと無理です。狭山さんが45年間も自分に向き合わず、放置してきた凝り固まった概念と記憶は変えるのは相当時間がかかります。俺らはこの人の根幹に関わる生きる力やトラウマにかかわる場所のみ強制的に介入し変えます。」
璻は藤宮の会話を真剣に聞きつつ考えた。
…45年間も親の概念で生きてきた人にいきなり全部変えるって狭山さん本人にも負担が大きいし水分子を変える藤宮さんにも負担があるのかもしれない。そして何より…
璻は壁にかかってる時計をチラッと見る
…あと残り30分で終わらせないと…
「確かに時間迫ってますものね。承知しました。」
藤宮は璻を見ると的確に指示をする
「では、狭山さんの水分子を璻さんの手に書かれてる水分子の形に変えますので手を見せてもらえます?」
璻は手を広げ藤宮に見せ続ける。
藤宮は璻の手首を掴んだ。
「すみません。少しデコピンします。あと璻さんの水分子を少量借ります。」
璻は藤宮の言ってる意味がわからなかった。
藤宮は璻の手のひらにかかれてる六角形にデコピンをする
手のひらにいい音が響く。
璻はそんなに痛いと思っていなかったが藤宮の力が強く思わず声を上げる
「痛っったぁ。」
もやっと見えるか見えないかくらいの水蒸気が一瞬出てきた。
すかさず藤宮は左手で水蒸気を掴み引っ張ると藤宮の手の中でまんまるの水の球体になった。
璻はそれを見て唖然とする。
…この人が何をやっているのか全然わからない…
「ま、魔法ですか?」
藤宮はニヤッとして璻を見る。
「魔法かぁ。久しぶりに言われましたね。少し水分子が持ってる記憶を抜いただけですよ。俺基本全部覚えられないので。その証拠にほら。手に書かれている六角形の水分子ないでしょ?」
璻は藤宮にかざしてる手を自分の方に向ける
何度も確認し、六角形が書かれていた場所を丁寧に触ると手を握ったり広げてたりする。
やはり、消えている。
璻は驚きながら思わず藤宮に報告する
「ほぉっ、本当に消えてる…」
「ねぇ?言った通りでしょ?これはあとで説明しますね」
璻を見ながらあからさまにニヤニヤする藤宮はスッと表情を変えた。
藤宮は水の球体を狭山の水の近く浮かせた。
「さて…問題の2箇所ですが…同時にやった方が効率良さそうですね。今回は同じ形しか提示されてなかったので水を2つに分けましょうか」
というと藤宮は狭山の水分子を映していた水を手にかざす。
水がまるで藤宮の意思に答えるように2つに分かれ分裂し始めた。
2つに分かれた水はぐるぐると回る。
藤宮は水を見つめながら微笑み
「ありがとう」と水向かってお礼を言った。
藤宮はうーんと考え、少し上を向き天を仰ぐと水分子を見つめる
「まず…そうですね。それぞれ記憶を見た部分を探して…」
浮いてる水を拡大して水分子を見つけ、どんどんどんどん下にスクロールすると先程記憶を見たであろうと思わしき場所に赤く竜胆のマークがついてあった。
藤宮はついニヤッとする。
「さて見つけました。ここ一体ですね。ちなみに見た場所は事前に竜胆のマークをつけておきました」
璻はまさか藤宮がマークをつけているなんて思わなかった。
藤宮は片方の浮いてる水も見ながら拡大し水分子を見つけ、どんどんどんどん下にスクロールする
「ここもあっ…あったあった。もう一つの方ですね。さて準備は整いました。」
藤宮は横にいる璻を見ると「璻さん3歩ほど下がって頂けますか?一斉に治すので」
璻はこれから何をするのか全くわかっていないまま「はい」と答え藤宮からゆっくりと3歩離れる。
藤宮は璻に一礼をする
「ありがとうございます」
藤宮は2つの水を左と右の手で水を浮かせながら、部屋の真ん中に立つと水に映っている赤い竜胆のマークの場所を確認する。
手を合わせ合掌をすると静かに吸って吐いてを繰り返し言葉を唱える
「一切衆生の罪穢れを脱ぎ立所に祓い清め給う」
床から魔法陣のように大きな竜胆のマーク現れると合掌していた手を解き、両手を前に出して指パッチンをする。
いい指パッチンの音が部屋全体に広がる。
次の瞬間、藤宮が一言言葉を放つ
「キラナ」
水の中にあった赤い竜胆のマークが上下に動き、歪んでいた六角形の水分子が消し飛んだ。
藤宮はその場嬉しがると思わず声と同時にガッツポーズをする
「よっしっ‼︎」
次に藤宮は璻の体から拝借した水の球体を目の前に持ってくると球体の水を手で撫で、水が自動に2つに分裂する
2つに分けた水の球体を狭山の水の中に手で押し込む
璻は思わず声に出して言ってしまう
「たっ、体内の水分子を壊して別の水分子を移植をしてるみたい...」
消えた六角形の水分子の部分に移植した水が中に入り、他の水分子をくっつき綺麗な六角形の水分子に変わった
床にあった大きな竜胆のマークは役目が終わったのかスッと光の粒になって床から消えていた
藤宮が移植した2箇所とも水分子に問題ないか確認する。
ホッとする藤宮は2つ分けた水を1つに統合する
「大丈夫そうなんでとりあえず、狭山さんの元に戻しますか」
そういうと藤宮のポッケから竜胆の組子細工を出し手に乗っけると両手を合わせ合掌する
「水面よあるべき場所へ戻り給え」
そう唱えると宙に浮いた水は丸くなり狭山が握りしめている竜胆の中へ吸い寄せられいった。
璻は何があったか全然理解できずにいた。
立ち尽くしている璻に藤宮はぽんぽんと肩を叩く
「璻さんありがとうございました。無事終わりましたよ。とりあえず狭山さんを起こしましょうか?」
璻は状況の理解が出来ないまま寝ている狭山の元に行く。
狭山の体を少し揺らして声をかけた。
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・手のひらにデコピン
身体の中の水は叩くと水分子の形状が変わります。
神社に行くと必ず両方の手のひらを打ち合わせて鳴らすことをしますがあれも魔除けやその場を浄化し気分を変えるという意味があります。「柏手を打つ」とも言いますね。水分子は面白いことに基本音、周波数で形状を変えます。
璻の中に取り込んだものを形状を変えて藤宮が抜き取っています。
ちなみにこの技術は人に寄り添える藤宮だからこそ出来る技術です。他の人はできません。
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