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水流士-因子を解く-  作者: 小野里
- 新人研修編 -

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第68話:優しさの種類

 

 宿舎を出ると穂積と藤宮と璻は歩きながらログハウスに向かっていた。藤宮は急に穂積に話しかけた。


「そういえば、穂積さんは今回初めましてでしたね。さっき獅子子さんにお会いして紹介して頂きましたし」


 穂積はきょどりながら藤宮に返事を返した。


「あああっ……そっ……そうですね。」


 璻は藤宮と穂積が話しているのを後から見ていたが会話があまり発展しないように見えた。



 ……藤宮さんが頑張って会話のキャッチボールをしようとするもきょうちゃんが全てキャッチボールごと地面に叩きつけているように見える……


 このままでは仕事した時も支障が出ると思った璻は思い切って穂積に話しかけた。


「きょうちゃんは藤宮さんの話獅子子さんから聞いたりしていたの?」


 璻の問いかけに穂積は戸惑いながら応える。


「うぅ……聞いていたけど……」


 璻は気になったのか深く穂積に聞く事にした。


「どんな事聞いていたの?」


 藤宮はその話題に興味津々になり璻と穂積の話を隣で聞いていた。穂積は一瞬言葉をためらいながら話し始めた。


「言いづらいんですけど……」


 藤宮は穂積と璻の会話をじっと食い入るように見ていた。よほど獅子子に対して自分の印象が気になる様子に見える。藤宮は沈黙に耐えきれず圧をかけた一言を穂積に呟く。


「ど?」


 藤宮の圧に穂積は怯えながら小声で応えた。


「しし……獅子子さんは……藤宮さんは顔はいいほうなのに悲観的な所ばかり見るのとお節介するからメンヘラばかり集まってくるとか……”優しい”とか単純な褒め言葉しか言われていないけど実際自分が断れない事をいい事に言い訳にしているとか……今の水流士の中で仕事出来るけど1番優柔不断でつまんないメンズって」


 璻は穂積が話していた言葉を聞いた瞬間マズイと思った。


 ……あっーヤバいこれ、藤宮さんが1番傷つくやつだ……



 璻の思った通り藤宮は急に静かになるとなぜかその場に立ち止まり地面に膝をついて四つん這いになっていた。


 璻は立ち止まると後ろを振り返りため息を出した。

 自分の悪い所を初めて会った後輩に言われて立ち直れなくなっている様子が窺える。


 ……藤宮さん、背中から言葉の槍をグサグサと何本も刺されてて言い返せないんだな……


 璻は穂積に声をかける


「きょうちゃん、ストップちょっと言い過ぎ。藤宮さんが落ち込んで立ち上がれないって」


 穂積は後ろを振り返ると頭を下げて謝った。


「あああ、すいません、嘘つけなくて私また…」


 璻はこの話で何となくまた藤宮が傷ついている事がわかる。クリーンヒットだ。


 ……悪気があるわけではないのはわかるけどグサグサとまた……



 藤宮は「うっ……」と言いながらゆっくり立ち上がった。


「獅子子さんはポジティブ思考ですからね。まぁ……わかってましたけど。今のはちょっと……食らいました」


 そう言った藤宮は少し悲しそうだった。穂積はフォローをするように藤宮に話しかけた。



「ふふっ……藤宮さんは優しいですよ。でも獅子子さんから優しさには気をつけたほうがいいと言われてまして。お世話しがちなので優しい言葉をかけられてコロッと好きになった女性は数しれずだとか……それで否定も肯定もせずにダラダラと……その時間マジ無駄だなって……獅子子さんとそんな事を話していましたよ。きっといい人なんだろうなと」


 璻は思わず心の中でツッコミを入れる


……いいいいいっやあああ、それ1ミリもフォローになってないでしょっ!………


 璻は穂積の肩にポンと手を置くと穂積はびっくりするように璻の顔を見た。璻は穂積に話しかける。


「きょいちゃん、それフォローになってないよ。むしろめちゃくちゃ藤宮さんの事けなしてるように聞こえるよ」



 穂積は慌てふためきながら藤宮に対して謝った。


「すみません」


 藤宮は焦っていたのか?璻と穂積の顔を見れずにいた。璻は藤宮を冷たい目で見ると静かに問い詰めた。


「てか、藤宮さん?その話本当ですか?仕事場にも女性関係で揉めてたんですか?何してるんですか?若気の至りにも程がありますけど」


 藤宮は言い訳するように璻に話しかける


「誤解です!穂積さんもうちょっと言葉を柔らかく……」


 穂積は藤宮の話を聞かないフリをしていた。璻は藤宮に話しかける。


「藤宮さん。渦見さんの事言えませんね。私たち先に行くんで……後ろからついてきて下さい。」


 藤宮はシュンとしながら璻と穂積の後ろを歩いていた。

 璻と穂積はログハウスにたどり着くとドアを開け諏訪を呼んだ。


「諏訪さん〜藤宮さん連れてきましたよ」


 諏訪はヒョコっと顔をのぞかせながら玄関の方に歩いていく。


「龍後、早いな来るの……藤宮どこだ?」


 璻は後ろを振り返ると藤宮を指差した。


「あそこですよ」


 諏訪は呆れながら璻に話しかける。


「あーお前ら一緒に来たんじゃねぇのかよ。藤宮おいてくんなよ」


 璻は言いにくそうにしながら言葉を濁すように諏訪に返事を返した。


「いや、ちょっと……」


 璻の隣に立っていた穂積は静かに深く頷いた。諏訪はよくわかっていない様子ではぁっと深くため息を出した。ドアの開いたログハウスを認識した藤宮は諏訪を発見すると駆け寄り挨拶をした。


「おはようございます。諏訪さん」


 藤宮は嬉しそうに話しかけると諏訪もなぜかニヤッとしながら「ああ…もう昼だけどな」と言葉をこぼした。璻と穂積と藤宮の3人がログハウスの中に入る。


 諏訪はふと璻が片手に持っている竹の葉に包んだ物に目が止まった。諏訪は璻に話しかける。


「龍後、その竹の葉なんだ?」


 璻は竹の葉に包んだおにぎりを諏訪に見せながら応えた。


「これですか?食堂のおにぎり……」


 璻の次の言葉が予測出来たのか諏訪は璻に問いかける。


「お前休憩とってねぇーのかよ。とりあえず、それ食ってからはじめっから早く食べろよ」


 諏訪は璻の後ろにいる藤宮に指示を出した。


「藤宮は茶淹れてくれ。全員分な。九鬼はもうすぐ帰ってくるからそれまで藤宮以外休憩」


 藤宮はそれを聞いてはぁっとため息を出す


「諏訪さんは相変わらず人使いが荒いですね」


 諏訪はその言葉に少しイラッとしたのか藤宮に意見を言った。


「1日半もいなかったやつに言われたくねぇな。お前だけここで働いてねぇのは平等じゃねぇだろうが?わかったなら文句言って嘆く前に早くやれ。」


 藤宮は諏訪の言葉を聞きそれもそうだなと納得したのか返事を返した。


「それもそうですね。はい。承知しました」



 藤宮はキッチンに向かうとハーブティーを入れ始めた。


 璻と穂積はとりあえずソファに座る。璻は竹の葉に包まれた梅のおにぎりを手で掴みゆっくりと口へと運んだ。早々と梅のおにぎりを食べ終わった璻の顔は幸せそうにしていた。


 穂積は璻に話しかける


「おおお昼休憩の途中だったんだ。なんかごめんなさい」



 璻は穂積に言葉を返した。


「いいの、諏訪さんに頼まれたし、気にしてないからさ」


 割り箸を持っていた璻は袋から開けると割り箸を割り漬物を食べた。少し酸味があるぬか漬けは噛めば噛む程に味わい深い。璻はもう一つのふきのとうの味噌おにぎりを口にほうばった。ふきのとうの苦味と味噌がご飯にマッチする。璻は夢中になって食べていた。


 ……旬の野菜って美味しいな……



 璻がそう思っているとログハウスのドアがゆっくり開く音がした。足音が近づくと声が聞こえた。


「諏訪さん、戻ったぞ」


 九鬼の声に聞こえた。

 九鬼は璻と穂積に目が合うと話しかける


「諏訪さんは?」


 璻はおにぎりが入った口で話そうとした。


「あほほのほふぅにはいふぅ」


 子供のように無夢中になって食べていた璻の姿を見た九鬼は呆れてしまう。


「お前、食べ終わってから喋れよ。汚ねぇな」


 別の部屋のドアがガチャっと開くと諏訪が出てきた。周りを見渡すと諏訪はテーブルまで移動する。


「とりあえず、全員揃ったな。時間だ。すり合わせを開始する。穂積は個人プロフィールを各自に配布してくれ。ある程度読み合わせたら懸念点を挙げていくからな」


 璻はおにぎりを食べ終わると気合いを入れて立ち上がった。穂積は不安そうな表情で諏訪を見ていた。璻はそんな穂積に話しかける


「行こうかテーブルに!」


 穂積は嬉しそうに頷くと璻と一緒に立ち上がりすり合わせ用のテーブルに移動した。

 

。:*:★。:*:★━━補足ポイント━━★:*:。★:*:。


・獅子子の印象

藤宮は結構悲観的なところがありますが獅子子自体悲観的なところを嫌います。藤宮とは考え方が真逆。優しいことは自分にも他人にもよくないということが獅子子自体わかっていました。絶対に他人にぶれない獅子子からしたら必要以上に他人に寄り添う藤宮は理解できないところもあります。”優しい”という言葉は獅子子の考えからいくと皮肉表現でもあります。他人に使われて都合がいい人を獅子子は”優しい”と表現しがちです。



・ふきのとうの味噌おにぎり

春山菜でもあるふきのとうはふきのとう味噌にすると味わい深いです。

ちなみにこのふきのとうの味噌も女将の手作りです。ふきのとうは解毒・新陳代謝を促進するデトックス効果が高い野菜なので春になるとそしじぃがこぞってふきのとうを山に取りに行きます。


。:*:★。:*:★━━━━━━━━━★:*:。★:*:。

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